トリュフの小籠包に、鶏のパリパリ揚げ。おいしくって楽しい中華料理を【Ji-Cube】東京・西麻布|ニュースな新店
2021年6月、西麻布の閑静な住宅街に、一軒家の中華料理店がオープンした。店主は佐々友和シェフ。四川料理の巨匠、菰田欣也シェフに師事し、2008年の中国料理世界大会前菜部門で、特金賞を受賞した人物だ。こちらでいただけるのは、四川料理の枠を飛び越えた、自由で楽しい料理の数々。話題の一軒を取材した。
西麻布にオープン、自由で美しい中華料理を食べるための隠れ家
六本木通りから一歩裏手に入れば、静穏な住宅地が続く西麻布界隈。その一角に、まるで隠れ家の如くひっそりと佇む一軒家のチャイニーズレストラン――、それが、ここ【Ji-cube(ジーキューブ)】。“食材に耳を傾ける”をコンセプトに、2021年6月、オープンした話題店だ。
佐々友和シェフ
まるで友人宅を訪れたかのような気分に浸りながら、中に入れば、店内はシックな趣のオープンキッチン。カウンターのみの1階に対し、2階には意匠の異なる個室が大小合わせて3部屋用意されている。
「この店では、お客様にリラックスして食事を楽しんでもらいたいと思っています。ですから、フレンドリーなサービスや店内の雰囲気はもちろん、価格も、コース一万円とやや抑え目にしています。」
こう語るのは、佐々友和シェフ44歳だ。四川料理界の重鎮の一人、菰田欣也シェフの下でおよそ20年余りも研鑽を積んだ実力の持ち主と聞けば、食指が動くフーディーも多いことだろう。
門扉から玄関へのアプローチの途中にある小庭がテラス席
以前は、画家さんの持ち物だった日本家屋を改装したというだけに、うっかりしていると通りすぎてしまいそうなほど、門構えからして民家そのもの。玄関へと続くアプローチの途中には、小庭もあり、テラスとしても楽しむこともできるとか。ペットを連れての午餐には格好の場所といえそうだ。
カウンターは10席。臨場感たっぷりのオープンキッチンながら、グッと落ち着いた大人の雰囲気
「そろそろ独立を考えていた頃に、菰田シェフからここでやってみないか?と誘われたんです。菰田シェフが後ろ盾となって始めたお店ですが、ここでは、自分の色を出していこうと思っています。」とは佐々シェフ。その言葉通り、コースを彩る皿の数々は、いずれも佐々シェフならではの個性あふれるアレンジが楽しみ。伝統の四川料理をベースにしつつも、四川のみに固執せず、上海や広東などの要素も取りいれたモダンな味わいを目指しているそうだ。
『黒トリュフのショウロンポウ〜熱々をお楽しみください〜』は通年メニュー。具は、粗挽きにした加藤ポークの腕肉と背脂。ジュワっと溢れ出るスープに妖艶なトリュフの風味が絡み、インパクトある味わい
先付けからデザートまで全12品から成るコースを見れば、なるほどそれがよくわかる。例えば、四川料理ではおなじみの椒麻(山椒と青葱のソース)を用いたイカの塩味炒めがあるかと思えば、揚げた魚をタレに漬け込んだ上海の家庭的な魚料理の“燻魚”(シュンユイ)が登場するなどまさに変幻自在。伝統の味を打ち出しつつも、上海では川魚が定番のところを甘鯛のような日本的な食材を用いたり、イカの炒めものにはキャビアをあしらうなど、さりげなく今風にアレンジ。シャレた一皿に仕上げている。
『イカの塩味炒め〜葱山椒の香りで〜』。ソースと共に炒め合わせず、翡翠色のソースと真っ白なイカを別々に盛り付けた彩りのバランスもオシャレな一皿。トッピングしたキャビアがアクセント
一方、丸ごと一羽の鶏肉で仕上げる『豪快な香鶏のパリパリ焼き 麻辣風味』も、広東料理の代表的な焼味である“脆皮鶏”を佐々流に一捻りしたスペシャリテ。鶏肉を捌いて一度湯に通した後、水飴と酢を塗って干し、皮を張らせる下拵えの手法は、広東料理のそれとそれほど大差ないが、下味に花山椒や四川唐辛子など四川特有の香辛料を加え、パンチのある個性的な味にしあげている。
丸ごと一羽を客の前でデモンストレーションする豪快な『香鶏のパリパリ焼 麻辣風味』。オーブンで焼いた後、仕上げに高温の油を回しかけながら、揚げた力作。料理は全て一万円のコースから(取材時6月のメニュー)
食材に対するこだわりにも妥協はない。先の鶏肉にしても、数ある鶏を試した結果、中国伝来のバブコーチンと烏骨鶏の血統を引く香鶏を使用。筋繊維が細かくジューシーで焼くとパリパリになる香鶏は、脆皮鶏の料理にはぴったりだったとの由。その他、野菜は能登の高農園、豚肉はオレイン酸が豊富で脂にあまみある加藤ポークを用いるなど、限られた予算の中で最上の食材を選んでいる。
コースの〆は、ご飯ものと麺を少しずつ提供するのが同店のスタイル。写真はその一つの『ハマグリそば』。上湯とはまぐりの旨味が一体化したスープは、あっさりしながらも滋味あふれる美味しさだ
また、「一万円といえども、高級感のある料理を提供したい。」との思いから、イカ墨入りの皮でつくった小籠包には黒トリュフ、モクズ蟹入りのフカヒレスープにはフォアグラ入りの茶碗蒸しを合わせる等々、リュクスな皿もさりげなくお目見え。
ハレの日に食べたいリッチな味を約束してくれる。ちなみに、旬の素材を取り入れたコースは月替わりとなっている。
撮影/玉川 博之 取材・文/森脇 慶子
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