京都「デュシタニ京都」/【Ayatana】~ヒトサラ編集長の編集後記 第58回
京都駅にほど近い西本願寺の門前町に、またひとつ魅力的なホテル及びレストランが誕生しました。タイを代表するラグジュアリーホテル「デュシタニ」です。京の伝統的な街並みのなかに静かに溶け込むタイの風情。そして、メインダイニングの【Ayatana(アヤタナ)】は、バンコクを代表する名店【Bo.lan(ボー・ラン)】が監修します。京都で体験する本格的で最先端のタイ料理レストランの誕生です。
ホテルのオープニングには、デュシタニ京都を展開するデュシット・インターナショナルの会長、京都市長、タイ国大使を迎えてテープカットが行われ、歴史の長い日本とタイの文化を美しく融合させたい旨が述べられました。
周囲の景観に溶け込む4階建てのホテルは、美しい中庭を取り囲むように147室の部屋が用意されており、いたるところにタイを象徴するアイコンやデザインが取り入れられています。それらが違和感なく京の古い街並みと調和していて、こちらを和ませてくれます。
レストランは、注目の【Ayatana(アヤタナ)】をはじめ、鉄板焼き【紅葉(こうよう)】、バー【Den Kyoto】など5店舗あり、スパやインドアプールも完備しています。
チェックインして、シャワーを浴び、地下1階にある【Ayatana】に向かいます。【Ayatana】とはタイ語で、仏教哲学上の六感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、心)の意味だそうで、すべての感覚をダイナミックに体験できる場所にしたい、との思いから。
レストランの入口には個々人の扇子が用意されています。エッセンシャル・オイルの香りが沁み込ませてあり、それでまずは一服するという趣向です。
それから中庭を抜けてダイニング・エリアに移動し、そこでオーガニック・ハーブの水で手を洗います。これらは一連の儀式のようになっており、それぞれ嗅覚や触覚に潤いを与える構成になっています。
今回はバンコクから、【Bo.lan(ボー・ラン)】のオーナーシェフであるディラン・ジョーンズさんが来日して、ウエルカムフードをサーブしてくれました。
五味五法のタイ料理
メインダイニングは広く、中庭を眺めながらゆっくりと食事ができるようになっています。
アミューズは5種類です。それらが精進料理の五味五法(5つの味付け、5つの調理法)にのっとったスタイルで提供されます。
使われている器は、一期一会の料理を乗せることを意識してか、日本人の美意識に根ざした「わびさび」を感じさせるデザインになっています。
「季節ごとにアミューズは変わりますが、5という数字が意味を持ちます。それは5つの味(甘味、塩味、苦味、酸味、旨味)、食材の5つの色(緑、赤、黒、黄、白)、5つの調理法(焼く、燻す、蒸す、茹でる、生)です」との説明がありました。
さて、アミューズですが、5品登場します。
まずは、梨とエビの前菜から。薄くスライスした梨の下に、ココナッツやエシャレット、生のエビが入っていて、爽やかな酸っぱさが特徴です。色は白、味は酸味、調理法は生ということでしょうか。
次は少し塩辛いライスサラダで、タイ南部で食べられているスタイルだそうです。ライムをしぼっていただきます。確かに南っぽい感じはします。色は緑、味は辛み、調理法はライスだから蒸すですね。
卵料理として出されたのは、カラメルココナッツと蟹を卵のネットで包んだもの。食感の面白さとカラメルの甘さが特徴です。これは黄色、甘み、そして揚げでしょうか。
松茸とガランガルのレリッシュ。
ガランガルは日本の生姜に近い感じです、サンドイッチ風に巻いていただきます。赤色で、松茸の旨味、焼きが調理法で使われています。
最後はゴーヤと豚の角煮ですが、鰯の出汁で煮てありゴーヤがスパイスで使われています。沖縄風ですが、ここは色は黒、味は苦み、調理法は煮るが強調されています。
お酒ももちろんありますが、最初の3品にはスイカをベースにしたモクテル(ノンアルコール・カクテル)が合わせられ、4品、5品めにはそれぞれ別のものが用意されました。コクを出すために白みそが使われていたり、かなりユニークなものです。それらが、前菜5品の複雑な味わいに添えられて、味の広がりの面白さを感じさせてくれます。
私は、ワインとモクテル、両方を合わせてみました。
「宿泊予約は今のところ8割くらいが海外のお客様ですが、レストランは日本人の予約のほうが断然多いです。食材はタイから持ってくるものと、京都で我々がつくっている野菜なども取り入れて、お互いのベストミックスを考えています」とスタッフの方が説明してくれます。
調味料はすべて手ですりつぶしているそうです。ココナッツも手絞りです。これはおいしさの秘訣ですね。
味の振れ幅の妙、それぞれのおいしさ
そして、ご飯が出されます。ジャスミンライスと日本のお米のブレンドで、これはまた面白い食感と風味になります。わかめやあさりの入ったココナッツスープが添えられ、ご飯に合わせた料理が5品、登場します。
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『豚肉のサラダ、柿の赤色ドレッシング』
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『ししとう、唐辛子、バジルで炒めた鶏レバーときのこ』
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『ビーフリブのぺナンカレー』
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『豚肉とエビ、ココナッツクリ ームで煮込んだサバ/京野菜各種と、野菜のレッドカレー・フリッター』
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『タイ東北部風の蒸し魚』
今回はこの5品。これらをテーブルの皆で取り分けて食べるスタイルで、五味五法のスタイルはここでも生かされています。思わぬところに感じたことのない刺激が潜んでいて、なかなかユニークな食体験です。
味の振れ幅は、その輪郭がつかめないほどに大きいのですが、ちゃんとそれぞれ、「おいしい」に落とし込んでくるところが、さすがだなと感心しました。同時にタイ料理の深さを再認識させられたような気もします。
デザートにジャスミンキャンドルで香りをつけた焼き菓子、かき茶などが出てきました。
調理を終えた【Bo.lan(ボー・ラン)】のディラン・シェフと、この【Ayatana】のシェフに就任したフェリックス・シュレンバーク・シェフがテーブルに来てくれ、今日の料理やこれからについて話をしました。
「バンコクも京都も古い都で伝統がある。それらのいいところをミックスするのはもちろんだけど、その伝統の故郷をいつまでも守るという意味で、サステナブルということにも最大限の配慮をしている」とディランさん。味がかなり複雑だったけど、と訊くと、うなずきながらも、でもこのスタイルは変えないつもりとのことでした。
「僕はキャンベラ生まれだけど、タイでは北から南まですべての食材を研究しました。同じようにこれから日本には季節ごとに来て、あらゆる食材を勉強します」と。
今のところ彼のお気に入りは京都のおでんだそうです。
フェリックスさんはドイツ人で、スイスでパティシエだったそうですが、【Bo.lan(ボー・ラン)】のスーシェフとして働き、タイ料理の魅力に憑かれた人。彼もまた独自の視点で、伝統と最先端のはざまでこれから意欲的にチャレンジしたいとのことでした。
レストランを出るとき、ありがとうございました、おやすみなさいの意味を込めたシンキングボールの音がしました。これで一連の食体験の流れが終わるわけです。
京都でタイ料理って、ちょっと不思議な感じもしたのですが、意外とマッチしていると感じたのは、やはり伝統の力と、そして若いチャレンジャーたちの国を越えた情熱のなせるわざかもしれません。勉強になりました。
小西克博/ヒトサラ編集長
北極から南極まで世界100カ国を旅してきた編集者、紀行作家。
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