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更新日:2023.08.07旅グルメ 連載

新潟【my farm to table おにや】~ヒトサラ編集長の編集後記 第55回

新潟にすごい鶏料理店があることは聞いていたのですが、今回初めて訪れてみて驚きました。鶏の鮮度もさることながら、部位ごとの味わいが個性的でしっかりとしていることに今更ながら気づかされたのです。

おにや

新潟一に輝いた鶏料理

    おにや外観

【my farm to table おにや】は、新設された新潟ガストロノミー・アワードの飲食部門で大賞を受賞しました。自家農園で育てたシャポン(Chapon……去勢したオス鶏)が有名で遠方からも食通が通うお店です。新潟駅から少し離れたかつての花街・古町にあるのですが、夏の夕方には気持ちいい散歩なので駅から歩いて行きました。歩いて30分ほど。看板ひとつない白い建物の入口には小さな鶏のオブジェが置かれています。

    おにや内観

中はお洒落なカフェ風の作りになっていて、カウンターとテーブル。ワインセラーも充実しています。鶏を七輪で自分で焼くこともできるようですが、今回はさすがにそれはシェフにお任せして、話を聞きながら食事をいただきました。

    おにや

カウンターに座ります。一品目の濃厚な温泉たまごに続いて出てきたのは胸肉とささみ。ビールをいただくことにしました。オーナーシェフの鬼嶋大之さんがカウンター越しに説明してくれます。

    おにや

「昨日絞めたものと今日絞めの胸とささみです。味の違いを試してみてください」。

まずは何もつけずに昨日絞めと続いて今日絞めを食べてみました。昨日のものと今日のものとでは全然ちがう弾力感におどろきます。塩を付けると味の輪郭がはっきりし、同時に出された醤油、わさび、しょうがを使う間もなく食べ終えてしまいました。

    おにや

「シャポンのお腹の脂を取り出して、そのまま冷やし固めたものです。試してみてください。手前にあるのはメスのもも肉です」。

お腹の脂がバターのように見えて、口の中で溶けるかと思いきや、これは柔らかなレバーのようなテクスチャ―。鬼嶋シェフの養鶏場では鶏を通常の3倍、最低180日以上は飼育するそうです。

「時間はかかりますが、自由に動き回れる鶏舎でじっくり育てたほうがもちろん自然でおいしい。だから自分で養鶏所をやるしかなかった」とシェフ。今は数種の地鶏、フランス原産のプレノワール(poulet noir……黒鶏)、に加え、豚も育てているそうです。

宝石のように美しい鶏刺し

    おにやの鳥刺し

さて刺盛りの登場です。シェフが部位ごとに細かく切り分け、お皿にならべると、宝石のようです。ひとつひとつ、色と形が美しくみずみずしく、食べるのが惜しいくらいです。

左から砂肝、砂うち、背肝、レバー、白レバー、きんかん、ハツもと。お皿に乗って後から追加されたのがハツ、鶏みそ。鶏みそは脳みそです。目の前でシェフが取り出してくれるのですが、「この光景が苦手な人もいるんで」と苦笑。これだけ新鮮で上質なものをいただける機会は貴重ですし、感謝の気持ちも生まれます。

ワインセラーも気になりましたが、やはり新潟のお酒をいただくことにしました。シェフのおすすめは「越弌」の純米大吟醸。新潟産の五百万石を40%まで磨いた贅沢なもので、フレッシュだが深みのある酸の具合がこの鶏刺しによく合います。

砂肝は柔らかく新鮮で、普段食べている印象とはかなり違います。背肝は腎臓ですね。これもレアな部位で、独特の苦みとコクを感じます。レバーはさっき絞めたばかりで実にフレッシュ。つるんと飲み込めてしまいます。かたや白レバーは一日寝かしたもので、すごくコクがある。これは酒が進みます。

    おにや

鶏の脂を塗って蒸し焼きにしたコーンが出てきます。香りが広がります。

そして鶏ユッケです。もも肉、むね肉、ささみでつくったユッケは飲み物のよう。部位ごとの食感と旨さをちょうどいい塩加減と生卵で封じ込めた、これまた新鮮だからこそできる絶品のひとつでしょう。

次にいただいたのは「雅楽代(うたしろ)」。雅やかな響きの佐渡の蔵元です。

    おにや

先ほどの鶏脂で焼いた野菜に生ハムが添えられます。マンガリッツアかと思って訊けば、「これもうちで育てている豚です。22か月熟成させました。種類はまだ秘密です(笑)」とのことです。

    おにや

シャポンのもも肉を焼いたものが出てきました。噛めば自然な弾力が気持ちいい。肉のしっかりとした味わいと脂との一体感を楽しめます。食感の気持ちよさ、これも旨みに繋がる大きな要素です。

「オスは、成長すると肉が硬くなるので、去勢して育てることでメスのようなやわらかさを出せるんです。独自の食感もシャポンの魅力ですね」と、卵管からきんかんが出てくるところを見せてくれながらシェフは語ります。

究極のTKGとラーメン

    おにやの鶏すき

そして鶏すきです。甘いタレの匂いがまた食欲そそります。マッシュルームのなめらかさを持つシイタケ、「天恵菇(てんけいこ)」が入ります。(「天恵菇」は徳島で開発されたシイタケですが、魚沼の名物になっています。魚沼の【ファミリーダイニング小玉屋】ではこれの様々なバリエーションが食べられます)

    おにや

すき焼きに欠かせないたまごは地鶏の有精卵。淡い黄身が自然な感じで、白身は力強い。これに鶏肉やネギや天恵菇をたっぷりくぐらせて、いただきます。さっきのユッケのあったかいバージョンにも感じる、たまごの絶妙さ。自然でしなやかで優しい味わいに陶然としてしまいます。

    おにや

こうなると最後は究極のたまごかけご飯、いわゆるTKGですね。鶏すきの残ったたまごにもう一つ新しいたまごを加え、そこに炊き立てのご飯を入れてもらいます。土鍋で炊いたコシヒカリがしっかり米を主張します。この一体感こそまさにこの地ならではのものなんでしょうね。

    おにやのTKG

鬼嶋シェフは最初、東京のバーなどで働き、故郷新潟にもどってから鶏に目覚めたのだそうです。自身の焼鳥好きも手伝って、ちゃんとした鶏を育てられたらもっとおいしいものが出せるのではと一大決心をし、養鶏業を始めたのだとか。

さて最後のラーメンですね。もうおいしくないわけがありません。

    おにやのラーメン

デザートのプリンをいただくころには相当時間も過ぎていましたが、お客さんの様々な注文を聞き、雑談をはさみながら同時進行で料理を準備していくオペレーション能力の高さも、見てきて実に気持ちのいいものでした。このあたりは様々な飲食を経験されたなかで培われてきたものなのでしょう。

ほろ酔いで古の花街をそぞろに歩き、夜風にふかれて駅に向かいます。
信濃川のほとりではいくつかのお店が輝いています。気持ちのいい夏の夜の風景です。

この記事を作った人

小西克博/ヒトサラ編集長

北極から南極まで世界100カ国を旅してきた編集者、紀行作家。

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