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更新日:2021.01.26グルメラボ

料理人の愛読書をご紹介「シェフの本棚」|【弁天山美家古寿司】親方内田 正さん

料理人の方々がどんな本を読み、どんな学びを得ているのか――、そんな料理人の愛読書をご紹介する「シェフの本棚」。自身も寿司に関する本を書き、正統な江戸前の仕事を守る生粋の職人・内田正さん。70歳を越えた今でも一日中仕事漬けの内田さんだが、日々の楽しみは就寝前30分間の読書だという。お気に入りを3冊教えていただいた。

【弁天山美家古寿司】親方内田 正さんの愛読書

~愛読書をご紹介してくださるのは~
【弁天山美家古寿司】 内田 正さん
  • 1943年、浅草【弁天山美家古寿司】の5代目として生まれる。幼少期から寿司職人になることを志し、家業を手伝いながら江戸前の仕事を学ぶ。立教大学卒業後、正式に先代に弟子入り。過去に、寿司職人の仕事と江戸前寿司をひもとく『これが江戸前寿司』も出版する。

「たかが」ではなく、「されど」寿司屋の心意気で

寿司職人に人格は必要か、否か。江戸時代から脈々と続く寿司屋の5代目に生まれた私は、物心が付いたころから、そんなことを考えていました。成り行きにまかせて寿司の道に入ることはたやすく、よくある話かもしれません。でも、私自身はそれをすんなり受け入れられなかった。どうせやるなら、己の意志のもとに決断したかったのです。

    『幸福論』カール・ヒルティ/岩波書店

    『幸福論』カール・ヒルティ/岩波書店

その葛藤のさなか、当時、ありがたくも大学に通わせていただいていた私は、ある授業の参考文献として『幸福論』と『進路指導の基礎知識』の2冊に出合い、霞が晴れたような心地になりました。どんな仕事をするにせよ、働くということに変わりはない。ならば、どの職業を選ぼうとも、詰まるところ大差ないのではないか。寿司職人はお客様のために寿司を握ると同時に、仕込みも、店の経営もやらなくてはならない。一人で3役もできるとは恵まれている。そう、私なりに解釈したんですね。

    『鮓・鮨・すし すしの事典』𠮷野 昇雄/旭屋出版

    『鮓・鮨・すし すしの事典』𠮷野 昇雄/旭屋出版

それからは、自覚も芽生え、責任を持って寿司屋の看板を背負っていこうとなったのですが、ふと、寿司はただ握っていればいいものではないということに気がついた。寿司には歴史がある。作法がある。伝統ある寿司屋を継ぐならば、知らないことがないようにしたいと思い、われわれの職業上の大先輩が著した『鮓・鮨・すし』で学ばせてもらいました。

    『浅草のおんな』伊集院 静/文藝春秋

    『浅草のおんな』伊集院 静/文藝春秋

75歳の今は、すっかり分厚い本を敬遠するようになりましたが、活字との付き合いは大切にしています。この間も、なじみのスナックのママと、わが浅草を舞台にした伊集院静さんの小説で盛り上がりましたっけ。映画化したら主役は誰に、脇役は誰に、なんて話を延々と(笑)。 誤解を恐れずに申し上げますと、たかがスナック、たかが寿司屋でやるなら、材料を仕入れ、お客様に提供し、商いすれば済むでしょう。けど、私は、されど寿司屋でありたい。だから、技を磨くだけでなく、自分の知識を肥やす。それは、寿司職人としての私の人格でもあるのです。

~内田さんの愛読書3選~ 『幸福論』
  • カール・ヒルティ/岩波書店

    いわゆる「世界三大幸福論」のひとつ。スイス人の思想家が、「生きる喜びは仕事と共にある」という現実主義的なスタンスで、幸福に近づくための具体的なヒントを論じている。

『鮓・鮨・すし すしの事典』
  • 𠮷野昇雄/旭屋出版

    1879年から続く「𠮷野鮨本店」の、今は亡き3代目が1990年に上梓した、“握り寿司学”の集大成。歴史から調理技術まで、寿司の全貌を明らかにして、その魅力を伝えている。

『浅草のおんな』
  • 伊集院 静/文藝春秋

    浅草の小料理屋「志万田」のおかみ・志万が17歳のときにほれた男を追って東京に出てきて、浅草の女になっていく姿を描いた小説。美しい情景描写と繊細な心理描写がさえる。

いかがでしたか。料理人の愛読書「シェフの本棚」も掲載されている冊子「hitosara quarterly magazine」は、グルメサイト「ヒトサラ」が加盟店様向けに発行している食のトレンドブックです。日本から世界まで、あらゆる角度から食の情報を集めています。下記リンクより試し読みもできます。ぜひチェックしてみてください。

この記事を作った人

撮影/佐藤顕子(書影)、ヒトサラ編集部(人物) 取材・文/甘利美緒

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