更新日:2021.03.25食トレンド
2020年「アジアのベストレストラン50」全リスト発表!|日本最高位は【傳】の3位、日本からは新店を含む12店がランクイン
世界のフーディたちが注目するレストラン格付け「アジアのベストレストラン50」。初の日本開催、佐賀県・武雄市で開催されるはずだった2020年の授賞式は、新型コロナウイルスの影響により中止、急遽オンラインストリーミングによるバーチャルイベントという波乱の発表となりました。2020年、アジアで最も注目を集めたシェフたちは? 受賞日本人シェフたちのインタビューをまじえレポートします。
世界が経験したことのない、未曾有の危機の中での発表
2020年3月24日。今回の「アジアのベストレストラン50」の発表は忘れられない会となりました。この日、本当であれば佐賀県・武雄市で世界中からメディアやシェフが集まり、アジアのベストレストランに選ばれたシェフたちを祝っていたはず。しかし1月末からあっという間に世界に広がった新型コロナウイルスの影響で授賞式は中止に。リストインしたレストランは主催者、ロンドンのウイリアムリード社がライブストリーミングで順次発表し、東京では受賞した日本人シェフと報道陣が小規模で集まり、バーチャルイベントを見守るという異例のものとなりました。
東京で行われたバーチャルイベントで集合した日本人受賞シェフたち
ストリーミングはイベントのコンテンツ・プロデューサー、ウィリアム・ドリュー氏からのメッセージで始まりました。
今回の発表は、アジア中のシェフ、レストラン経営者、ガストロノミー有識者と協議を重ね公開を決断したこと。また、この発表は、”祝賀”ではなく、才能あるレストランの”認識”であること。多くのレストラン業界がサポートを必要としている今だからこそ、レストランのチームや個人の才能を認め、お互いへの尊敬のシェアが大切だということ。そんな思いが語られ、参加者は皆静かに聞き入っていました。
「今回の表彰の主眼はアジアを支えることにあります。この発表は暗い日々の中、ポジティブな光をもたらすでしょう。つながりを断ち切らず、一丸となり、事態が好転したときのために備えましょう。皆様の幸運を祈ります」という言葉で締めくくられ、授賞式開催予定地だった佐賀県の紹介動画、そして【世界のベストレストラン50】受賞シェフから寄せられたメッセージ動画へと続き、順位の発表となりました。
1位は2年連続シンガポール【オデット】、日本最高位【傳】も3位変わらず。日本からは新しく2店がランクイン
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1位【オデット】シェフ、ジュリアン・ロイヤーシェフ
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いつもとは違う雰囲気のなか、30分ほどで全ての順位が公表されました。栄えある1位は2年連続でシンガポールの【オデット】という結果に。日本最高位は【傳】の3位(2年連続)。さらに日本勢は12店がランクインし、去年と同数で入賞最多国となりました。第2位の香港の8軒を大きく上回り、日本の食はアジアの中でも頭一つ抜けた存在感をキープしているといえるでしょう。
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3位【傳】長谷川在佑シェフ
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日本勢では、テレビドラマ『グランメゾン東京』でも話題となった【イヌア】が初登場49位、『ドラゴンボール』などフォトジェニックなスペシャリテを持つ【オード】が初登場35位となり注目を集めました。
【オード】の生井祐介シェフは、「店をオープンした時から、“アジアのベストレストラン50”に入ることを目標にしていましたので、素直に嬉しいです」と喜びをコメント。2018年ごろから積極的に各国のシェフたちとコラボレーションを重ね、徐々に海外のお客様の認知度が増えたといいます。
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初登場35位【オード】生井祐介シェフ
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一方アジア全体を見てみると、7軒のニューエントリーが。インドからは【ブカラ】が再エントリーし、インド勢が2店舗に。また、去年の授賞式開催地となったマカオの【シチュアン・ムーン】がハイエストニューエントリーで23位にランクイン。授賞式に合わせ店をオープンし、各国から集まったフーディやジャーナリストが食べた結果が明らかに反映されたといえるでしょう。もしも佐賀で授賞式を行なっていたら、来年日本の、九州のレストランの躍進にどれだけの影響があったか。そうしたことに思いをはせずにはいられません。
去年6位だった【ウルトラバイオレット バイ ポールペレ】(上海)が41位に順位を落とし、22位だった【ナーム】(バンコク)は圏外に、一方11位だった【ザ・チェアマン】(香港)が一気に2位に躍り出るなど、ランキング内の順位の振れ幅が激しい結果に。
こうした順位について日本評議員の中村孝則氏に伺うと「まさに群雄割拠、10位以上の上位の得票数は僅差だと考えられます。ですから1票の差が大きく順位に反映されてしまう。また予約が取れない店は、物理的にボーターが行くことができずに得票数を落としていることも考えられます」と分析しています。
”シェフが選ぶ、料理界のアイコン”に【菊乃井】村田吉弘氏が選出
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【菊乃井】村田吉弘さん
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個人的に一番注目したのは、「アメリカン・エキスプレス・アイコン賞」を受賞した【菊乃井】村田吉弘さん。今回の50位のリストには入っていないものの、“国際的な賞賛に値する外食産業全体への貢献により、国際的な料理界のアイコンと呼ぶべき店”に授与される賞に選ばれたのです。
村田さんは、ミシュランの三つ星に輝く料亭【菊乃井】三代目主人でありながら、2004年にNPO法人「日本料理アカデミー」を創設。日本料理の発展を図るため、日本の食文化を次世代につなぐ活動や世界の料理人との交流を積極的に行ってきた人物です。2013年、和食の無形文化遺産への登録にも尽力されました。
「今回の賞は、アジア各国のシェフたちの投票で選ばれたと聞いて嬉しく思います。私が『日本料理アカデミー』を立ち上げたのは、日本料理を”世界の料理”にしないといけないと思ったから。このアカデミーでは毎年世界各国から5人ずつ研修生として料理人を迎えています。今、海外でも”うまみ”という言葉が通じる時代だけれど、30年前は誰も知らなかった。世界の料理人が日本料理を知ってくれて、さらに日本の若い料理人が世界で評価される姿を見るのが嬉しいです。時代の変化の中で、私が作った礎に彼らがちゃんと家を建ててくれている。次世代を育て、バトンを渡していくのが喜びです」と村田さんは笑顔でコメントしてくれました。
そんな村田さんが最近考えるのは、"SDGs"をどう実行していくのかということ。少なすぎる食料自給率、第一次産業の高齢化、後継者問題。食を巡る未来の課題をどう解決するかを真剣に考えなければならないと語ります。
「ベストパティシエ賞」、「シェフズチョイス賞」も日本人シェフが受賞
また、今年の「アジアのベストパティシエ賞」には【エテ】の庄司夏子シェフが受賞。日本人女性の才能がグローバルに認められた嬉しい結果となりました。 彼女は今回7位にランクインした【フロリレージュ】でスーシェフを務めた人物です。
昔からファッションが好きだったという彼女のインスピレーションはシャネルやディオールなどトップメゾンのクチュリエの手仕事。「常に現状打破に取り組み、旬を軸にして動き、品質と完璧さの価値を共有できる起業家として、ペストリーを驚異的なレベルに引き上げる」(ヴァローナ社ゼネラル・マネージャー クレモンティーヌ・アルジアル氏)と、その技術だけでなく、経営的視点、プロデュース力も高い評価を受けました。
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【エテ】の庄司夏子シェフ
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そして、”シェフたちが選ぶベストシェフ”という栄誉ある「シェフズ チョイス賞」を受賞したのは【ラ・シーム】の高田裕介シェフ。順位も去年の14位から10位と大きく上げました。
「シェフから選ばれるという賞は感動もひとしおです。自分の技術を料理の精度を日々上げていく努力をしているつもりではいますが、こうした賞をいただけると素直に嬉しいです」
高田シェフは日々自分の料理の世界観を視覚的に訴えることもコツコツと続けてきたそう。現在、彼のインスタのフォロワーは1.4万人。言葉ではなく写真で伝えられるSNSはグローバルなコミュニケーションとして役立っているといいます。
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【ラ・シーム】高田裕介シェフ
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これから、どうしていくべきなのか。本質が問われる時代へ
誰もが予測しなかった未曾有の危機が起きている今、受賞シェフの間にはいつものような祝賀ムードはありませんでした。
ここ数年ずっと日本1位として日本勢を引っ張ってきた【傳】の長谷川在佑シェフ、日本2位の【フロリレージュ】川手寛康シェフは、今回の受賞についてこう語ってくれました。
「今回の順位、というかこうした発表について複雑な気持ちです。いつもチームのみんなと一緒に喜びを分かち合ってましたが、今日は一人でさみしいですね。こうした有事の状況だからこそ、日々の積み重ね、お客様を喜ばせることに向き合うことの大切さを身に染みて感じます。ファンがいてくれるから、僕たちがいる。そう思います」(長谷川シェフ)
「今回のバーチャルイベントは忘れられないものとなりました。7位をいただいたと喜ぶことは正直できません。今、世界中には料理ができない状況のシェフたちがたくさんいる。僕たちは料理ができている分、まだ恵まれていると思います。こういうときだからこそお客様の支えがありがたい。こうした厳しい状況の渦中ではやはりレストランも本質が問われてくると思います。今後はより淘汰されて本当にゲストが楽しめる店だけが残っていくのではないでしょうか」(川手シェフ)
左から、【フロリレージュ】川手寛康シェフ、【オード】生井祐介シェフ、【傳】長谷川在佑シェフ、【ラ・メゾン・ドゥ・ラ・ナチュール ゴウ】の福山剛シェフ、【ラ・シーム】高田裕介シェフ
今回”バーチャル”という人との直接的な交流の制限があったからこそ一層感じたことがあります。それは、お互いの才能をリスペクトしあい、時にライバルとなって刺激を受け、考えていることをシェアし、問題提議をしていく。そうした動的な交流こそが、この賞の意義なのだということ。【アジアのベストレストラン50】や【世界のベストレストラン50】は、今までなかったシェフたちの横のつながりをもたらし、文化が混じり合う化学反応を促し、料理界の新しい発想の源になり、国の活性化にもつながる”食の力”を生みました。
確かに有事の今だからこそ、こうした賞の発表はシェフたちにポジティブな光をもたらす一助になりえるでしょう。一方、それだけでなく国境も世代も超えて一致団結し、この未曾有の危機をどう乗り越えるか。この厳しい状況下、皆の知恵と経験を結集し、未来へ繋ぐことができるのか、まさに今、その真価が問われているのだと思います。
取材・文/山路美佐(ヒトサラ 副編集長)
「アジアのベストレストラン50」ランキング
2020年の順位は以下の通り。
1位【オデット(Odette)】シンガポール
2位【ザ・チェアマン(The Chairman)】香港
4位【ベロン(Belon)】香港
5位【バーント・エンズ(Burnt Ends)】シンガポール
6位【ズーリング(Sühring)】バンコク
8位【ル・ドゥ(Le Du)】バンコク
9位【ナリサワ(Narisawa)】東京
11位【レザミ(Les Amis)】シンガポール*Gin Mare Art of Hospitality Award
12位【ヴェア(Vea)】香港
13位【インディアン・アクセント(Indian Accent)】ニューデリー
14位【ミングルス(Mingles)】ソウル
15位【ガア(Gaa)】バンコク
16位【ソーン(Sorn)】バンコク*Highest Climber Award
17位【ブルガリ・イル・リストランテ ルカ・ファンティン(Il Ristorante Luca Fantin)】東京
18位【ムメ(Mume)】台北
19位【ネイバーフッド(Neighborhood)】香港
20位【Fu He Hui】上海
21位【ジャーン by カーク・ウエスタウェイ(Jaan by Kirk Westaway)】シンガポール
22位【ウィン・レイ・パレス(Wing Lei Palace)】マカオ
23位【シチュアンムーン(Sichuan Moon)】マカオ*Highest New Entry Award
24位【日本料理 龍吟】東京
25位【セブンス・サン(Seventh Son)】香港
26位【ジェーエルスタジオ(JL Studio)】香港*new entry
27位【トクトク(TocToc)】ソウル
28位【ゼン(Zén)】シンガポール*new entry
29位【茶禅華】東京
30位【ミニストリー・オブ・クラブ(Ministry Of Crab)】コロンボ
31位【アンバー(Amber)】香港 *sustainable restaurant award
32位【オット エ メッツォ ボンバナ(8 1/2 Otto e Mezzo Bombana)】香港
33位【龍景軒(Lung King Heen)】香港
34位【韓食空間(Hansikgonggan)】ソウル*new entry
36位【ロウ(Raw)】台北
37位【ロカヴォール(Locavore)】バリ
38位【ペースト(Paste)】バンコク
39位【ボラン(Bo.Lan)】バンコク
40位【ラ メゾン ドゥ ラ ナチュール ゴウ(La Maison de la Nature Goh)】福岡
41位【ウルトラバイオレット(Ultraviolet)】上海
42位【コーナー・ハウス(Corner House)】シンガポール
43位【祥雲 龍吟】台北
44位【トーヨー・イータリー(Toyo Eatery)】マニラ
45位【ブハラ(Bukhara)】ニューデリー*re entry
46位【鮨 さいとう】東京
47位【80/20(エイティ・トゥエンティ)】バンコク*new entry
48位【レフェルヴェソンス(L’Effervescence)』東京
49位【イヌア(Inua)】東京*new entry
50位【ヌーリ(Nouri)】シンガポール
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「アジアベストレストラン50」の選出方法
2020年『アジアのベストレストラン50』は6の地域から選出される、食のエキスパート318人の投票者によって選ばれた。2019年は35%の投票者が新たに加わり、一人の持つ票は10票。うち6票は自国のレストランに投票できるが、4票は他国にいれなければならない。各地域の投票者は男女同割、シェフ、フードライター、フーディーズそれぞれ3分の1ずつで構成される。
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