今、人気の「サカエヤ」新保吉伸さんの近江牛を食べるならここ!【イルジョット】の『近江牛のステーキ』|今月のヒトサラ
今、料理人の中で取引をしたい声が続出しているのが、精肉店「サカエヤ」の熟成近江牛や、愛農ポーク。肉の目利きである店主・新保吉伸さんは実際に店に足を運び、”この人なら”と信頼できる料理人だけに、自身で手当てした肉を送る職人だ。その職人入魂の肉を、これ以上なく薫り高く焼き上げるのが【イルジョット】の高橋直史さん。この店の近江牛のステーキは一味も二味も違う。
今月の一皿は【イルジョット】の
『近江牛のステーキ』
ステーキからフレンチ、イタリアンに至るまで“腕に覚えあり”の肉の巨匠は数多い。そんな並み居る肉焼き名人の中でも、彼ほど軽やかに、かつ楽しげに肉を焼く料理人を私は見たことがない。その彼とは、高橋直史さん。駒沢公園にほど近い、知る人ぞ知る熟成肉の名店【イルジョット】のオーナーシェフだ。
高橋シェフがイタリアンの世界に入ったのは20歳になってまもない頃。広尾【イルブッテロ】で7年間修業。その後、エミリアロマーニャ州で約二年間腕を磨き、この駒沢の地に店を構えたのは2002年のことだ。
その後、2011年に現在の場所に移転。自宅兼レストランの真っ白な一軒家へと生まれ変わった。そして、稀有な肉焼きスペシャリストへと進化していったのもちょうどその頃。そこには、滋賀の精肉店「サカエヤ」の代表にして稀代の肉職人、新保吉伸氏との出会いがあった。
骨から肉を外す高橋直史シェフ、48歳。肉が店に来たときと、時間を置いた今とでは味わいも、焼き方も当然変わってくる
当時を思い出しつつ、高橋シェフが次のように語る。
「もともとは魚介や野菜がメインのイタリア料理店で、僕自身、熟成肉に関しては話に聞いてはいたものの、口にしたことはありませんでした。それが、新保さんが手当てした熟成肉を食べてそれまで経験したことのない独特な味わいに衝撃を受けたんです。正直、こんなカビだらけの肉、大丈夫かなって最初は思ったんですけどね。」
それから、新保さんとの二人三脚が始まった。現在、【イルジョット】で扱う肉は、すべて新保さんメイド。その中には、近江牛はもちろん、ジビーフや短角牛、ジャージ牛etc.一筋縄ではいかない牛肉も多々届けられる。(もちろん、あの愛農ポークも。)
藤井牧場の近江牛ランプ肉。飼育日数は30ヶ月。ランプ肉が骨つきのまま送られてくるのは極めて珍しい
私が訪れた日、店奥の熟成庫に眠っていたのは は“鹿児島の11年経産牛のからし”、“鹿児島産12年経産牛の熟成”に“北のあか牛のからし”等々6種類ほどの肉塊。中には、フレッシュな状態で届き、そのまま店の熟成庫内に潜む上質な菌に覆われ旨味を増していく牛肉もあるそうで、数ある中から迷った挙句、今回は、店で熟成された近江牛のランプ肉を注文した。
高橋シェフの手元に届いたのは1ヶ月半ほど前だという。「飼育日数30ヶ月の近江牛で、ランプ肉としては珍しく骨つきのまま送られてきたんです」との高橋シェフの一言が決定打となった。そう、骨つきだからこそ、熟成庫で寝かせても意味がある。小豆色の表面を削ると、50日近くも経っているとは思えぬ鮮紅色の断面が現れた。(ちなみに“からし”とは、枝肉のまま吊るして乾かして熟成させる日本の伝統的な技法。カビ漬けをしないためいわゆる熟成肉のような熟成香はない。)
厚さにして4㎝。これが美味しく焼くために必要な厚さだ。肉は常温に戻さず、冷たいまま炭に近づけ、外側と内側の温度差をつけて焼き上げる
熱源は炭。肉はある程度の厚さで焼かないと旨く焼けないのはニクヤキストの鉄則だ。高橋シェフが骨から切り離した肉塊は、厚さにしておよそ4㎝強。これほどの厚さの肉に中まで火を入れようと思えば、まず低温調理法が頭に浮かぶ。だが、高橋シェフは、なんとその肉塊をあたかも炭に直接のっけているかのような近さでガンガン焼き始めた。ストレスかけまくり!のごときワイルドな焼き方だ。しかも、リズミカル。チョチョイと軽やかに焼くその様は、あたかも野外BBQを楽しんでいるかのようにも見える。
「炎の外で焼くとすすけるけれど、炎の内側で焼けば大丈夫。強い火力が欲しいんです。」とは高橋シェフ
「強火で焼くのは、肉の表面の香ばしさが欲しいから。フレッシュの時にはもっと強い火で焼いていましたよ。」とは高橋シェフ。
あえて炎を立たせ、その内側の火で肉を焼き切ると言う。フレッシュ、からし、熟成とそれぞれの肉の水分量は違う。当然、それに合わせて焼く手順、火の強さ、休ませる時間等々も全て変わってくる。肉の個体差もあるだろうから、その見極めは一口には言えまい。まさに職人技。「まぁ、場数は踏んできましたから」そう言って微笑む高橋シェフ。続けてこうも一言。「うちに合う肉を、新保さんが選んできちっと手当てしてくれる。そのおかげです。」肉職人と料理人、この2人の互いを信頼し合う阿吽の呼吸があればこそ、【イルジョット】の肉は、最高の美味に昇華されるのだ。
「最初に強火で燒き、周りに皮を作り中を温めていく」のが高橋流。その成果が、周りにほ1㎜程度しかない焼きめと真紅の肉面に現れている
時折休ませつつ焼き上げた肉は、表面は焦げ色ながらその断面は鮮紅色の光沢を帯び、肉汁は滲み出るものの、皿は汚れない。そして何より見事なのは、グラデーションのない均整のとれたその切り口。肉の周りにだけ僅か1ミリ程度の焼き色があるのみ、表面は焦げ色ながら、カットされた面は真紅に潤っている。
中はレアだが、しっかり嚙み切れる柔らかさ。噛みしめる美味しさをぜひ。付け合わせのセルフィーユの根っこが、また、甘くて美味。今日のステーキは 8,000円(250g約2人分)
このグラデーションのない焼き上がりこそ、高橋シェフの目指すところ。歯を入れれば、サクリと歯が入る。期待通りのその噛み心地よさに思わず口元がほころぶ。歯ごたえのある柔らかさとでも言えば良いだろうか。ガシッと噛みしめる旨さを存分に楽しませつつも軟弱ではない。
芳ばしい肉の風味と口中に広がるピュアな肉汁の旨味が渾然となり、食欲中枢をダイレクトに刺激する。本能的な旨さなのだ。
それはまた、高橋シェフが自らの本能のおもむくままに肉を見極め、焼き上げているからにほかならない。
【イルジョット】高橋直史シェフから一言
当店ではメニューはあってないようなもの。肉も含めてその日のおすすめを口頭でお伝えしています。もちろん、お好きな方には、熟成庫のお肉を直接ご覧になって、自分の目で見て選んでいただいても。それぞれ個性がありますので、何人かでいらして、食べ比べしてみるのも楽しいですよ。
この記事を作った人
撮影/佐藤顕子 取材・文/森脇慶子
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