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更新日:2017.10.13食トレンド 旅グルメ 連載

金沢【小松弥助】 温もりがここちよいおとな鮨<ヒトサラ編集長の編集後記 第21回>

【小松弥助】の名声は東のすきやばし次郎、西の小松弥助と言われたほどでしたが、閉店してしまいました。しかし今年3月、一度は店を閉じた西の雄はふたたび金沢の駅前にその姿を現したのです。

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鮨のレジェンド復活

 東の次郎、西の弥助。
 食通の間で、そう語られるようになってから、もうどのくらいになるのでしょう。
東は東京【すきやばし次郎】の小野二郎さん、西は金沢【小松弥助】の森田一夫さん。当代一の鮨の名人といわれるお二人は、【次郎】の小野さん92歳、【弥助】の森田さん86歳です。
【次郎】の小野さんは今も現役で店に出ておられますが、【弥助】の森田さんは一時店を閉めていました。もうこれで伝説の鮨は食べられない。多くの人がそう考えていたそうです。それが今年になって金沢の駅前、金沢茶屋別館の一階にふたたび【弥助】がオープンしたのです。

    金沢茶屋別館にある【小松弥助】の入り口。外では次の回のお客さんが列を作って待っています

 紹介制のため、知り合いに頼んで、席をひとつ用意してもらい、約束の時間に行くと、カウンターのなかで笑顔で客と話している人がいます。この人が【弥助】の森田さんなのか、と少し緊張しましたが、その柔らかな関西弁、屈託のない笑顔に、初めての私でもすぐその場になじむことができました。店では「おやっさん」と親しまれているようです。
 「やっぱりおやっさんの鮨は最高やわ」と常連らしい人が言うと、「おいしい? せやな、そら思いがこもってるからや」と鮨を手渡し。会話が途切れません。
昼下がりのカウンターには私以外3組、京都から来ている人たち、九州から来た人たち、それと台湾から来た人たち。皆リピーターらしく、おやっさんとの会話を楽しんでいます。

記憶力と気配りと

 カウンターの隅でひとりビールをもらい、ぼんやりとそんなやりとりを眺めていたら、
「あなたはどこから?」とおやっさんが話しかけてくれました。
「東京です」
「あ、そう、東京のどこ?」
「渋谷です」
「あー、賑やかなええとこやね。もう握りますか?」と。
 少し飲みたいので、と言うと、蒸しアワビの温かいお椀が出てきました。
「仕事で金沢? 何してはるの?」
「編集の仕事をしています」
「あ、そう。雑誌とかね、ええ仕事や。私も取材いっぱい受けてね、いろんな人が世界中から来ますよ。あとで雑誌見せますわ」
「あ、はい・・・」

  • おやっさん、こと森田一夫さん

  • 蒸しアワビの薫り高い汁に、まずほっとする

 私も実は森田のおやっさんの取材に来たのですが、いろいろあって・・・と、もじもじしていたら、
「名刺持ってはる?」と。
 名刺を渡して、どういうことをしてるかを簡単に説明すると、おやっさんはじっと私の顔と名刺を見て、「来てくれてありがとう、小西さん」と満面の笑顔。
 それ以降、ずっとカウンターの隅にひとり座る私の名前を忘れず覚えていて、鮨を出すたびに何か話をしてくれる。
 この記憶力と気配り。これが【小松弥助】の魅力なのか、と最初から弥助ワールドに引き込まれていくのが分かりました。

自然でここちよい時間の流れ

 刺身をつまみ、お酒をいただきます。
 剣先イカとうにが出てきました。
 イカは三枚におろして細かく刻み胡麻がふってあります。小松弥助の名物の一つです。甘くとろけるようなイカと薫り高いうに。お酒はとなりの人が頼んでいた天狗舞という地元のお酒です

「天狗舞は一番おいしい」とおやっさん。そういわれると頼まないわけにはいかないでしょう。
 お酒を飲み、次に出されたアラの刺身の解説をお店の人から受けながら、またぼんやりとおやっさんを見ます。カウンターの客に自分から話しかけながら、仕事の手は休めない。包丁さばきはダイナミックで、何をつくっているのかと思いきや、ネギトロ。
「ちゃんと見ときや」
店の若いスタッフに語っています。店のスタッフの動きもきびきびとしていて、皆で主役のおやっさんを引き立てているように映ります。

「金沢に新幹線ができて、お客さんが増えて、毎日行列や。それに合わせてたらだんだん自分の鮨じゃなくなってきた。それでもう店を閉めたんや」
 何も聞いていないのに、目の前でヅケをつくりながらおやっさんが言います。
「けど、ここ(加賀屋)の主人が何回も頼みに来てくれて、ちょっと休んどったけど、またやることにしましたんや」
 そう言いながらおやっさんは甘海老の握りを差し出しました。
「手ぇで受けてな。醤油つけて食べて。手で渡されると、いとおしゅう感じるやろ」
いきなり握りを手渡しされて、ちょっと驚きましたが、独特のふわっとした優しい鮨です。口の中でネタとシャリが柔らかく合わさり、仲良く溶けていく感じです。

 それから刃打ちして少し表面を炙ったトロ。少し炙ったほうがネタが常温に戻るし、脂を落とすことにもなるそうです。口の中でとろけていきます。
 次のシンコは2枚付け。シンコの絶妙な塩梅がすっきりした天狗舞によくあいます。
「小西さんは、お酒が好き? そう。お酒はおいしいなあ」
先ほどのヅケがこのわたに包まれて出てきました。お酒が進みそうな一品です。そしてその握り。それからシャリの上にヅケ、丸いも、ウニなどが乗った一品も。これは白山と名付けられた名物のひとつだそうです。

    シャリの上にヅケ、丸いものとろろ、うにが乗った名物の「白山」

 おやっさんは今度はずっと隣の台湾から来た人たちと話をしています。中国や香港の話をしています。そしてその隣の九州から来た人とは、桜島の話をしています。「これは白山、鹿児島は桜島」などと言いながらひとりひとりとしっかり向き合い、話をしながら自分の握った鮨を出します。
 この単純に見える行為が実に嫌味がなく、自然で心地よい。この温かな温度感のなかで【小松弥助】の鮨ワールドはおやっさん中心に展開していくのです。

ぎょうさん食べたなあ

「はいどうぞ」
と、剣先イカの握りを手渡ししてくれます。イカの歯触りと甘さ、それにふられたゴマの風味。優しいシャリと合わさって絶品です。

    三枚におろして細かく刻み胡麻がふってあるイカも名物の一つ

「鮨はね、お魚に感謝してね、どのようにしたら無駄にすることなく上手に出せるかを考える。あとは常にクエスチョンやね。どうして? これなくなったらダメ。私が手渡しするのは、私の心を鮨の形に変えてお届けしてるんです」
 お酒のせいもあるかもしれません。でも【小松弥助】のおやっさんにこう言われてしまうと、素直に感動してしまいます。
 ひとつひとつの鮨はもちろん美味しい。
 でも【小松弥助】をレジェンドたらしめているのは、まさにおやっさんのこの話しぶり、人柄、そして存在感なのでしょう。

  • 具がしっかりとした食感のネギトロ。海苔の風味も素晴らしい

  • アナゴは塩でいただく

 うなきゅう。焼いたばかりの温かくで甘い鰻にさっぱりキュウリが香り立つ海苔で巻かれています。このあたりで一人前終了。追加でアナゴとネギトロを頼みました。
 アナゴは塩でいただきます。
 そしてネギトロは、あまり細かく叩かず、白髪ネギがざっくりとまかれています。
「小西さん、もうあなたのこと覚えたからまた来てちょうだい。私、いろいろいい鮨屋も知ってるし、いつでも紹介しますよ」

 これから会う人のためにお土産を頼みました。【小松弥助】の名物のおむすび「弥次喜多」です。
 これはネタを細かく切って海苔で巻き、ちょうどそれを梅干しに見立ててさらに上からごはんで巻き、おむすびにしたものです。50年つくっているおむすびだそうで、みなこれは頼みたいお土産なのだとか。
「もうシャリがないかもしれん」と言われ、ちょっと不安にさせられましたが、きっちり2人分用意してくれました。
「ぎょうさん食べたなあ。お腹いっぱいや」
 おやっさんは笑います。この笑顔です。
 素直にご馳走様でしたという言葉が出てきます。お腹いっぱいの幸せとおやっさんの笑顔に包まれた幸せです。

    弥次喜多をつくる

 森田のおやっさんに教えを受けた【鮨処あさの川】の大将はこういいます。
「おやっさんの鮨はひとつひとつ見たら雑に見えるときもあるんです。けど全体を通してみたら、こんな完成された美しい鮨はない」と。
 木を見るのではなく森を見る。
 初見でこのレジェンドを語るのは僭越ですが、確かにそんな大きさを感じる鮨でした。

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この記事を作った人

小西克博(ヒトサラ編集長)

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