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更新日:2017.10.03食トレンド 健康美食

「もの凄い鯖」って一体なに?! 料理人から支持される話題の食材とは

料理人の間で話題の食材があります。創業70年、老舗の干物店「越田水産」が手がける「もの凄い鯖(ものすごい鯖)」。最近、多くの料理人が自店のメニューに取り入れはじめています。それはなぜか。理由は干物の味と食材のもつストーリーにありました。
※現在は「越田の鯖」として販売

「もの凄い鯖」って一体なに?! 料理人から支持される話題の食材とは

そもそも、「もの凄い鯖」って一体なに?

都心から約3時間かけ向かった先は、茨城県神栖市波崎。ここは黒潮と親潮がぶつかる好漁場として知られる銚子にほど近い、漁業が盛んな地域です。出迎えてくださったのは、創業70年を迎える越田水産3代目の越田英之さんでした。

    パッケージのデザインを手掛けたのは、チョークグラフィックで知られるCHALKBOYさん

    パッケージのデザインを手掛けたのは、チョークグラフィックで知られるCHALKBOYさん

「もの凄い鯖」とは、越田水産が製造・卸・販売している鯖の干物のこと。塩と水、鯖のエキスでできたつけ汁に浸した無添加の鯖は、脂と塩気のバランスが絶妙です。しかも、通常の干物と比べて脂が多くジューシーなので料理にも使いやすく、和食・フレンチ・イタリアンと様々なジャンルのレストランで使用されています。

    朝5時30分から加工場に入り、さばきはじめます

    朝5時30分から加工場に入り、さばきはじめます

そんな「もの凄い鯖」。旨い理由にはこんな秘密があったのです。

越田水産の「もの凄い鯖」が“もの凄い”ワケ

とんでもない価値があった「熟成つけ汁」

    これが46年ものの「熟成つけ汁」。このつけ汁が鯖の味をつくりあげます

    これが46年ものの「熟成つけ汁」。このつけ汁が鯖の味をつくりあげます

「もの凄い鯖」をつくる手順として、さばいた鯖の内臓を取り出し水洗いした後、つけ汁に浸します。このつけ汁が実は‟凄い”のです。

46年間、塩をつぎ足し続けてきた「熟成つけ汁」。もともとは鯖を塩につけていたのですが、鯖から出るエキスで塩が液状になり、つけ汁へと変化しました。温度を上げないよう細心の注意を払い、鯖を繰り返しつけることで液体を循環させ、46年もの間熟成させてきました。

スコップで底をすくい上げれば、大量の塩が――。なんだか塩辛そう。

    鯖のエキスで紫色に色づけされたつけ汁。底には大量の塩が! 

    鯖のエキスで紫色に色づけされたつけ汁。底には大量の塩が! 

「ちょっと舐めてみれば?」

そう言われつけ汁を舐めてみると、想像とは異なり、味は意外にもまろやか。
「昔から熟成させることを“塩を枯らす”と言うんだ。枯らしたつけ汁はまろやかになり、棘がなくなる。だから、このつけ汁に長くつけても鯖は塩辛くならないよ」

こんなに塩が残っているにも関わらず、塩気があまり強くない。しかも魚のエキスが溶け出た液体は生臭さも少ない。これは一体なぜなのか。

    鯖を沈めてつけ込みます。つけ込む時間は季節や気温、風や湿気によって異なります。この日は湿気が多いから短めの20分ほど

    鯖を沈めてつけ込みます。つけ込む時間は季節や気温、風や湿気によって異なります。この日は湿気が多いから短めの20分ほど

このつけ汁について菌の検査機関が調べてみたところ、つけ汁には酵母菌や乳酸菌が約48種類ほど自然に住みつき生態系を構築していたことが発覚! これらの菌から発生した酵素が鯖のタンパク質を分解し、旨味成分に変えていた。だから塩辛さも生臭さも少なく、つけ汁につけた鯖は旨味がぐっと上がるのです。

    元水産相で全国を飛び回っていた知人から「無添加のつけ汁を使っている加工場は、越田さんのところ以外ほとんど見なくなってしまった」と言われたそう

    元水産相で全国を飛び回っていた知人から「無添加のつけ汁を使っている加工場は、越田さんのところ以外ほとんど見なくなってしまった」と言われたそう

48種類の中には何にも属さない新種の酵母が2種類あり、さらにチーズを発酵させるために必要な天然酵母も自然と生息しているのだとか。

「どうやらチーズ屋がわざわざ南イタリアへ取りに行くような酵母菌が入っているらしいんだよ」と英之さん。すると母の信江さんは、「あぁ、父ちゃんチーズ好きだったもんな」とポツリ。……いやいや、お母さん。それは関係ないのでは? 笑

つけ汁、危機一髪!!

    つけ汁によってほんのり色づいた鯖

    つけ汁によってほんのり色づいた鯖

それほどまでに貴重なつけ汁ですが、9年ほど前、存続の危機があったといいます。スーパーや量販店が求めるのは“臭みのない魚”。しかしそれは薬を使っているからこそ匂いが消えているのであって、無添加で魚の匂いがほんのり残る越田さんの鯖は需要がなくなってきていました。いよいよ販路が狭まってきた時、2代目である父が「つけ汁を捨てよう。諦めよう」と言ってきたのです。

「つけ汁が腐らないように毎日神経を使っていた。しかし、世間では無添加ではなく、魚臭くない魚を求めていた」

“ご縁”がつけ汁を救う

    毎朝5時30分に起床し、鯖をさばき始める3代目の越田英之さん

    毎朝5時30分に起床し、鯖をさばき始める3代目の越田英之さん

無添加のつけ汁を捨てて大手と同じやり方で生き残るか、店ごと消えて無くなるか。

そんな時、高田馬場で定食屋を営むおばあさんから1本の電話が入ります。鯖を仕入れていた魚屋のご主人が突然亡くなり、魚の仕入れに困っていたのです。最初は近所の鯖を代わりに出していましたが、お客様に「これじゃダメだよ」と言われ、無添加の鯖を探し続けました。そして、越田さんの鯖にたどり着いたのです。

「お宅の鯖を宅急便で送ってくれませんか」

嬉しくて、いてもたっても居られず、1ケース分の鯖を自ら担いですぐさま電車に乗り、お店のある高田馬場へと向かいます。お昼時、さっそく定食として出された鯖を「ここは鯖が旨いんだよ」と言いながら、嬉しそうに食べているお客様の姿を目の当たりにするのです。

「この鯖のこの味じゃなきゃダメって人が一人でもいる限り、捨てずにガンバっぺよ」。
家に帰った英之さんは父にそう告げたのです。

    4代目となる竜平さん。「手さばき」や「熟成つけ汁」に対し、「ここでしかないやり方だから、なくすわけにはいかない」と熱い想いを語ります

    4代目となる竜平さん。「手さばき」や「熟成つけ汁」に対し、「ここでしかないやり方だから、なくすわけにはいかない」と熱い想いを語ります

この電話がなければ、つけ汁は今頃捨てられていました。それからは、「この味じゃなきゃダメなんだ」という人が一人増え、二人増え、それでも経営がきつかった時に、「この鯖がなくなったらもったいない」と様々な人が助けてくれたのです。

    母の伸江さん。つらかった時期も家族みなで笑顔で乗り切ってきました

    母の伸江さん。つらかった時期も家族みなで笑顔で乗り切ってきました

「この味を作っているのは自分たちではない、この味を必要だと言ってくれる人がいて、その人たちに助けられ、育てられてここにいる」。越田さん一家はそんな思いを抱きながら、毎日「もの凄い鯖」をつくり続けています。

ノルウェー鯖を使う理由

    もっとも脂がのった状態のノルウェー産の鯖が水揚げされる9~10月に、1年分の鯖を仕入れます

    もっとも脂がのった状態のノルウェー産の鯖が水揚げされる9~10月に、1年分の鯖を仕入れます

越田水産では、ノルウェー産の鯖を使用しています。なぜ、銚子港が目の前にあるのに遠い国の鯖を使っているのか――。

かつては国産の鯖を使っていましたが、20年ほど前、日本の海で鯖が水揚げされないという事態が起きました。その時に乱獲したことで鯖が減ってしまい、品質も下がってしまったのです。その時に紹介されたのがノルウェーの鯖でした。

「最初はさ、目の前に海があるのになんで遠い海の鯖を使わなきゃならないんだって思ったよ」

しかし、ノルウェー産の鯖は日本の鯖よりもひと回り大きく、脂ものっている。それは、魚の乱獲を防ぐため、年間に水揚げできる漁獲枠=IQ方式(漁獲枠個別割り当て方式)を決めているから。それにより魚の品質は保たれ、ノルウェーの鯖は日本の鯖と比べて肉厚で大きく、さらに安定した供給が保てるのです。

「ノルウェー産の鯖を使わない理由はなかった」

日本の昔ながらのやり方でノルウェー産の鯖を加工した「もの凄い鯖」。料理人に選ばれる理由は、そのおいしさはもちろんのこと、この鯖を使うことで乱獲による魚の未来について考えさせられること、そしてお客様にも料理の説明を通してその現状を伝えられること。そんな環境に寄り添っている点も、料理人から支持されている理由の一つなのです。

越田水産が凄い理由は他にもあった!

    「1日平均1500〜1800匹の鯖をさばきます。多いときは1日8000匹を親父と俺でさばいたこともあったよ」

    「1日平均1500〜1800匹の鯖をさばきます。多いときは1日8000匹を親父と俺でさばいたこともあったよ」

英之さんが三枚におろし、信江さんと竜平さんが内臓を取り出します。英之さんがさばくたび、「ざくっ、ざくっ」と加工場に響く鈍いは、骨を切る音。通常、魚を三枚におろす際は骨と身の間で切り落としますが、越田さんは背骨ギリギリのところで切り落とす。この骨の接続部を切る音が鈍く響き渡るのです。

さばいた魚を見てみると、骨部分に身がほとんど残っていません。機械ではどうしても2~3mmほど身が残ってしまいますが、英行さんの手にかかればこの通り。食材を全く無駄にしません。

~越田水産の鯖のさばき方~
  • 鯖を身と骨に分け、三枚におろします。割砕機ではなく、すべて手でさばきます。英之さんは1尾あたり平均6~7秒でさばく、職人技に圧巻です

  • 信江さんと竜平さんが鯖の内臓を取り出します

  • すのこに乗せて、余分な血などを洗い流します

  • 熟成つけ汁につけることで鯖はまろやかな塩気をまといます

  • さっと水洗いしてから干し、乾く一歩手前の脂をたっぷりと含んだジューシーな状態で取り込みます。それは「お客様が様々な用途で使えるようにしたいから」

  • 冷凍庫の中はマイナス30度に設定。鯖を冷凍保存します

「それにしても、‟もの凄い鯖”って名前、インパクトありますよね」というと、「これは俺がつけたんじゃねーんだよ!笑」と英之さん。名付け親は卸を担っている「tasobi」の堀田幸作さん。この「もの凄い鯖」がこれだけ広まったのも、堀田さんの尽力があったからこそ。様々な“ご縁”がつながり、「もの凄い鯖」という名前がつけられ、広がっていったのです。

色々と凄い理由があったのですが、当の英之さんたちはケロッとしている。「だって俺はこれしか知らねえしなぁ」。しかし、最後に言ったのはこんな言葉でした。

「うちの1番の強みは、昔から越田水産を見てきたせがれが一緒に包丁握っているってこと。想い入れが一緒じゃない他人だったら同じ方向には向かえないから」

ただ実直に、日々「鯖が旨くなるにはどうしたらいいか」だけを考えてきた越田一家。その「想い」があったからこそ、この鯖は凄いことになり、その「想い」が料理人から食べる我々へとつながっていくのです。

越田水産(コシダスイサン)

  • ☎0479-44-0473
    住所 茨城県神栖市波崎8233-9
    営業 天候による
    休 不定休

お取り寄せはこちら! ※2018年7月より、「サバ文化干し」と商品の名前を変えて販売

この記事を作った人

撮影/岡本 裕介 取材・文/嶋亜希子(ヒトサラ編集部) 取材協力/堀田幸作(tasobi)

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