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更新日:2024.07.02食トレンド

「こんな風に食べたい」を突き詰めた、とんかつ店の理想形|外苑前【とんかつ ここまでやるか。】

なんともキャッチー過ぎる店名に驚かされるが、外苑前の人気店【malca】の北野司シェフがプロデュースと聞けば納得。無類のとんかつ好きとのことで、その“とんかつ愛”が高じて、「スタッフも皆とんかつ好きで固め、とんかつ店の理想を形にした」と、北野シェフが自信を持ってオープンさせた話題店で、「どこまでやったのか」を体験してきました。

「こんな風に食べたい」を突き詰めた、とんかつ店の理想形|外苑前【とんかつ ここまでやるか。】

本能に訴える熱々ジューシーのとんかつ

老舗の天ぷら店か割烹料理店を訪れたような落ち着いた雰囲気。店名とのギャップに戸惑います。「“ふざけた名前” “本当に旨いのかな?”と半信半疑で来られた方も、この雰囲気なら安心していただけますよね」と、料理長の田代昌雄氏が笑顔で出迎えてくれます。

    カウンターには真っ白のナフキン、落ち着いた色調の食器、そして電動の岩塩用のミルが整然とセッティングされています

    カウンターには真っ白のナフキン、落ち着いた色調の食器、そして電動の岩塩用のミルが整然とセッティングされています

「おしぼりも厚手のタオル生地を使用しています。味だけでなく、お客様が手を触れるものすべてのクオリティを高める細かいホスピタリティに対しても“ここまでやるか…”と感じてほしくて」(田代氏)

    揚げ場に立つ料理長の田代昌雄氏。料理の技術の中でも“揚げ物”の奥深さにハマり、日々研究している

    揚げ場に立つ料理長の田代昌雄氏。料理の技術の中でも“揚げ物”の奥深さにハマり、日々研究している

雰囲気からして常識を変えていこうという静かな闘志が伺える。では主役のとんかつは「どこまでやったのか」を聞いてみました。

「近年とんかつ業界で流行っているのは、低温でじっくり揚げた衣が白っぽいとんかつ。油から揚げた後は、肉汁が安定するまで休ませてから提供されます。こういったとんかつは、やわらかくてしっとりとした仕上がりですが、何か物足りない。肉の旨みを引き出すには、“じっくり”の火入れは重要ですが、食べる時に本能に訴えてくるのは香りやジューシー感、熱々ということも重要なんじゃないか、というのがとんかつマニアの北野シェフや私をはじめ、うちのスタッフの理想とするとんかつなんです」と熱弁する田代氏。

    誰にでも愛される癖のない兵庫・神戸ポークや旨味濃厚な北海道・どろぶたなど個性の違う豚肉をを2〜3種厳選。ロースは200gか100gを選べる

    誰にでも愛される癖のない兵庫・神戸ポークや旨味濃厚な北海道・どろぶたなど個性の違う豚肉をを2〜3種厳選。ロースは200gか100gを選べる

田代氏が目指すのは、目の前に置かれたときに立ち上る香ばしい香りも大切にした本能に訴える熱々ジューシーなとんかつです。

    とんかつは低温と高温で仕上げる2度揚げ方式

    とんかつは低温と高温で仕上げる2度揚げ方式

まず低温で下揚げ。その後、高温に設定した鍋に入れて田代さんが油の音、触った時の感触、衣の色など五感をフル活用して仕上げていきます。

    白っぽかった衣が徐々に色づいて食欲を刺激する狐色に。包丁を入れた時のザクッと小気味良い音にも食欲をそそられます

    白っぽかった衣が徐々に色づいて食欲を刺激する狐色に。包丁を入れた時のザクッと小気味良い音にも食欲をそそられます

「お肉の味をちゃんと味わってほしいので、パン粉の味は控えめながら、香ばしくサクサクの食感になるものをとパン粉専門店からパンの糖度、挽き方などを変えて何種類も見本を届けてもらって決めました」とパン粉も徹底的にこだわっています。

    大きめのカットで揚げる『神戸ポーク、特上ヒレカツ』160g 3,200円、80g 1,800円のハーフサイズもあり。衣はサクサク、肉の中心はロゼ色でしっとり。コクが深く鼻に抜ける肉の旨みと甘い香りがしっかり脳に刻まれる

    大きめのカットで揚げる『神戸ポーク、特上ヒレカツ』160g 3,200円、80g 1,800円のハーフサイズもあり。衣はサクサク、肉の中心はロゼ色でしっとり。コクが深く鼻に抜ける肉の旨みと甘い香りがしっかり脳に刻まれる

ロースもヒレも厚切りで一見ボリューミーですが、ロースは脂が軽やか。サクサクと食べすすむことができ、完食しても重たい印象は残りません。「熱々で食べる方が口溶けも良く、軽やかに食べることができるんです」と田代氏。

また、お肉にまぶす打ち粉も小麦粉に卵白パウダーをミックスしたものを使用することで衣がしっかりお肉に密着し、お肉と衣の一体感もしっかり保ったまま味わうことができます。

とんかつを引き立てる名脇役も勢揃い

“とんかつ愛”のこだわりは、ソース、キャベツ、ご飯やお味噌汁など脇役にも徹底されています。「まずソースは、トマトソースをベースに、甘過ぎす重過ぎずのバランスでブレンドして、誰の好みにも合うオーソドックスな味にしつつ、少しだけカルダモンやナツメグなどのスパイスを加えてアクセントをつけました」と田代氏。

このソースを熱々で提供するのは「せっかくとんかつが熱々でも、冷たいソースで温度が下がってしまっては台無しなので……」と田代氏。キャベツを別添えにしたのも温度を下げたり、ドレッシングがとんかつに影響を与えたりしないようにという思いからです。

    とんかつを待つ間に擦っておいた胡麻の上に熱々のソースが注がれる

    とんかつを待つ間に擦っておいた胡麻の上に熱々のソースが注がれる

熱々ソースだけでなく、地中海風、イタリア風に味変ができるソースやさっぱり食べたい人のために、こだわりの塩、だし醤油と山葵も目の前にずらり。ご飯と共に食べる時はとんかつソースや塩だけでも充分に楽しめますが、アラカルトとしてお酒の飲みながらという場面では味わいの幅が広がり満足度がより一層あがること間違いありません。

    スペインやモロッコでメジャーなスパイシーソース“モホ”バジル、アンチョビを使ったイタリア風“サルサヴェルデ”などで味変も楽しめる

    スペインやモロッコでメジャーなスパイシーソース“モホ”バジル、アンチョビを使ったイタリア風“サルサヴェルデ”などで味変も楽しめる

    塩でシンプルに肉の味わいを堪能するのもおすすめ。塩はバスク地方の湧き塩水を天日干しにしたもの。電動ミルが用意されている

    塩でシンプルに肉の味わいを堪能するのもおすすめ。塩はバスク地方の湧き塩水を天日干しにしたもの。電動ミルが用意されている

もちろん定食として食べる時のご飯、お味噌汁もとんかつ味を邪魔せず引き立てるお米の品種、お味噌の種類を厳選しています。

アラカルト、美酒も充実。“呑める”とんかつ割烹

「とんかつ店は定食で提供するのがメインで、お酒が充実しているお店は少ないですよね。そこを強化したいというのもこのお店のコンセプト」と話す田代氏。

「とんかつ店」というカテゴリーの中だけに収めず、おいしい料理とお酒がある料理店として幅を広げ、いろんなシチュエーションで利用してほしいとのことで、「とんかつ定食だけでなく、アラカルトでも注文できます。豚の種類は味わいの違いで2、3種用意しているので、定食ならスタンダードな味の神戸ポーク、ワインと楽しむなら旨みの濃いどろぶたやガリシア栗豚がおすすめ、などご提案しています」。

※日によって豚の種類が変わることもあります

    ワインは姉妹店【malca】の経験豊かなソムリエがとんかつはじめ揚げものと相性の良いワインをセレクト

    ワインは姉妹店【malca】の経験豊かなソムリエがとんかつはじめ揚げものと相性の良いワインをセレクト

    味わいの違うもの、季節限定品など、いろんな人の好みに合うよう10種類近い日本酒が多彩に揃えられている

    味わいの違うもの、季節限定品など、いろんな人の好みに合うよう10種類近い日本酒が多彩に揃えられている

メニューには、神戸牛と銘柄豚のミンチをミックスした『メンチカツ』(1個700円)や、能登産の『アジフライ』(一切れ 1,100円)、『釣りサワラのフライ』(1切1,500円)、『鳴門尾水産から届く足赤エビのフライ』(1本 800円)などもあり、定食でもアラカルトでもオーダーできます。またとんかつはロースもヒレも食べたいし、産地厳選の魚介のフライも食べたいという人には、少しずつ楽しめるコース(11,000円、2名よりオーダー可能)もあります。

このコースには嬉しいことに締めのラーメンまで含まれています。揚げ物を堪能したフィナーレにふさわしい味わいになるよう、豚と鶏の挽肉を香味野菜と共に煮込んで旨みや香りを引き出してから丁寧に漉して仕立てたコンソメスープを風味豊かな醤油で味を決めています。

    香り高く透き通った余韻が長く続く『特選銘柄豚の特製コンソメ醤油ラーメン』(アラカルトの場合1,000円)。麺は【富士麺ず工房】に特注するなどこだわりぬいている

    香り高く透き通った余韻が長く続く『特選銘柄豚の特製コンソメ醤油ラーメン』(アラカルトの場合1,000円)。麺は【富士麺ず工房】に特注するなどこだわりぬいている

とんかつや揚げ物が大好きという人はたくさんいますが、揚げたて熱々のとんかつやフライをサクサクとつまみつつ、ワイン、日本酒、焼酎やウィスキーなど厳選されたお酒をゆっくり楽しめる専門店は確かにあまり多くは存在しません。

とんかつ店として食材や揚げ方にこだわるだけでなく、せっかくのこだわりを最大限に堪能できるよう温度、ソース、白米、お酒、そして雰囲気からホスピタリティなどまですべての環境を整え「とんかつ愛」を表現してとんかつ店の限界を突破しているこのお店。これからもさらに限界を超えて「ここまでやるか」を更新していくに違いない勢いがあり、「どこまでやるのか」目が離せない存在になりそうです。

この記事を作った人

撮影/佐藤顕子 取材・文/藤田実子

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