スナック街一角に現れた、大人のための隠れ家居酒屋|【目黒それがし】
五反田の和食【それがし】や焼き鳥【とり口】、恵比寿の豆腐店【豆富食堂】や肉イタリアン【LOVAT】を展開する株式会社JO。今年新たに展開したのが、大人のための居酒屋。目黒駅からほど近い、スナックなどの飲食店が軒を連ねる雑居ビルに2023年6月8日誕生した【目黒それがし】だ。
目黒駅の駅前ビル。昭和な匂いがそこはかとなく漂うその中に静かに佇むスタイリッシュな空間
焼き鳥、焼肉、ラーメンと大衆料理が続々と進化。食の多様性が広がる中、日本の食文化の一端を担う居酒屋も様変わり。赤提灯の大衆居酒屋からチェーン店、更には和食店にも負けぬクォリティの高級店まで、実に幅広く棲息している。
そんな中、大人の酒場を目指し、この6月、産声をあげたのが【目黒それがし】だ。2011年に開店の五反田【酒場それがし】、2014年開店の【恵比寿それがし】に続く3店舗目となる。場所は目黒の駅前ビル。昭和な匂いの残る飲食街の中、扉を開ければスタイリッシュな別空間に引き込まれる。
五反田、恵比寿の各店に比べ、目黒店はダイナミックに設えたカウンター席がシンボル
「カウンターをメインに、大人が落ち着いて楽しめる空間をイメージしました。」と語るのは、オーナーの尾山淳さん。なるほど、ベージュとグレーを基調とした店内は、シンプルでいて清閑。静かにお酒と料理を味わうには格好の一軒だ。
一方、料理にも【目黒それがし】ならではの名物がある。『特製メンチカツ』や『3代目ポテトサラダ』など、これまでの「それがし」定番の人気メニューに加え、今回は新たに炭火焼きを導入。旬の魚や野菜を始め、淡海地鶏に米沢牛(牛の銘柄はその時々で変わる)等々を用意。焼きたてを楽しませてくれる。かつお節がたっぷりかかった『万願寺唐辛子の炭火焼き』や『鰻の白焼き/蒲焼』も捨てがたいが、(個人的な)おすすめは『淡海地鶏の炭火焼き』2,750円だ。
『淡海地鶏の炭火焼き』2,750円。パリっと焼けた皮と弾力のある適度な歯応えの身の旨さが後を引くおいしさ。腿肉を塊のまま焼けばこそのジューシー感も魅力
それというのも、この“淡海地鶏”、滋賀堅田のブランド地鶏で、東京ではなかなかお目にかかれない品種ゆえ。飼育日数が120日と一般的な食用鶏の2〜3倍は長く育てているせいか肉にコクがあり、後を引く余韻が長い。更にすっきりとしてキレの良い脂の旨みも特徴の一つだろう。炭火でじっくりこんがり焼くことで、この透明感のある脂がより鮮烈に口中で爆裂。パリっと焼き上がった皮の内側から迸る肉汁も出色だ。
紀州備長炭で、炭火の薫香を纏いつつ、皮めからじっくりと焼きあげていく
そしてもう一つ、この店の新たな名物が太巻きシリーズ。『〆鯖と鰯の太巻き』、『本まぐろ鉄火太巻き』、『煮穴子の太巻き』の3種類あり、いずれもボリュームたっぷり! 〆にもいいが、酢飯よりも断然具の方が多いゆえ、酒のお供にも最適だ。
『本まぐろ鉄火太巻き』2,640円。天然本鮪をふんだんに巻き込んだ鉄火太巻き。赤身が主体ゆえボリュームの割にはさっぱりと頂ける。お刺身感覚で。
今回は、一番人気という『本まぐろ鉄火太巻き』をチョイス。中トロと赤身がぎっしりと巻き込まれた太巻きは見るからに美味しそう。料理長の小松雅至さんがこう語る。「今日のマグロは青森八戸で上がった天然もの。時には腹上を使うこともありますが、大抵は赤身の美味しい背の2番あたりが多いですね。」とのこと。
今、シャリに使っているのは、ミツカン・三ッ判山吹と同じくミツカンの米酢の2種。だが、そこに一工夫。なんと隠し味にバルサミコ酢を少々加えているのだ。「バルサミコ酢を足したことで、味にコクと深みがうまれました。」とは小松料理長。マグロと一緒に巻き込んでいる大葉と長ネギがさりげない薬味代わり。ほどよい口直しとなり、マグロの脂をすっきりときってくれる。これで2,640円はお値打ちだろう。ちなみに太巻きはいずれもテイクアウトOKだ。
小松雅至総料理長。京都や赤坂の割烹で腕を磨いたベテラン。目黒店の料理長を務めると共に、五反田、恵比寿各店の料理も見ている。
リーズナブルといえば、他の料理も然り。例えば前述の『特製メンチカツ』。献立表には、990円とあるが、これは2個分のお値段。それ故一個だと495円。これに限らず料理は、ほぼほぼ一皿2人分で、おひとり様にはハーフサイズも快く引き受けてくれる。しかも、お値段もきっちり半分! これなら、1人でも気兼ねなくいろいろなつまみを楽しめそうだ。
『特製メンチカツ』990円。どこにでも見かけるメニューながら、「それがし」のそれは技あり一本!の佳品。生の挽肉に、別に赤ワインで煮詰めた挽肉を合わせコクと風味を増している。
もちろん、注目すべきは値段の安さだけではない。一品一品にさりげない一捻りがある。件のメンチカツにしても、合挽肉を用いるところは定石通りだが「半分は生のまま、後の半分は赤ワインで煮込み、双方を合わせてから揚げています。」とは小松料理長。それというのも「生肉から作るジューシーさに加え、赤ワインで煮詰めることで生まれるコクも欲しかったから。」だとか。また、アジフライならぬ『鯖フライ』990円やマグロの酒盗が決め手の『キャベツの酒盗炒め』770円等々、ありそうでなかったオリジナルメニューに食指が動く。
日本酒に力を入れてきた「それがし」だが、同店では酒類を幅広く揃え、中でもワインに注力。ナチュールも多く揃えている。
居酒屋ゆえ、もちろんアルコール類にも抜かりはない。日本酒には定評のある「それがし」だけに、目黒店も日本酒は、オリジナルブランドの「それがし」や濁り酒の「英雄」など他店と変わらず鞏固な品揃え。だが、ここでは、焼酎からハイボール、サワーまで全方位でアルコールを用意。中でもワインには力を入れ「今後は、ナチュール系ももっと充実させていくつもりです。」とはオーナーの尾山氏。価格も、グラス900円〜。ボトル4800円〜とこなれている。料理はコースもあるが、基本的にはアラカルト。好きなものを好きなように食べ、好きな酒を飲む。そんな当たり前の幸せを味わいたい。
撮影/今井 裕治 取材・文/森脇 慶子
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