ドバイVol.01_【ボカ】【テイブル】~ヒトサラ編集長の編集後記 第61回
食の領域でも世界的な注目を集めるようになっているドバイ。この先端都市でいまどういった試みがなされ、どんなレストラン・シーンが見られるのか。「サステナビリティ」、「ハイエンド」、「多様性」といった視点から見てみました。まずは「サステナビリティ」。取り上げるレストランは、【ボカ】と【テイブル】の2店です。
ドバイのサステナブル・レストラン
【ボカ】(BOCA)
「ちょっと前まではドバイにいいレストランがなかったから、みんなアブダビまで食事に行ってたんです」と【ボカ】オーナーのオマール・シハブさん。「それがインターナショナルなホテルが増え、シェフたちが来てくれるようになって、ようやく環境が揃ってきました。ミシュランガイドも来てくれたし、世界のベストレストランでも評価される時代になりました」。
私自身、これで3回ドバイを訪れていることになるのですが、その変化のスピードには目を見張るものがあります。世界の富裕層が集まるわけですから、食のシーンが面白くないわけがありません。ともすればどんな豪華な食事が提供されるのか、といった期待が先にたつかもしれませんが、世界の潮流の先端にあるのはやはりサステナビリティ。それもかなり徹底してることが分かります。
そういった潮流を掬うミシュランガイドが、2023年になってドバイの3つのレストランに「グリーンスター」の称号を与えました。ミシュランガイドの定義によれば、「持続可能なガストロノミーに対し、積極的に活動しているお店」ということになります。いまや「おいしい+サステナブル」でないと、いけてるレストランとはいえないよね、ということですね。
さてその【ボカ】は、街の中心にあり、地中海とりわけスペイン料理の趣が強いレストラン。ランチタイムはサラリーマンで賑わっています。ところどころに優しい緑が配されていて、今日の仕入れ状況が壁に掛けられています。壁は若いアーティストの発表の場としても利用され、様々なアートが天井にまでかけられています。
セラーとキッチンは地下にあって、ごみを出さない配慮とチェックシステムが施され、なにより働く人たちを大切にするための規則がしっかり設けられているそうです。安心して長く働ける環境、これはサステナブルであることの基本ですね。
オマールさん曰く、このお店の5か条は
1.食材は地元、および責任ある生産者のみからの仕入れ
2.ゴミは担当責任者がいてデータに基づき徹底管理
3.100%再生可能エネルギーで運営
4.二酸化炭素排出量を報告
5.安心して働けるフェアな環境づくり
を掲げ、実践しているそうです。
ミシュランガイドのみならず、ゴ・エ・ミヨなど有力メディアでも、そのサステナブルな運営が評価され、ドバイを代表するレストランのひとつになっています。
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オーナーのオマール・シハブさん
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エグゼクティヴ・シェフのパトリシア・ロイグさん
お料理ですが、ランチで伺い、アラカルトでいくつか注文してみました。
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生牡蠣
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ガスパチョ
まずは生牡蠣。近くの湾で養殖されているそうで味もしっかりしています。
おしゃれなガスパチョは人気の一品らしく、際立つ酸っぱさをイチゴの甘さでカバー。ヤギのチーズが味に深みとアクセントを与えます。
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スーパーフードのサラダ
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セビーチェ
昨日の余ったパンでつくったサラダ
最初から少しオイルで汚れた感のある盛り付けで登場したのはキヌアなどスーパーフードのサラダ。野菜の切れ端を刻んでつくられています。砂漠に自生する野草も使われています。この野草は昔からドバイの人たちは根っこもおいしく料理して食べるのだとか。
セビーチェは地元のキングフィッシュ。やや大味ですが、爽やかなソースとよく合っています。
昨日の余ったパンでつくったサラダも面白い。食材を捨てない、余らせないを徹底しているところが伝わってきます。唐辛子が効いていてけっこう辛い。
「端材をいかにおいしく調理するかはうちのキッチンの基本です。チーズは賞味期限切れの牛乳からつくっています」と、テーブルに来てくれたエグゼクティヴ・シェフのパトリシア・ロイグさんが説明してくれます。ペルーの【セントラル】やロンドンでも活躍した人で、2023年10月よりチームに加わったのだとか。
全体が地中海食の健康的なイメージで統一されています。食べる側の意識も結構進んでいるようです。一品一品は決して高価ではなく、カジュアルなランチでいただいても十分いろいろ楽しめると思いました。
【テイブル】(Teible)
もうひとつは【テイブル】(Teible)です。
この店は入り江に面したジャミール・アーツ・センターの中にあり、調度品に北欧家具を取り入れたお洒落な空間づくりをしています。
料理もレストラン脇に植えたハーブを使ったり、オリジナルの発酵食品を多用したライトでヘルシーなお皿が多いように感じました。
オーナーは韓国出身のピーターさん。ラーメン店やファッション輸入などでもその才能を発揮し、新たな食の挑戦として2年前にこの店をオープンしました。
ディレクターに日本人の伊藤さん、シェフはロシア人という今っぽい国際感です。
ここもアラカルトでお願いし、モクテルをいただきます。共通していえることですが、お酒が飲めないエリアなので、モクテルはどこも独自の進化を遂げているようで面白いです。
トマトのサラダ
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エビ
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チキン
トマトのサラダには白麹をつかったヨーグルトが使われ、北アフリカの調味料ハリッサの辛さがいい風味になっています。
エビはアブダビ産の立派な大きさのものでアヒージョに。オレンジなどの柑橘系オイルがアクセントになっています。
チキンがあったので頼んでみました。いわゆる唐揚げですが、衣が甘く、添えられたサンバルソースを付けるとエスニック感が増します。しつこくなくおいしい味付けです。
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ハニーケーキ
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モクテル
砂漠のオアシス・ハッタの蜂蜜をつかったハニーケーキ。ドバイのスイーツにはデーツや蜂蜜が多く登場します。
値段も日本のビストロくらいのでおいしい、非常にバランスのとれたいいレストランです。眺めもいいからデートスポットとしても最適ですね。
「僕は流行りのマーケティングはやりません」というオーナーのピーターさん。「値段を高くしてお金持ちに対応するのではなく、やはり地元の人に楽しんで長く愛してもらえるレストランにしたいんです」。
そう語る姿勢はやはりこの時代をしっかり見ている気がします。
「Co Chocolat Factory」
サステナブルのテーマでもうひとつ、ティータイムに面白いチョコレート会社を訪問しました。「Co Chocolat Factory」です。フィリピン出身の女性創業者イマンさんが、自国から取り寄せるカカオでチョコレートをつくる過程を見せてくれ、チョコレートの健康効果や、循環型の生産システムについても説明してくれます。なんでも彼女は、糖尿病を患う自分の母親でも食べられるような、万人にヘルシーなチョコレートをつくるためにこの事業を始めたのだとか。
フェアトレードで自国の農場から取り寄せるカカオが様々に商品化され、生産者に還元される流れも見える化されています。最後に自分でチョコレートをつくることもできます。
ウェブからの事前予約が必要になりますが、これはちょっとしたお土産にもなって、面白いと思いました。
次回は、ハイエンドなレストランを見ていきたいと思います。
小西克博/ヒトサラ編集長
北極から南極まで世界100カ国を旅してきた編集者、紀行作家。
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