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更新日:2024.10.04旅グルメ 連載

真鶴【そうめん真鶴】~ヒトサラ編集長の編集後記 第71回

そうめんを食べに真鶴まで出かけました。真鶴とそうめん、ってちょっと意外かもしれませんが、この店では、珍しい本格派の手延べそうめんが、なんと世界のワインと合わせて提供されるのです。そうめん好きのソムリエだったオーナーだからこそできたこだわりのお店は、海の見える小高い丘にありました。

そうめん真鶴

真鶴の駅からタクシーで10分ほど。瀟洒な別荘の並ぶ小丘に【そうめん真鶴】はあります。鮨の好きな方には有名な【伊藤家の壺】の近くといえばわかるかもしれません。

    そうめん真鶴外観

前もって4人でお邪魔すると連絡し、店を貸し切らせてもらいました。そうめんとワインのマリアージュには皆、すごく期待しています。

眺めの良い店内からは真鶴の海や山を眺めることができ、光あふれる店内には静かにジャズが流れていました。オーナーシェフの伊藤友彦さんと奥様が迎えてくださり、われわれは席に着きます。友人の別荘にでも招かれたような気分です。

まずはスパークリング・ワインで乾杯し、ワインのセレクトはソムリエである伊藤さんにお任せすることにしました。伊藤さんは京都の出身で、実家が洋食店だったためワインに触れる機会も多かったのだとか。でもそれ以上にそうめんが好きで、高じてついにワインとそうめんという面白いマリアージュのお店を持つに至ったのだとか。

「いまは本当に手で延ばしてつくる職人さんは数人しかいないのが現状で、ほとんどが機械でつくられています。僕は本物を知りたくて、徳島や淡路島に残る職人さんに勉強させてもらっています。真鶴って、海が綺麗で、あのあたりのテロワールに似てるんですよ。それがここを選んだ理由です」

そう言いながら出てきた前菜は、出身の京都っぽいもの。京揚げとこまつなのお浸しです。昆布だしにイワシのだしが効いています。

それと、するめで炊いたという山形の玉こんにゃく、小田原の蒲鉾は手前が籠清、奥が鈴廣、そして山形の郷土料理「だし」です。効くと奥様が山形の出身で、京都、山形、小田原といった構成になっているのだとか。

そしてそうめんです。岡山県鴨方の河田さんの天日干し、手延べ。本格派のベーシックを、昆布、鯵干、イワシの冷たいだしでいただきます。とても爽やかで、口に含んだ瞬間に海を感じるような印象を持ちました。これにはミネラル感のある冷えた白ワインですね。

次はこのだしを土台にした油そうめん。鹿児島の郷土料理ですが、これは徳之島の人から教えてもらったレシピだそうで、あえて炒めずさっぱりとした味わいを残すのだとか。そうめんはさきほどのものよりやや太め、淡路島の谷間さんの4年熟成の手延べ。食感がしっかりして、歯ごたえがここちよい。

「そうめんもワインと同じく熟成します。独特の熟成香も出てきて食べ方のバリエーションも広がります。油で延ばしたそうめんは放っておけば熟成するんですが、僕はそうめん用のセラーも持ってます」と伊藤さんは笑います。

ほどなく立派な鯛そうめんが出てきました。おくらや玉ねぎ、なすなどの夏野菜とともに贅沢な盛り付けです。「鯛を揚げるのは瀬戸内海でも東側です。ハレの日の料理です」とのこと。揚げた鯛の上品な油分とそうめんとだしのハーモニーはなかなかのものです。

ワインもハレの日っぽく、グリューナー・ヴェルトリーナー ベートーヴェン 第9ラベルと行きましょう。

そしてメインは鍋。これでゆっくり飲んでください、と言わんばかりに、つくねや野菜がたっぷり出されます。シャキシャキしたネギは茶殻を肥料にしたものだそうで、つくねとだしと相性がよくお酒が進みます。オレンジワインを頼みました。

伊藤さんがそうめんを投入。これも岡山の河田さんのもので、最初の物より太め。そうめん鍋の周りが平らになっていて、そこにそうめんを滑らせるようにして取るのがうまく掬えるコツなのだとか。

そうめんから出る塩分もいいだしになり、おかわりが欲しいところに、では、もうひとつと用意されたのが、北原製麺所の先岳糸という極細麺。日本で3番目に細いそうめんなのだとか。

これを伊藤さんのストップウォッチの合図にあわせて、40秒ごとに掬い上げて食べます。酔いも手伝ってか、このイベント感はなかなか楽しい。最初は腰を感じた麺が、だんだん柔らかくなっていくのですが、独特のもちもち感を味わえたのは貴重でした。

酔い覚ましにベランダに出ると海風がここちよい。

デザートもそうめんでした。そうめんを切るときに出る残りをバチといって、それをきなこと混ぜて甘味にしたのだとか。

結局、昼に行って4時間も我々はそうめんとワインで過ごし、高くついたかなと思いきや、お勘定はひとり1万円ほど。これはわざわざ来る価値ありますね。新しい発見がいっぱいありました。

小田原から帰ろうと思い下車したはいいのですが、まだ明るかったこともあり、ここは名物女将のいる【杵吉】でいっぱいやって帰ることにします。もちろん女将にもそうめんとワインの話は受けました。

この記事を作った人

小西克博/ヒトサラ編集長

北極から南極まで世界100カ国を旅してきた編集者、紀行作家。

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