更新日:2026.04.09食トレンド
「サンペレグリノ・ヤングシェフ・アカデミー・コンペティション(SPYCA)」アジア代表のお披露目会が香港【LOUISE】で開催
次世代の料理人を発掘する 「サンペレグリノ・ヤングシェフ・アカデミー・コンペティション(SPYCA)」アジア代表のお披露目ランチ会に参加しました。「アジアのベストレストラン50」の授賞式に先立ち香港の【LOUISE】で開催されたこの会では、有能な若手シェフとベテランによる競演からいまのアジアのトレンドを見ることができました。
香港にある高級フランス料理店【ルイーズ(LOUISE)】で行われた今回のランチは、アジアの食の現在地を一皿ごとに可視化する密度の高い場でした。背景にあるのは、S.Pellegrino Young Chef Academy(SPYCA)。「アジアのベスト50 レストラン」の発表と並走する形で開催されるこのプログラムは、単なる若手コンペティションではなく、世代と地域を横断する料理人ネットワークの構築を目的としたユニークな試みです。
アジアのジャーナリストたちを集めたこのランチはPMQというリノベーションされた新しいカルチャー施設にある【ルイーズ(LOUISE)】で開催されました。
バーで軽くシャンパーニュをいただいたあと、着席します。
主催者の挨拶に続き、出てきた最初の皿はスナッパー(アカネフエダイ)にサンバルヒジャウ(インドネシアの伝統的な辛味調味料)を合わせた一品。これはインドネシア出身のシェフArdy Ferguson氏によるもの。
東南アジアの屋台文化で育った味覚をベースにしながら、フレンチの繊細な火入れで魚を仕上げる。ここではすでに、「技術は西洋、味覚はアジア」という現在の文法が提示されています。
続く和牛の皿は、京都の【middle】のシェフ藤尾康浩氏が担当します。彼は主に欧州で修業をした人ですが、日本の料理文化、とりわけ発酵や保存の技術を背景に持つシェフで、この皿でも半乾燥の牛肉にたくあん、柿、米を組み合わせることで、寿司的な構造を再構築しています。派手なソースに頼らず、時間と旨味の蓄積で成立させるそのアプローチは、日本的な引き算の強さを示していました。
三皿目のトリッパは、香港のKevin Wong氏によるものです。フレンチの古典的な内臓料理であるトリップをシンガポールのチキンライスと結びつけ、さらにスープを注ぐことでバクテーの記憶へと変化させます。この皿は、植民地的な歴史を持つアジア都市に共通する、多層的な食文化を象徴していました。高級料理と日常食の境界がうまく溶け合っています。
続くラングスティーヌは、シンガポールの三つ星レストラン【オデット(Odette)】を率いるJulien Royer氏の皿。ヴァン・ジョーヌと鰹節という、一見遠い文化の素材を、発酵と熟成という共通言語で結びつけます。彼はフランス料理の技術を基盤にしながら、アジアの文脈で再定義してきたシェフであり、この一皿はそのひとつの到達点とも言えるものです。
ラムの皿は、シンガポールの若手シェフIan Goh氏です。スモークしたラムに海藻、レーズンのチャツネ、ミントを合わせ、野性味の強い素材を多層的に制御します。ここでは中東から東南アジアにかけてのスパイス文化や味覚が交差し、アジアという広域の中での新たな調和が提示されます。
最後のデザートは再びRoyer氏によるもの。柑橘、ハチミツ、マドレーヌというシンプルな構成で、複雑なコースをクラシックへと回帰させました。最後の着地はフレンチというわけです。
この一連の流れは、個々の料理の優劣を競うものではなく、SPYCAという枠組みの中で、世代と地域を超えた「共通言語としての料理」を提示する試みです。「アジアのベスト50レストラン」が評価の場だとすれば、SPYCAは関係性を編む場なのでしょう。そこではトップシェフがメンターとして若手を導き、同時に若手は自らのルーツを持ち寄ることで、新しい料理の文法を生み出していくのです。
このプロセスの頂点に位置するのが、ミラノで行われる最終決戦です。世界各地域から選ばれた若手シェフが集まり、料理を競い合うこの舞台は、単なる勝敗以上の意味を持ちます。そこでは「どの国の料理か」ではなく、「どのような思想を持つ料理か」が問われているようにも思えます。
香港でのランチは、その縮図です。異なるバックグラウンドを持つシェフたちが、一つのテーブルの上で交差し、対話し、そして新たな均衡を見つけていく。ここにあったのは、完成された料理ではなく、更新され続けるプロセスそのものでした。
この記事を作った人
小西克博/ヒトサラ編集顧問
北極から南極まで世界100カ国を旅してきた編集者、紀行作家。
◆
大学卒業後に渡欧、北極から南極まで約100ヶ国を食べ歩く。共同通信社を経て、中央公論社で「GQ」創刊に参画。2誌の創刊編集長、IT企業顧問などを経て、現職。
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