軽井沢【Restaurant Naz(レストランナズ)】~ヒトサラ編集長の編集後記 第33回
軽井沢は追分の別荘地に昨年オープンした【Restaurant Naz(レストランナズ)】。イタリアや北欧で料理を学んだ若い鈴木夏暉シェフの瑞々しい感性が生み出す料理が楽しめます。今年から本格始動ということで、ちょうど夏メニューがはじまったばかりのころに伺いました。
追分のニュー・ノルディック・キュイジーヌ
軽井沢は追分の別荘地に昨年オープンした【Naz】。レストランは北欧風の建物で、中に入ると木のテーブルがひとつあり、お洒落なバーカウンターがあります。今夜はわれわれ一組のための席です。シェフが挨拶に出てきて、飲み物が注がれます。なんだか友人の別荘ディナーに招かれたような感じです。
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鈴木シェフが迎えてくれた
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テーブルから明るさの残る外を見る
まずはスロベニアのスプマンテにあわせてトウモロコシの菓子に雲丹を乗っけたものを一口でいただきます。トウモロコシの甘さと雲丹の塩味が爽やかです。
次に素麺です。発酵きゅうりとそのソースがかかっていて昆布の香りがします。それが出汁の風味と重なりキャビアとほどよくからみあいます。素麺は富山の大門の手延べでのど越しが気持ちいい。
汗が引いて落ち着きました。
外はまだ明るく、木々の緑が見え、北欧にでもいる気分になります。
信州サーモンと自分で育てる鮎
シェフがサーモンをテーブルに持ってきて見せてくれます。
これが信州サーモンといわれるもので、ニジマスとブラウントラウトの掛け合わせ。海のない長野県の八千穂漁場が苦労して作り上げたものです。
「信州サーモンは水がきれいなので臭みがなく身がしまっています。これは2日塩漬けにしたものを12日寝かせてたもので、40から42度で1時間半火入れします。皮の部分と中身をご用意します」
そうシェフが解説してくれました。
合わせるワインはこれもスロベニアのオレンジ「パラスコス・ノット」。ピノ・グリージョでつくる優しい味わいのものですが、冷やすと酸が立って味覚が尖る感じがします。色合いも信州サーモンの美しいピンク色によく合います。
小皿に乗せられた信州サーモンの皮は香ばしく、炭火の上に昆布や金柑やディルの香りも纏っています。
メインの皿には発酵した蕪で覆われた信州サーモンの身。発酵したトマトジュースにザクロの香りを移したスープとイチジクの香りのオイル、エルダーフラワーの蕾の酢漬けが乗せてあります。
信州サーモンは口に入れた瞬間、むっちりとした食感があり、それが次第に口の中で蕩けるように広がっていきます。発酵食材の纏まり感が素晴らしく、それぞれが上手に引き立てあっている感じが素晴らしい。
前半の爽やかなピークです。これは軽井沢の空気感のなせる業でもあるのでしょうか。東京でこの感覚はなかなか味わえない気がします。
白ワインが来ました。次の料理に合わせてと、エミリア・ロマーニャの「ぺリスフォン」は、海鮮料理にもよく合うアルバーニ。
野菜です、と持ってこられたのはズッキーニの皿でした。
絞ったズッキーニのジュレのうえにアイス、それに焼いたズッキーニは乾燥させてからリンゴのジュースでもどしてあるのだとか。パリに【アルページュ】という野菜の美味しい有名レストランがありますが、そこを思い出すような可憐な美しさと美味しさとテクスチャーの面白み。ひとつの食材からここまでの顔を引き出すシェフのセンスの良さに関心しました。
そして鮎です。どう料理するのだろうと思っていたら春巻きになって出てきました。
「鮎、生簀で飼ってるんですよ」シェフは笑いながら言います。
「稚魚もらってきて自分で飼ってるんです。それ使ってます。万願寺や肝をいれて巻いて揚げてみました。すいかのソースでどうぞ」。
ワインはエミリア・ロマーニャのサンジョベーゼです。夏の気分になります。
食材の可能性、シェフのセンス
次はリゾット。佐久産の五郎兵衛米といわれるもので甘く粘り気があるので、リゾットにするのも面白い。リゾットは春の名残かアスパラソバージュとクルマエビで、ワインはスロベニアのソービニオン・ブラン。
「僕はここが地元ですが、改めてここの食材の豊かさに感動しています。いろんな可能性を試してみたい」とシェフは語ります。
けっこう酔いも回ってきたころ、藁の上に乗っかった牛肉の塊が運ばれてきました。
「ダボス牧場の短黒和牛です。無農薬で栄養価の高い牧草と発酵飼料を食べて育った健康で質の良い赤身肉だから肉の味が濃く旨味も強いです」とシェフ。
干し草の香りのする柔らかなサーロインは、歯触りが優しく、噛むにつれて味わいが深まる美味しい牛肉です。
ダボスの肉にはこれを合わせてほしいと、地元は千曲川ファンキーシャトーのカベルネ・フランを合わせます。彼の地元愛の分かるペアリングで、カベルネ・フランの上質な舌触りがサーロインを引き立てていきます。
そしてもうひとつ、今度はマトンです。発酵ブルーベリーと黒ニンニクを纏っていて真っ黒です。これも臭みがまったくなく、脂身がとても美味しい。
「羊を苦手な女性でも喜んでくれました」とシェフ。
これにはスロベニアのピノ・ノワールを合わせました。発酵食品とスパイスや花々の芳香は、食欲を衰えさせません。ワインもまた。
「最後に僕が毎朝手打ちで作るパスタを少しだけいかがですか」
との誘いは断れません。締めパスタにはローズマリーが練りこまれています。短黒和牛と香味野菜のラグーの香りがまた胃を開きます。
2種類の地元の肉をいただいて、そのソースでパスタをいただく。いい感じの流れです。そして、デザートはカシスのアイスクリーム。火照った口を優しく沈めてくれます。
結構いただいたわりには重さを感じない、ちょうど信州の水の流れのような爽やかな料理だと思いました。
イタリアやデンマークの【noma】【kadeau】での修行経験があるとはいえ、シェフはまだ26歳という若さ。これからの進化がとても楽しみです。地元食材の可能性と、なによりシェフのセンス、クリエイティビティに大いに期待したいところ。
テーブルで最後のお茶をいただきながら、シェフのやんちゃだったころの話を聞いていたら、サービスで立っていた人が実はシェフのお母様であると知り、その若さにもういちど驚いてしまいました。
小西克博(ヒトサラ編集長)
北極から南極まで世界100カ国を旅してきた編集者、紀行作家。
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