クラフトコーラってじつのところどんな飲み物? クラフトコーラ行商・鯉淵正行さんに、その魅力とブームの背景を徹底的に聞いてみた
最近よく耳にし、目にするようになった「クラフトコーラ」。コーラ、という名が付いていながら、その製法も味わいもじつに多彩なこのドリンク。「クラフトコーラって何?」「どこで飲めるの?」という疑問を解消するべく、「クラフトコーラ行商」を名乗る鯉淵正行さんにお話しを聞いてきました。
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楽しみ方や魅力を広げる活動をする「クラフトコーラ行商」
どんなコーラを、“クラフトコーラ”と呼ぶ?
カルチャーの土台となった2大パイオニア
みんなに感じてほしい、クラフトコーラ6つの魅力
鯉淵さんオススメのおいしいクラフトコーラが飲めるお店
1993年生まれ。2018年末に「伊良コーラ」に出会ったのをきっかけに、クラフトコーラの魅力にハマり、以来、様々なクラフトコーラを取り寄せては、一日数杯をかならず飲むという生活スタイルに! 本業は別にありながら、noteやSNSではクラフトコーラへの愛を吐露したり、自身が出会った銘柄を紹介し、各地で多様なイベントを開くなど、クラフトコーラの楽しみ方や体験を広める活動をしている。
クラフトコーラの楽しみ方や魅力を広げる
「クラフトコーラ行商」とは
インタビューは、鯉淵さん自身が「ここの自家製コーラがおいしい!」と教えてくれた西小山【コーラとハンバーガー】で行ないました
鯉淵 今はですね“クラフトコーラアワー”という活動体を主宰して、クラフトコーラといろんな方のいい出会いの場をつくる、ということに注力しています。
月に1回、「クラフトコーラバー」「角打ちクラフトコーラ」という定期開催のお店も開いていて、そこでは数種類の飲み比べをしてもらったり、いろんな割り方をコースのように楽しんでもらったり、おつまみみたいに一緒に楽しんでもらえるようなクラフトコーラに合う料理を出したりしています。
最近でいうと、銭湯とかアウトドアショップともコラボしたりとか、あらゆるシチュエーションとか場所でイベントを開いたりしています。
最初は一人で活動を始めたものの、いまは共感してくれる友人数人とチームを組んで活動しているそう
鯉淵 そうなんですよ。じつは「マイスター」とも名乗ってはいるんですが、伝道師とか、マイスターだけだと「伝えること」だけに終始してしまうと思うんです。
クラフトコーラって新しいドリンクで、2018年あたりに出てきたばかりのものなので、「クラフトコーラがいいよ」って伝えるだけでは、飲んでもらうのは難しいと思っているんです。なので、気軽に飲める場をつくることでその障壁をなくしたい。
しっかり人の手に渡らせて体感してもらうってところまで、やっていきたいと思っています。ただ“伝える”だけでもなく、ただコーラがある場でもない。いまはまだお店を持っているわけではないので自分がいろいろな場所に出向いて、人にしっかり“届ける”という意味合いを込めて、「行商」と名乗っています。
どんなコーラを、
“クラフトコーラ”と呼ぶ?
炭酸まで詰めてボトリングするつくり手は少なく、基本的にはシロップの形状で販売する銘柄がほとんど。【コーラとハンバーガー】でも、オーダーが入ってから炭酸水を注いでつくっていました
鯉淵 じつは、まだ3年くらいしか経っていないので、いま出てきている一つ一つのクラフトコーラが、定義をつくっている段階だと思っています。
なので、現状ぼくが考える定義を簡単に言うと……
「スパイスやハーブ、柑橘などの天然の素材を複数使ってつくられていて、かつつくり手のルーツや想い、信仰心、あるいはその土地の地域性などを、味わい、素材選び、デザインなどに反映したコーラのこと」
ですかね。
鯉淵 言葉で考えれば、「クラフト×コーラ」なわけですよね。
「コーラ」はコカ・コーラが発祥だというのは有名ですが、その名前や当時のコーラのルーツの一つは、「コーラナッツ」っていう実を使っていたことにあります。
……で、当時からやっぱりスパイスやハーブ、柑橘を使ってつくられていたみたいです。なので、コーラナッツと、スパイス、ハーブ、柑橘を複数使ってつくられているものが、おそらくコーラの飲み物としての本来的な在り方なのかなと思っているんですよね。
ただ、コーラナッツを入れなくても成立していた歴史があるのと、コーラナッツ使うとカフェインが入ってしまうんですよね。そうすると、実際に影響は大きくなくとも、飲むのをためらう人も出てくるかもしれない。
ノンアルコールドリンクって、“境界線を引かないこと”が大事だと思いますし、これまでの歴史的な経緯もふまえると、コーラナッツは素材として“必須”とまではしなくていいのかな、と。
コーラナッツのルーツや正体に向き合ったうえで、「使うか、使わないか」を考えてつくり手が判断していれば、“コーラ”になりえてもいいのかな、と思っています。
「安心してこどもを連れて行けるハンバーガーショップを」というコンセプトで開いた【コーラとハンバーガー】。フードもドリンクも、国産の天然素材にこだわっている
鯉淵 よく「手づくりの」「職人がつくる」という言葉がクラフトのイメージとして使われると思うんですが、これがちょっとしっくり来てなくて……。
“民芸・工芸”の意味合いのほうが近いかもしれません。
民芸・工芸という存在をたどっていくと、「材料、技巧、意匠によって美的効果を備えた物」だったり、「信仰や祈り、縁起物など、たくさんの意味と価値観が含まれる」というニュアンスがあるんです。
鯉淵 そうです。ただ天然素材からつくられているだけでもなく、ただ手作りなだけでもない。だから、どんな形であれ、ルーツや想い、地域性など、つくり手が伝えたいこと、表現したいことが反映されていて、それが伝わるようになっているのが大事なのかなぁ、と。
【コーラとハンバーガー】の一番人気は『西小山バーガー』と自家製コーラのセット1,750円(写真はチーズトッピング+200円)
カルチャーの土台となった2大パイオニア
「伊良コーラ」と「ともコーラ」
ーーいま、クラフトコーラのカルチャーは急速に広がっていますよね。そもそも発祥は、いつどんなきっかけだったんですか?
鯉淵 初めてクラフトコーラという存在が出てきたのが2018年の夏頃。それが「伊良コーラ」、そして「ともコーラ」という2つのコーラです。はじめは、クラフトコーラという言葉もありませんでした。この2つのコーラに出会わなかったら、僕もこんな活動をしていませんし、この2つが文化の土台をつくったと思っています。
2019年になると、「伊良コーラ」をきっかけとしてクラフトコーラが広くメディアで認知されはじめました。「伊良コーラ」はブランドにもすごくストーリーがあって、一気にいろんなメディアに取り上げられたと思います。
一方で、「ともコーラ」もすごく重要な仕事をしていて、初めて日本の地域の素材や文化をコーラづくりに反映して、ご当地のクラフトコーラを仕掛けはじめました。その第一弾が「熊本クラフトコーラ」として誕生。それも、2019年のことです。
鯉淵 おそらくこの2つをみたいろんな人たちがクラフトコーラの可能性と面白さに気づいたんですよ。……で、「自分たちでもクラフトコーラをつくってみよう」っていろいろな地域でクラフトコーラが出てき始めたのが2020年。
2020年は、前半が地域性を中心とした文脈のクラフトコーラが多かった。2019年の「熊本クラフトコーラ」の影響も大きいと思います。高知の「sawachina」、鹿児島・喜界島の「TOBA TOBA COLA」、島根の「出雲SPICE LAB」……
2020年も後半になると、さらに個性がとがってきます。お茶や薬草、チョコレートのような異分野の素材を入れたり、苦味やコクを出すためにカラメルから手づくりしたり、飲むシチュエーションまでデザインしたり。あらゆる切り口をもったコーラが出てきた。
そこから、現在の多様な状況につながっていくわけです。
先ほど教えてもらった鯉淵さんが定義するクラフトコーラで言うと、2021年8月現在、およそ50種類以上のクラフトコーラの銘柄があるそうです
鯉淵 なんか、やっぱりその2つはすごいなと思っていて、「伊良コーラ」であれば、ストーリー性だけでなく、自社工房をつくったり、クラフト性を最大限に体現していて。開拓者、牽引しているリーダーだなっていうふうに思っているんですよね。
彼らは「イヨシ・コカ・ペプシ」というのを掲げていて、世界のブランドになることを目標にしている。2024年にはニューヨーク出店をめざしているそうです。
「ともコーラ」は、ご当地クラフトコーラづくりですでに約4地域のローカルの魅力をコーラに反映したりしていて、おもしろさと可能性を広げるためにとても重要なことをしているんですよね。
いま、全国に多様なクラフトコーラがあるのは「ともコーラ」のおかげといっても過言ではないと思います。
「伊良コーラ」はクラフトコーラを極めて一つのブランドがどこまで大きくなれるかを、「ともコーラ」は自分たちはもちろん、いろんなローカルとコラボしてクラフトコーラの面白さを体現しています。
どちらかが欠けただけでも、今のような状況になっていないと思います。最初に、この2つが生まれたことは、クラフトコーラにとって幸せだったな、と。
みんなに感じてほしい、
クラフトコーラ6つの魅力
コーラシロップを牛乳で割った『ミルクコーラ』620円。コーラのスパイシーな味わいとシナモンの香り、チャイに似ているようで、それよりももっと複雑で香り高い味わいでした
鯉淵 じつは、今日話す魅力を考えてきて、伝えたい魅力が6個あるんですけど、いいですか?
ーー全然いいですよ! じゃあ、ちょっと編集的な都合でアレですが、その6個は箇条書きで紹介させていただきます!〜鯉淵さんが教えるクラフトコーラの魅力〜 ①おいしさ
大なり小なり甘さがあるし、おもに炭酸で楽しむので、わかりやすく刺激を享受できるんですよね。ある種の“ジャンクさ”が魅力の一つだと思います。
②嗜好性たとえばスパイスやハーブの上品な香り高さ、柑橘による酸味と苦みとか、あるいは辛味を出している銘柄もあって、奥深い、余韻にひたれるような嗜好性があります。
③おもしろがり甲斐があるつくり手の想い、その地域ならではの素材やつくり方、文化が反映されて、味やパッケージデザインになっているんですよね。あと、たとえば素材推しのシロップか、飲み心地を重視したシロップか、それによって素材の粒感の残し方が変わったり、シロップの形状にもこだわりが出ています。あらゆるところに作り手の表現が隠れていたりするので、いろんなところに面白がり甲斐があるという、そういうところも魅力の1つなのかなっていうのですね。
④味わいや香りに違いが現れやすいスパイスやハーブ、柑橘、それから砂糖とか甘味素材ですね。「これを使わなければいけない」というのはないので、素材はなにを選んでもよくて、幅が広いんですね。配合の比率も変えられるので、違いを出しやすい。なので飲み比べると、5つなら5つとも違う、その違いをみんなで共有できるっていうのも魅力です。
⑤ 炭酸で割って飲むだけじゃないクラフトコーラはシロップで売られていることが多くて、炭酸水で割って楽しむのがスタンダードだけど、別に炭酸水じゃなくてもいいんです。たとえば、お湯で割ったり、牛乳で割ったり、飲むヨーグルトでラッシーにしちゃったり。割り方も自由。
さらに調味料的に活躍もします。アイスにかけたり、かき氷にかけてもすごくおいしいですし、あとは料理の隠し味的にも使えるので活用の幅が広い。クラフトコーラの魅力をいろんなかたちで楽しめるっていうのはすごい面白いなって感じますね。
これが一番のキーポイントなのかなと思ってます。「コーラ」という言葉がもつ、ポップでハッピーで気兼ねないオーラ。おもしろがり甲斐はあるけど、それに向き合わなきゃいけない敷居の高さはない。いろんな点に注目してもいいし、「ただ飲んでおいしい」でもいい。そもそもノンアルコールですしね。いつでも好きなように楽しんでいいというラフさを、生まれながらに持っている。
だからこそ、おもしろがり甲斐も活きるのかな、と思います。
コーラジェラート500円。自由が丘で人気のジェラート屋さん『AmiCono』さんに自家製コーラシロップを持ち込んで、【コーラとハンバーガー】のためだけにつくってもらっています
鯉淵さんがオススメする
おいしいクラフトコーラが飲めるお店
ーー今日は、クラフトコーラについて詳しいお話しを、ありがとうございました。最後に、これを読んでいる方が「クラフトコーラ飲んでみたい!」ってなったときに、おいしいクラフトコーラが飲めるお店をお聞きできますか?鯉淵 こちらこそ、ありがとうございました。では最後に4軒ほどお店をご紹介させていただきます。
インタビューが終わっても、「クラフトコーラをもっと楽しんでほしい」という熱い気持ちがひしひしと伝わってきました
ここの「自家製コーラ」はなんだかすごく香りがよくて、何度も手を仰いで、香りをかぎたくなる。あと、「ミルクコーラ」も出していて、このフレーバーがミルクにもめちゃめちゃ合うんですよね。コーラとフードをセットで明確に打ち出している先駆け的な存在だとも思いますし、あと、コーラとハンバーガーってもう最強ですよね。お店の雰囲気も素敵だし、飲食店としての総合的な魅力も感じています。
②代々木上原【按田餃子】
7種のスパイス・ハーブと1種の柑橘という素材でシンプルな自家製コーラをつくっています。シロップも販売していて、それが調味料のようなたたずまいなんです。そのあたりに、スパイスに精通した“中華料理らしさ”を感じます。さらにいうと、じつは2012年にはすでに、自家製コーラを出しているんですよ、このお店。ある意味、レジェンド的な存在(笑)。そういった意味でもリスペクトしています。
③新木場【soko station】
カフェ兼雑貨屋さん。市販のクラフトコーラ、普段活動で紹介しているようなクラフトコーラが数種類置かれていて、カフェメニューとして一部飲めるし、その場でシロップも買うこともできる。そのほかの商品も含めて素敵な場所なので、クラフトコーラに限らずおすすめのお店です。
【soko station 146】
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電話:03-6457-0084
住所:江東区新木場1-4-6 2F
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三田【わいん酒場Hibino】
ここも、市販のクラフトコーラを仕入れているお店なんですけど、けっこうディープな銘柄まで揃えているなぁ、と。クラフトコーラの世界を知りたい人は、楽しめると思いますね。お酒の代わりに、おいしいおつまみとクラフトコーラ、といった楽しみ方もできると思います。
鯉淵正行さんのSNSはこちら撮影/清水伸彦 取材・文/郡司 周 (ヒトサラ編集部)