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更新日:2017.04.19食トレンド 旅グルメ 連載

ヒトサラ編集長の編集後記 第6回 千葉【寿司栄】~のどぐろのお椀を寿司劇場で

メディアが取材しようとしても、なかなか大将が受けてくれなくて・・・という話はきいていたので、邪魔にならない程度で話してみようと、出かけてみたわけなのです。

取材NGの寿司屋さんの魅力

 「取材は基本お断りしてるんです。でも、編集長のエッセイならいいかぁ」寿司栄のご主人、佐藤賀津廣さんはそう言って私の要求に応えてくれました。そのときの何とも言えない得意気な顔がチャーミングで、これは通いたい寿司屋になるな、と瞬間思ってしまいました。この店を紹介してくれた人が、「寿司も極まってるけど、それ以上に素敵なのは大将のドヤ顔」と言ったのも納得です。寿司屋さんのようなさらしの場では、ご主人の魅力に客がつくのがよくわかります。やはりここは劇場なのです。

日本酒をシャンパン風に、突出しをアミューズ風に

    住宅街にある普通のお寿司屋さんですが・・・

 その寿司栄は千葉駅からタクシーで5分ほど。住宅地の一角にあるごくふつうの佇まいで、慣れないと見落としてしまいそうなお店です。なかなか東京からここまで出かけるのは手間ですが、それでも多くの寿司好きがこの店を目指し、大将のマニアックともいえるこだわりを楽しみに出かけるようです。
 ただ、メディアが取材しようとしても、なかなか大将が受けてくれなくて・・・という話はきいていたので、邪魔にならない程度で話してみようと、出かけてみたわけなのです。

  • 満寿泉 R

  • 煮こごりと合わせて

 暖簾をくぐるとカウンター、それと離れがひとつあります。ごく普通の寿司屋さんの風景です。夏のある日の夕方7時にお邪魔しましたが、席は満席、ビールの小瓶で喉を潤していたら、いきなりお通しで卵の煮こごりが出てきました。卵の中身を抜いて、煮こごりを閉じ込めたもので、フレンチのアミューズの感覚です。それに合わせるかのように、満寿泉の「R」。これはドンペリの酵母でつくっているとご主人。へーと関心していたら、お酒のセレクトもなかなかおもしろいでしょう、と、この寿司栄に案内してくれた人が私の隣でささやきます。ご主人もこちらを見て満足そうな顔。

 朝ジメのヒラメ、それから3日寝かせたマコガレイ、エンガワの炙りが、さりげなくポンポンと出てきます。ポン酢でいただきます。ヒラメはシンプルな塩が効いていてサッパリ、マコガレイは甘く、炙りは生より脂ののってる感じが強調され、白身の三段変化が楽しめます。

  • オコゼの肝でいただく

  • わさびはたっぷりと

 ご主人がオコゼの肝をポン酢に入れてくれます。これでオコゼの刺身をいただきます。ご主人がわさびをすります。富士山の伏流水12度くらいのところで成長した立派なわさびで、水の透明度が高いほど、わさびは白くなるらしいです。
 のどぐろが出てきます。たっぷりわさびをのせて、とご主人がのどぐろの刺身にどんとのせてくれます。こんなにわさびをのせるの、と思いますが、舌を刺さない風味豊かな野菜のようなわさびが、のどぐろの脂と見事に合わさり、濃厚ですっきりという食感が味わえます。のどぐろのすなずりです。エンガワと同じく歯ごたえとねっとりした食感、これもわさびをたっぷりのせていただきます。
 「R」のようなフルーティで華やかな吟醸酒を合わせると、イノベーティブな料理をいただいているような感じになります。
 寿司屋の風景にシャンパンやワインが入るようになって久しいですが、料理もお酒もジャンルを越え、カウンターではインターナショナルな風が吹いています。これが銀座なら、さもありなんという風景なのでしょうが、千葉駅から少し入った閑静な住宅街の寿司屋のカウンター、というところに不思議な魅力を感じてしまいます。

    アワビ、うに、キャビア。宝石のような一皿

日本中のうにを同時に楽しんで

 蒸しアワビにうにとキャビアの一品です。「アワビもうにも昆布を食べてるから美味しいんです」とご主人。でもキャビアは違うよな、とわれわれはつぶやきながらも、これは彩の妙。 宝石のような一皿です。
 「まぐろとうには、安定供給の必要から築地を使うけど、あとは日本中から取り寄せる」とご主人。そういいながら出してくれたのは、うにの3種盛。「この時期は日本中のうにが同時に楽しめます。上は利尻、左は函館、右は唐津。実はもう一か所から入れる予定だったんだけど、入らなくて・・」と残念顔です。充分ですよご主人。唐津ものが小ぶりながらも甘さが際立ち絶品です。

  • うに3種。利尻、函館、唐津

  • ハナサキガニ

 豊かな風味を湛えた熟成シマアジ、塩昆布と山椒に旨みを引き出されたキンメ、そしてハナサキガニへと続きます。「ハナサキガニも昆布を食べてるから旨い、今日は昆布シリーズだ」とご主人はなんだか嬉しそうです。
 蟹味噌が出てきて、ネクストファイブ(Takashi Murakami × NEXT5)をいただきます。これは秋田の蔵元の有志会(「白瀑」「ゆきの美人」「春霞」「一白水成」「新政」の酒造家5名)とアーティストの村上隆さんとのコラボになる限定酒で、伝統と現代がクロスオーバーするカウンターにまたひとつ花を添えます。

  • ネクストファイブ

  • シンコ10枚付け

 キンメのエンガワ、につづいて、どうだといわんばかりのシンコ10枚付け。シンコは3枚付けくらいがいいのでは、と個人的には思うのですが、ここまでやられると恐れ入りますと頭が下がります。「シンコは高い時はキロ15万。1匹500円くらい。原価ですよ。だから10枚付けなら一貫5000円、完璧赤字の一品ですよ」。ご主人は笑います。

のどぐろのお椀は業界初?

 後半に入り、のどぐろ、トロのミルフィーユ風。鮪のトロを薄く切って下に毛ガニが敷かれています。トロの豊かな脂と毛ガニの甘さが赤酢のシャリと見事にからみ、デザート感覚というか、箸休め感覚で楽しめます。どうして、こんなにいろんなバリエーションを考えられるんですか、と問うと、「寿司握ってると、いろんなアイデアが下りて来るんです」とご主人。ご満悦のドヤ顔です。

    トロのミルフィーユ風

 どーんと目の前に見せてくれたのが富山のエビ。「これ握りますよ」。肉厚で豊かな甘み、ほのかな塩気にねっとりからむ食感。海鰻のにぎりは、外をパリッと焼いたふわふわの鰻をポン酢で。けっこうお腹はいっぱいになっていましたが、この焼物が入ることで、まだ食べられると思えるように。

  • これ握ります

  • ねっとり甘い海の恵み

 越前高田のイシガキダイ。トリガイの仲間。深い甘みがあります。
 そして、「手を出して」と、手にのせてくれるのは、うにのにぎり、もうひとつ、いわしのにぎり、白エビのにぎりときて、さあどうだといわんばかりの、のどぐろのお椀。のどぐろの大きなカマがどーんと入ったお椀です。
 「これは業界初ですよ。大変なんですから、これつくるの」と言いながらも、またもやご満悦のご主人。のどぐろの豊かな風味がぎっしり詰まった贅沢なお椀です。

    のどぐろのお椀

 最後は玉子焼が出て、ほおずきが出ました。玉子焼きにはかつおだしとワインとはちみつと醤油、みりんなどが入っているそうです。「企業秘密だけどね」、とご主人は笑います。
 日本中の魚がご主人のこだわりのなかで、実にユニークに展開され、われわれが喜ぶ顔に、どうだといわんばかりの可愛いドヤ顔。
 次回はお酒のバリエーションももっと味わおうと思いました。お酒も込みで2万円ほど。つい長居をしてしまいました。高いと言えば高いのかもしれません。でも東京でこれを味わうと倍くらいかかりそうな気がします。
 なんだか帰るのがもったいなくなるような、千葉の寿司劇場でした。

 

この記事を作った人

小西克博(ヒトサラ編集長)

北極から南極まで世界を旅してきた編集者、紀行作家。

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