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更新日:2024.06.13旅グルメ 連載

京都「ザ・リッツ・カールトン京都」/「宝泉院」~ヒトサラ編集長の編集後記 第67回

「ザ・リッツ・カールトン京都」の開業10周年記念として、大原の宝泉院で特別ディナーが開催されました創建800年の寺の額縁庭園といわれる美しい庭を目の前に、総料理長の井上勝人シェフの料理をいただけるという贅沢なイベントです。初夏ではありましたが、京の北の山里はひんやりとしていました。陽が落ちるとライトアップされた樹齢700年の五葉の松が実に優雅な趣をみせてくれます。

京都「ザ・リッツ・カールトン京都」/「宝泉院」~ヒトサラ編集長の編集後記 第67回

京の北の山里で

大原まで来たのはずいぶんと久しぶりのことでした。三千院の坂を上り、小川のせせらぎを聞きながら進むと宝泉院の山門が見えてきます。

中に入ると、緑豊かな庭に設えられた木のテーブルでウェルカムドリンクが用意されていました。京都発のボタニカルなジン「季能美 KI NOH BI 29th Edition ザ・リッツ・カールトン京都開業10周年記念ジン」でつくられた爽やかなカクテルです。小鳥の囀りを聞きながらそれをいただいていると、井上シェフがブーケを持っての登場。いや、これが最初のアミューズでした。

    井上勝人

「ようこそお越し下さいました。今回は大原の自然をテーマに料理を構成してみました。まずこれは花畑です」。
焦がした野菜のタルトです。大原のイノシシや自家製味噌が使われ、花が咲き乱れている野原のような美しさ。

そして竹に入った和え物。これはタケノコとミルク、じゅんさいなどで構成されています。相性のいいやさしい食感で、竹林のイメージ。

川をイメージしたという稚鮎が登場します。琵琶湖のものだそうです。鮎をしば漬けのソースでいただくのは初めてでした。なんでもしば漬けはここ大原・三千院の僧侶が考案したのだとか。まさにこの地ならではの演出です。ほろ苦い稚鮎とクロモジの香りの爽やかなしば漬けのソースは実に爽やかで、食欲が湧いてきました。

アミューズが済むと、ここちよい風が通り過ぎる庭をあとに宝泉院内へ案内されます。そこで目に飛び込んできたのが五葉の松を讃えた美しい庭。柱が額縁のようになっていて、後ろから見るとちょうど額の中に納まった一幅の絵です。この美しい庭園を前に、我々は今夜のディナーををいただきます。

シャンパーニュで乾杯して、最初にいただくのは白い皿のサラダ。
「宝泉院サラダと名付けました。ここ大原の風景を、お皿の上で表現してみたものです。大原の野菜と近郊で獲れたものでつくっています」とシェフ。
レンコンや小カブ、チンゲン菜、クレソン……よく見れば白いお皿は比叡山や大原の地形で、そこに里山の風景が再現されています。黒い土はおからでつくった黒いパウダー、苔を表す緑は野菜のパウダー。大原の冷たい水と一緒にいただくと、この風景全体をいただいている気分になります。

ご住職が庭の松の話をしてくれます。京の三大松という名声に訪れた俳人・高浜虚子はこの松をこう詠んでいます。
「大原や 無住の寺の 五葉の松」。

陽が沈み始め、あたりはだんだん暗くなってきます。
山間に沈む夕陽の美しさは、古代より多くの歌に詠まれてきたそうです。

そんな山を表現したと出てきたのはウニのパスタ。なぜ山でウニかと思えば、大原の野菜が練りこまれた緑がベースになったパスタの上に、美山の湯葉が乗り、ウニが山の形になっているからだとか。

梅干がちょっとしたアクセントになっている軽やかなパスタをシャブリでいただいていると、後ろからいい香りとともにシェフが釜を持って登場です。

陽が落ちて現れる幽玄の世界

蓋を開けるとアワビの香り。新緑をイメージした緑色のリゾットです。米は大原のコシヒカリが使われ、水は大原の湧き水、宇治の新茶の葉っぱがあしらわれています。アワビの旨みが凝縮し、合わせてもらった水明という日本酒がいい具合に寄り添ってくれます。

水明というお酒は「ザ・リッツ・カールトン京都」が、独自にこの地で酒米を育てるところから始めてつくったお酒で、これを求めてホテルに滞在する人もいるのだそうです。

光量が落ちたので、ちょうちんがテーブルに運ばれてきます。

メインは松坂牛のビステッカ。新玉ねぎや実山椒が添えられています。玉ねぎをクッキー状に炒めて土を表現しているそうです。松坂牛のLボーンステーキは柔らかく上品で、豊かな大地を感じる味わいになっています。ここはバローロでいただきます。

デザートは日向夏や亀岡はちみつ、京丹後ジャージーミルク等で構成されたジェラートで、杉の新芽、蜂が集めた花粉が乗せられています。なんだか花粉対策のようなデザートですが、口に含んだときのほのかな甘さと複雑なテクスチャーが面白い。

「日向夏を月に見立てみました。5月は皐月(さつき)、早苗を植える頃の月という意味で、早月(さつき)とも言われるそうです。「皐」の字には 「神に捧げる稲」という意味もあって、ちょうど今の時期にいいかなと思いまして」とシェフ。

大原の自然に優しく抱かれているようなディナーでした。

最後は茶室へ移動してお茶をいただきます。苔をイメージしたクッキーが添えられます。
こちらの庭もまた美しい。幽玄の世界です。

優しい灯りのなかで最後のお茶をいただき、清々しい気分で外に出ると、竹林の上にさっきいただいたドルチェのような月が凛と輝いているのでした。

【シェフズ・テーブル by Katsuhito Inoue】
https://chefstable.ritzcarltonkyoto.com/

この記事を作った人

小西克博/ヒトサラ編集長

北極から南極まで世界100カ国を旅してきた編集者、紀行作家。

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