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更新日:2019.09.16連載

「まるごと野菜」は世界を変える?! ロスに向き合う食品メーカーの提案/~食の明日のために~vol.13

みなさんは、本来食べられるのに捨てられている食料がたくさんあることをご存知でしょうか? 2050年には、地球規模の食糧不足が起こる可能性があるといわれています。そんな未来に向けて、食材の可能性を広げた取り組みを今回ご紹介いたします。一人ひとりにできることから、さあ初めてみましょう!

「まるごと野菜」は世界を変える?! ロスに向き合う食品メーカーの提案/~食の明日のために~vol.13

食品ロスの今

 近年注目を集めている食の社会課題のひとつに、食べものの廃棄があります。せっかく生産されたのにも関わらず、食べられることなく捨てられる食べものの多さは驚くほど。地球上で生産されている食糧40億トンのうち、なんと約1/3にあたる13億トンもが毎年廃棄されている(※1)と聞けば、誰しも心穏やかではいられませんよね。

 この現状、同じ地球上の9人に1人が飢餓に苦しんでいることを思えば大きな矛盾をはらむうえ、生産とゴミ焼却に必要なエネルギーや水を含む経済的、地球環境の損失も莫大です。2050年には世界人口が96億人に達し、地球規模の食糧不足が起こる可能性を不安視されているなか、この食べものの無駄使いに歯止めをかけようと、ここ数年世界中で様々な動きが見られるようになりました。

※1:FAO国連食糧農業機関の発表

 食糧の廃棄というと「食品ロス」という言葉が一般的ですが、これは「本来食べられるのに捨てられている食品」を指しています(農林水産省による定義)。流通過程での売れ残りや規格外品、購入したけれど使い切れず品質が劣化した食品、家庭やレストランでの食べ残しなどがその代表的な内容で、農林水産省による平成28年度の推計では、日本は年間643万トン、一人当たりにすると51㎏もの食品ロスを生み出しています。消費者の立場として食品廃棄削減を考えるなら、参考にすべきはこの数字でしょう。

 しかし、実は捨てられているのはそれだけではありません。加工食品の製造過程や家庭などで出る調理くず、加工残さ、流通過程で傷んだ分などは食品のうち「食べられないもの」として廃棄されています。平成28年度に日本の国内市場向けとして生産された食材約8,000万トンのうち、先の食品ロスを除いた食品廃棄量は、合計約2,116万トンにものぼります(※2)。

※2:このうち約半量の1,023万トン(主に大豆やふすまなど)が、飼料などとしてリサイクルされている。

「まるごと野菜」は地球にも健康にもやさしい

    ZENBの開発に至った背景と、その製品の魅力を熱量高くプレゼンテーションする株式会社Mizkan Holdingsの新規事業担当、石垣浩司さん。来年には新しい商品も発表予定で、海外展開も予定中だとか

    ZENBの開発に至った背景と、その製品の魅力を熱量高くプレゼンテーションする株式会社Mizkan Holdingsの新規事業担当、石垣浩司さん。来年には新しい商品も発表予定で、海外展開も予定中だとか

 先日、そんな廃棄物を減らすことにも役立つ、素敵なコンセプトの商品試食会に参加しました。会場は白金台のイタリアンレストラン、「センソ」です。この日の主役、「ZENB」(ゼンブ)は野菜を丸ごと使ったベジタブルペーストとベジタブルスティック。ミツカンが立ち上げた新ブランドの製品です。

 ZENBの主原料は、野菜の一般的な可食部に加え、通常なら捨てる部分――例えばパンプキンは皮や種やワタ、えんどう豆や枝豆はサヤ、ビーツは皮、パプリカは種やヘタ、さらにコーンは芯まで――も使い、特殊技術ですりつぶしたペーストです。これにオリーブオイルを混ぜ、かなり濃厚かつなめらかに仕上げたZENB PASTEと、ナッツや雑穀、果汁を合わせてスナックとして焼き上げたZENB STICKは、いずれも野菜そのものの味わいを100%生かすため、原材料に添加物は一切使用していないそうです。

 ZENBの開発チームを率いるのは、新規事業担当の石垣浩司さん。

「人口増加に加えて気候変動が進み、将来、本当に食糧危機が起こるかもしれません。だから、地球が生み出せる食糧をできるだけ無駄なく食べる技術が必要だと思ったんです」

    それぞれの野菜のこれまで捨てられていた部分を使えば、これだけ可食部が増える!

    それぞれの野菜のこれまで捨てられていた部分を使えば、これだけ可食部が増える!

 たとえばコーンの芯、ビーツの皮、枝豆のサヤを可食部として使えば、使用可能量はそれぞれ150%、110%、180%まで増やすことができます。さらに、これまで捨てられていたそんな部分には、実は栄養素がたっぷり含まれていることも証明されてきました。

「食品の廃棄やゴミを減らし、地球に負荷をかけず、さらに人々の健康にも役立つ製品を――ZENBは、そんな思いで開発した商品です」

ZENBを使った料理を食べてみた

 続いて、「センソ」近藤正之シェフの手による、ZENB製品を使ったお料理をいただきました。「お食事前のスナック」に始まり前菜2品、パスタ2品、メイン、デザート、焼き菓子と連なるディナーコースの中に、ZENB 製品を使った皿を数品組み込んだ構成です。

    えんどう豆の甘味と香りが印象的な「スパゲッティ えんどう豆」

    えんどう豆の甘味と香りが印象的な「スパゲッティ えんどう豆」

 一品目のパスタは「スパゲッティ えんどう豆」。ZENB PASTEの「えんどう豆」をブロード(だし)でのばし、パンチェッタとえんどう豆の粒なども一緒にソースに仕立てて、スパゲッティに絡めています。えんどう豆の濃厚な甘味はもちろん、その香りをとても鮮やかに感じたのは、サヤも一緒に使っているためでしょう。ZENB PASTEはペースト状なので、家庭でもいろいろ使えそう。パスタの他、スープなどにも簡単に展開できそうですね。

    「山形県千日和和牛サーロイン パプリカ」。うま味がつまった赤身肉に、パプリカのソースがあいます

    「山形県千日和和牛サーロイン パプリカ」。うま味がつまった赤身肉に、パプリカのソースがあいます

メインの「山形県千日和和牛サーロイン パプリカ」。千日和和牛のステーキに、ZENB PASTE「パプリカ」を使ったぽってりとしたテクスチャーのソースを添えて、ピマン・ド・エスプレット(パプリカパウダー)を振りかけています。鉄分とうま味の強い赤身肉に、パプリカの凝縮感たっぷりの濃厚なソースの相性は抜群でした。

    「水牛ヨーグルト ビーツ」。野菜の自然な色味を生かした一品

    「水牛ヨーグルト ビーツ」。野菜の自然な色味を生かした一品

 デザートはZENB PASTE「ビーツ」を使った水牛ヨーグルトのジェラート。ソースとメレンゲにも同ペーストを使用し、目の覚めるような鮮やかなピンク色に仕上げています。酸味を効かせたジェラートにすることで、ビーツの持つ少し土っぽい根菜の香りが和らぎ、逆にナチュラルな甘味と滋味がぐんと際立っていました。焼き菓子の生地に練りこむなど、デザートでも色々応用できる気がします。

    自然な甘さと食感が食べやすく、これまでの野菜バーとはひと味違ったおいしさの「焼き菓子」

    自然な甘さと食感が食べやすく、これまでの野菜バーとはひと味違ったおいしさの「焼き菓子」

 最後のエスプレッソと一緒にサーブされた焼き菓子のプレートには、ひと口大に切り分けたZENB STICKも一緒に。前列左から、ビーツ、コーン、パンプキン、パプリカのフレーバーです。しっかりした食感、野菜のヴィヴィッドな存在感は、これまでの野菜バーにはなかった味わい。自然な甘さで食物繊維が豊富なので、小腹が空いたときのスナックとして罪悪感なしでいただけそうです。

 食品の廃棄量を減らすためには、とにかく一人ひとりが日々少しずつ、無駄を出さないよう家庭で取り組むことが重要です。でも同時にこのような製品をおいしく使うことで、料理の手間を減らしつつロス削減に貢献できるなら、とても嬉しいですよね。この先製品ラインナップの拡充も予定されているようなので、今後楽しみに待ちたいと思います。

追記)9月12日~23日、東京ミッドタウンでZENBの世界を体験できる展示があるそう。
「野菜とデザイン」、面白そうです!

この記事を作った人

佐々木ひろこ
日本で国際関係論を、アメリカでジャーナリズムと調理学を、香港で文化人類学を学び、現在はジャーナリストとして、主に食文化やレストラン、料理をメインフィールドに取材を重ね、雑誌、新聞、ウェブサイト等に寄稿している。水産資源が抱える問題に出会ったことをきっかけに、若手シェフらと海の未来を考える料理人集団「シェフス・フォー・ザ・ブルー」を立ち上げ、積極的な活動を展開中。

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