使い捨てプラスチック問題――三陸とヨーロッパで考えたこと/~食の明日のために~vol.12
近年、話題となっている海洋プラスチックごみの問題。ヨーロッパではその問題に対する取り組みが確実に行われているなか、まだまだ日本ではその対応ができていない状況です。海洋プラスチックごみ問題の深刻さ、そしてヨーロッパでの生活であたりまえになりつつある、脱プラスチックの現状を、現地の様子を交えてご紹介します。
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食に関わる人間として、海ごみとどう向きあうか
いち早く動いたヨーロッパの国々
今、私たちにできること
食に関わる人間として、海ごみとどう向きあうか
三陸国際ガストロノミー会議(6/10-11開催)で登壇した山口シェフ。問題意識の高さとまっすぐな思いを伝えた講演内容に、参加したジャーナリスト達から称賛の声が多く聞かれた
「フランスから日本に帰ると、プラスチック包装や袋の多さにとても驚きます。コンビニやスーパーで、小さなものを買っても必ず袋を渡されることに違和感があるんです」
これは、今年6月に岩手県で行われた「三陸国際ガストロノミー会議2019」でのひとコマです。フランス・パリ「ボタニック・レストラン」でシェフを務める山口杉朗さんが、登壇時に話した内容の一部。海と持続可能性をテーマにしたこの会議で、料理人として海ごみとプラスチックの問題に触れた切実なメッセージでした。
海に流れ出たプラスチックごみは、多くが海を浮遊し、一部は海の底に沈み、一部は各地の浜に打ち上げられる。日本から流出するプラスチック製海洋ごみも2万トン~6万トンあるとされる(2010年推定/環境省「海洋ごみをめぐる最近の動向」(2018年)より)
近年、海ごみの問題がさまざまなメディアに取り上げられるようになっています。海に廃棄されたり流れ込んだりするさまざまな海ごみのなかでも、世界で年間800万トンとされるプラスチックごみの問題は特に深刻(2015年に学術誌「サイエンス」が発表した数字)。ペットボトルや使い捨て食器、包装パッケージやレジ袋など、食に関わるものが多いプラスチックごみの量は、このままだと2050年までに、海の中の魚の量を上回ると考えられています(2016年のダボス会議で発表された試算)。
海を浮遊するプラスチックごみを餌と間違え、大量に飲み込んだために必要な食べ物を食べられなくなったり、捨てられた漁網に絡まったりして死んだクジラやウミガメ、海鳥などの痛ましいニュースは近年、枚挙にいとまがありません。また一般のプラスチックは長い年月の間に劣化し、5㎜以下のマイクロプラスチックに細分化されて海水中を漂います。魚はそれを水とともに飲み込むことを避けられず、体内に蓄積させてしまうのですが、それが魚自身、またその魚を食べる動物や人間の身体にどのような影響を与えるかは、まだほとんど解明されていないのです。
いち早く動いたヨーロッパの国々
イギリス・オックスフォードで買ったスムージーのカップは石油でなく、植物性原料を使った生分解性プラスチック製。ストローはもちろん紙製
そんななか、特に使い捨てプラスチックの使用量を減らそうと、世界中でさまざまな動きが始まっています。イギリスでは2017年、使い捨てプラスチック製のストローやマドラーを2020年以降に提供・販売禁止にすると発表しました。フランスは、同様の皿やコップ、カトラリー等の販売禁止をうたう法律を制定(2020年1月施行)。また2018年6月には、カナダで行われたG7サミットで、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダの5か国とEUの首脳が「海洋プラスチック憲章※」に署名しています。特にヨーロッパの国々の対応の素早さには、目を見張るものがあります。
※「2030年までに100%のプラスチックが、再使用可能、リサイクル可能又は実行可能な代替品が存在しない場合には、熱回収可能となるよう産業界と協力する」「産業界および中央政府・地方自治体の協力のもと、2030 年までにプラスチック包装の少なくとも 55%をリサイクルおよびリユースし、2040 年までにすべてのプラスチックを 100%回収する。」など目標の年次設定が近いこと、多くの具体的施策を盛り込んでいることが特徴。残念ながらアメリカと日本は署名せず、今年6月に日本で行ったG20でも2050年というかなり先の目標設定しかできなかった。
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イギリス、エジンバラのスーパー、セインズベリーで。高級路線をうたう店舗でなくても、2020年を前にすでにストローは紙製しか売られていない。100本で3ポンド(400円ほど)
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イギリス各地で見られたカールスバーグの広告。6缶パック用に使われてきたプラスチック製のホルダーが海に流れ、生物に絡まるなどして大きな被害が出ているため、缶同士を接着するスナップパック方式に全面変更
じつは私は先月、イギリスとフランスを旅したのですが、両国ともすでにストローはほぼ紙製に置き換わっている状況でした。カップも紙製や生分解性プラスチック製のものが大多数。スーパーやショッピングセンターでは、客はあたり前のようにマイバッグを手に来店していましたが、食品はもちろんのこと、買った洋服もレジでマイバッグに入れて持ち帰る人が多いことに驚きました。結局、3週間の旅のあいだに私が渡されたレジ袋はというとたった1枚きり。ですがこれはあくまで習慣の問題で、マイバッグに慣れてしまえば不自由を感じることは何もないんですよね。
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ロンドンのあちこちで水道水の補給場所を発見。自動販売機のような機械にボトルを入れ、ボタンを押すと「500ml」など指定の水量が出る仕組み
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ボトル購入込みだと2ポンド(約260円)、水だけなら無料。日本でもぜひ普及してほしい!
パリのマルシェでは、置いてある紙袋に野菜や果物を入れて。紙袋も不要ならそのままマイバッグに入れる人も
今、私たちにできること
ディナーサービス後の「ボタニック・レストラン」山口シェフ。「三陸の会議では、外国で暮らす人間だからこそ気づくことを伝えたかったんです」「ヨーロッパで一般的な量り売りなどがスーパーでできるようになると、プラスチック削減に役立ちますよね」と、レストランの2階で
「食に関わる立場の人間ができることとして、明日からでも食品のプラスチック包装をなくしたり、紙製のものに代えたりしませんか?」
「三陸は海を想う気持ちで世界一を目指す、というのはどうでしょう」
冒頭の講演での最後、山口シェフが会場の参加者に提案したのは上のような内容でした。すると会場に座っていた少なくない人数のレストラン関係者が立ち上がり、今後のコミットを約束。彼らの決意に対し、会場から多くの拍手が沸いたことが印象的でした。
日本でも最近、プラスチックに代わるさまざまなプロダクトが作られはじめています。その動きを後押しするためにも、いち消費者として何ができるのかを少しずつ考えていきたいですね。先に述べたように、この問題に関するイギリスの国家としての取り組みは迅速ですが、それは2017年にBBCが人気ドキュメンタリー「The Blue PlanetⅡ/ザ・ブルー・プラネットⅡ」で海ごみ問題を取り上げたところ、国民からの大きな反響があったことがきっかけとも言われています。一人ひとりの声は小さくとも、集まれば大きく響くこともあるはず。脱プラスチックの大きな動きにつなげるためにも、まずはマイバッグを携行し、スーパーやコンビニでレジ袋を断る習慣からはじめてみませんか?
山口杉朗さんがシェフを務める【Botanique Restaurant】
パリの観光エリアとは離れた11区にある、2階建ての「ボタニック・レストラン」。伝統的な技術をベースにした独創的な料理と、カジュアルな雰囲気との絶妙なバランスに連日地元のファンが詰めかける
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住所:71, rue de la Folie-Mericourt 75011 Paris
電話:+33 (0)1 47 00 27 80 -
この記事を作った人
佐々木ひろこ
日本で国際関係論を、アメリカでジャーナリズムと調理学を、香港で文化人類学を学び、現在はジャーナリストとして、主に食文化やレストラン、料理をメインフィールドに取材を重ね、雑誌、新聞、ウェブサイト等に寄稿している。水産資源が抱える問題に出会ったことをきっかけに、若手シェフらと海の未来を考える料理人集団「シェフス・フォー・ザ・ブルー」を立ち上げ、積極的な活動を展開中。
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