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一つ星フレンチ【nacrée】の進化が止まらない

大きく広がる世界観とともに、料理への探究心が留まるところを知らない緒方さんがシェフを務めるフレンチレストラン【ナクレ】。2017年7月に発売された宮城県版ミシュランでは、一ツ星を取得しました。いま勢いのある【ナクレ】が大切にしていることとは__

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大切なのは“捨てる勇気”

    建築家・隈 研吾によるフロアは、穏やかな光に満たされた白と花の回廊

 新生【ナクレ】の誕生から1年半。緒方さんはその料理の精度を堅実に上げながら、時に大胆にそれまでに構築したレシピを捨て去り、日々新たな味わいを生み出している。「捨てる勇気。せっかくあと少しで完成しそうだと思えるレシピでも、躓いてそこからなかなか答えが出ないのなら、いちど全部捨てて一からまた考えた方がいい場合が多い。10代の頃、塾の恩師に教えられたこの言葉が、今になって効いています」

    オーナーシェフである緒方稔さん。厨房から直火を排し、食材の香りそのものをどこまで引きだせるかを探求

 オープン当初からのレシピをブラッシュアップし続けた「現在形」が楽しめるのが、この『アスパラガスとブラウンマッシュルーム、イチジク』。緻密に時間と温度をコントロールして茹で上げたアスパラガスは、オレガノの風味。野菜で構築された皿の繊細な香りをマスキングしないようオレガノを活かすことは、実はかなり高度な技術だ。ブリオッシュを焦がしてクラッシュした粉末がマッシュルームの香りとイチジクの甘さを繋ぎ、柚子の皮のシロップ漬けがアクセントに。土から出ずるものと、空に生るもの。陰と陽。五大。緒方さんの料理には、世界の真理が映っている。

    『アスパラガスとブラウンマッシュルーム、イチジク』

 完成の直前に大きく方向転換して生まれたというひと皿が、『ブルターニュ産オマールエビととちおとめ、トリュフ』(※トップの写真参照)。それまでほぼ九割がたできていたレシピが、今朝、山形のこのいちごを摘んだことでがらりと変わったという。

    『帆立とトマト、ストラッチャテッラ』

 また、器からのインスピレーションに導かれて生まれたのが、『帆立とトマト、ストラッチャテッラ』。ともに笠間焼の陶芸家として活躍する船串篤司とケイコンドウ。二人展を開くほど親交の深いこの2人の器を、同時に楽しめる料理をつくりたい、というのが発端だった。軽さと焼きたての風味が命のパート・サレ(タルトやパイのベースとなる、焼いた塩味の生地)に、薄く叩いた帆立、バターとチーズで煮詰めたトマトのピュレを、すべてが同じ厚みになるよう重ねた。熟れ切らない桃のような甘酸っぱさを持つレッドオキザリスを天に重ね、円の反復が美しい皿の風景の一部となってソースを待つ。ストラッチャテッラ(イタリア原産のチーズ・ブッラータの中身。【ナクレ】では独自の手法でこれを使用)をベースにした乳化のソースは、そのミルキーでふくよかな味わいがどこかプリミティヴで、ケイコンドウのポットにとてもよく似合う。

    『ボタン海老のローストと二十日大根』

    『鳩のロースト、フランボワーズのソース』

【ナクレ】の進化とともに、地下1階の系列店【カラク】も進化した。アフターディナー仕様のバーとしてだけでなく、ワインを軸に発想された料理をコースで味わえる、もうひとつのレストランに。選ぶワインによって、カウンターに立つ渡邊政也シェフがフレキシブルに調理を行うジャズセッションのような愉しみも。【ナクレ】は、これからも変わってゆくだろう。変化を進化に変える力は、「捨てる勇気」なのかもしれない。

    地中に張りめぐらされた根の空間をイメージした地下1階の【caraque】

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出典/Kappo vol.88(2017年7月号)

この記事を作った人

文=ナルトプロダクツ 、写真=オフィスイケガミーズ

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