瀟洒な一軒家レストランで、感性を刺激する新たな食体験に浸る【啓蟄(けいちつ)】|渋谷
北フランスのミシュラン2つ星レストラン【ラ・グルヌイエール】でスーシェフを務めていた実力を持つ松本祐季さんが2023年5月に渋谷区松濤の高級住宅街にある一軒家で自身の店を開きました。「固定観念に捕われないことを信条に、食べたことがないようなものを食べる体験を提供したい」とアイデアと技術を駆使して新たな料理を生み出している松本さんの思いを伺ってきました。
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気持ち高まる瀟洒な一軒家レストラン
一つ一つの食材に向き合う少量多皿のコース
ナチュラルワインや日本酒でペアリング
瀟洒な一軒家というシチュエーションも魅力
渋谷駅から10分ほど歩いた松濤の住宅街にある【啓蟄】。外観からレストランとは想像できない隠れ家的シチュエーションに、初めて訪れた人はきっと少しドキドキしながら扉に続くステップを上がっていくことになるでしょう。
煉瓦の塀と緑の植栽に囲まれた一軒家。階段横の表札に控えめに【啓蟄】と刻まれています
店内は、グレーを基調にスタイリッシュにリノベーションされていますが、緊張感を強いられるような雰囲気ではないのでご安心を。カウンターに立つのはソムリエの平野彩子さん。楽しく和やかな時間を過ごせるよう明るいサービスと細やかな配慮で接客してくれます。
カウンターダイニングの設え。厨房は左奥にあり、セミオープンスタイルになっています
一つ一つの食材に向き合う少量多皿のコース
フランスの2つ星レストランでスーシェフという要職で技術だけではなくアイデアを出し、その店ならではの個性を生み出す鍛錬を積んできたシェフの松本祐季さん。日本に帰国して日本のフランス料理店が世界から注目を集めることができていないことにジレンマを感じたそうです。
「世界と比べても遜色ない高い技術を持っている料理人はたくさんいるのに、認められていない。つまり、技術だけでなく、もっと独自性を磨いて、自分の店でしか体験できないことを提供できるようにならなくてはいけないと思っています」
「理想は、花などの飾りはもちろんソースも添えずに満足してもらえる一皿」と話す松本さん
そんな思いを込めてつけたのが【啓蟄】という店名です。これは、1年を24分した暦で、冬籠りしていた生き物が這い出てくる季節のこと。「地面から新しい命が芽吹くように、この店を訪れてくれた方の中に新しい驚きが生まれるような体験を提供したいという気持ちでつけました」と松本さん。
食材のみが書かれたメニューを開き、どんな料理なのかを想像しつつ待つ時間も楽しい
「時代の流行にあらがうスタイルかもしれませんが、高級食材と呼ばれるものに頼りたくないですし、映えを狙うようなこともしていません」と話す松本さんは、ただただ食材一つ一つに向き合い、アイデアと技術で勝負。自然の中で偶然生まれた形や色も活かしながらまだ知られていない組み合わせ、調理法、食べ方などで食材の新たな魅力を引き出しています。
小さな鶉卵やラディッシュ、あるいはトマトを主役にした前菜など「その食材を使う意味を深く掘り下げ、構成要素はできるだけ少なくして一つの食材にフォーカスしたいと思っています。そして、できるだけ多くの食材を今までにないユニークな食べ方で味わってほしい」という意図から、1コース15~20皿の少量多皿で楽しませてくれるのです。
味わいだけでなく瓢箪のような曲線、オレンジの色合いなどバターナッツの個性を愛でつつ、表面はカリッ、中はねっとりのコントラストも楽しめる一皿
さっぱりとした上品な甘みからポタージュにされることが多いバターナッツですが、松本さんはバターナッツのユニークな形や独特の食感に魅力を感じ、半割りにして細かく包丁を入れ、チョリソーを挟んでグリルしました。表面はカリッ、シャキッ、内側はホクッとした食感のコントラスト、コリアンダーの香りのソースが印象的です。
派手な演出によるサプライズではありませんが、バターナッツの魅力を存分に理解できる食べ方に感心させられます。このように、ほとんどのお皿は1つか2つの食材にフォーカスして、自然の創り出す美しさ、豊かさをお皿の上で表現しているのです。さぞかし食材たちも喜んでいることでしょう。
蕗のペーストを表面に塗った小さな鶉を蕗の葉で巻いてロースト。実山椒の香りをつけたフォンドボーソースで
小さな鶉を使ったこの一皿は、淡白ながらも旨みのある鶉ならではの味わいを楽しめるよう考え抜かれたスペシャリテです。
「フレンチはソースの味が強いので、時に素材感を失ってしまうこともあると感じていました。素材そのものの風味を味わってもらうためにソースの味を控え目にしつつ、でも満足感は感じてもらえるというのが僕の理想。蕗や実山椒など、日本で親しまれている個性的な香りの食材を調味料がわりに使えば、主役の食材を風味豊かに引き立てることができるという考えに至り完成した一皿なんです」と松本さん。
味の構成はフレンチ、でもフランス人ではなく、日本人の松本さんだからこそできる一皿。これこそがイノベーティブなモダンフレンチと実感できます。
食べればポップコーンの味! 気持ちもポップになるショートケーキ
デザートも意外性のある発想で楽しませてくれる松本さん。ポップコーンを粉砕したパウダーを小麦粉に混ぜて焼いたスポンジとポップコーンシロップを使ったクリームでショートケーキに。ゲストからの評判も高く、定番化しそうな一品です。
同じようで一つ一つ反りや曲線の出かたが違う不均一な食器が揃う
料理だけでなく、器にも「意図しながらも偶然生まれる微妙な変化や美しさ」を求める松本さん。「食事は手で触ることはないですが、触れることができる食器は触って何かを感じる質感のある作家さんのものを選んでいます。」固定観念に縛られない自由な器使いも松本さんのポリシーなのです。
冷涼な地域のナチュラルワインや日本酒でペアリング
松本さんの繊細な料理を引き立てるお酒を選んでいるソムリエの平野彩子さんは、山口県宇部市の予約困難レストラン【maison owl】の前身、【restaurant Noël 】に通っていた時に松本シェフと出会い、シェフの料理にお酒を合わせる仕事をしてみたいと上京したそうです。
ソムリエの平野彩子さん。遊び心のあるお酒のセレクトに加え、明るく機転の効いたサービスも好評
「食材の個性を生かすためにとても繊細な仕事を重ねた松本シェフの料理には、強い味のワインよりも冷涼な地域でつくられた透明感のあるワインや日本酒で合わせたいと、インポーターさんにも相談して品質の高いものを揃えています」と話す平野さん。ヨーロッパや北海道のナチュラルワインを中心にした、喉越しの美しいワインや、時に日本酒やカクテルも交えるなどゲストの好みも考慮しながら遊び心あるペアリングで楽しませてくれます。
自然派ワイン好きに響く素晴らしい生産者のボトルが揃っています
固定のメニューは持たず、その時々にとれる食材で今までにない感動を提供してくれる松本さんの料理。食材のさまざまな表情に出会え、そこに常に美酒が寄り添うペアリングも忘れがたく、願わくば足繁く通いたいと思ってしまう素敵なレストランです。
ディナーは一斉スタートではないので都合の良い時間に予約できるのは嬉しい限り。また、「気軽に立ち寄れるようなレストランにできたらと、10月からは17時スタートの予約に限りショートコースも始めました」と松本さん。今後スタッフが充実すれば、バータイムにアラカルト、という展開も期待できるかもしれません。
ジャズを中心にコージーな音楽が流れる落ち着きのある空間
この記事を作った人
撮影/中込涼 取材・文/藤田実子
フード・ワイン・日本酒などのを生み出す人々の日々の仕事、思い、人生、哲学に興味を持ち雑誌・書籍などで取材を重ねている。執筆作品に『鮨 一幸のすべて』『鮨さいとう 鍛錬と挑戦』(ともにカドカワ)などあり。ライター歴30年。
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