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更新日:2017.09.03食トレンド 旅グルメ 連載

バンコク【ガガン】 ~Gaggan in Tokyo with Den<ヒトサラ編集長の編集後記 第20回>

アジアベストレストランで3年連続1位の【ガガン】と、11位にランクインした【傳】との東京での初コラボレーション。インド料理と日本料理の前衛同士が挑んだ新境地とは。

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ファインダイニングか海の家か

 「アジアベストレストラン50」で3年連続1位を獲得している【ガガン】。バンコクにある有名なインド料理店です。インド料理とはいっても、かなり前衛的で、日本の懐石料理にも似たさまざまな小皿が何皿も続くような展開に、初めての人は驚かれるようです。
 私も彼の地でいただいたとき、手を変え品を変え繰り広げられる全25皿を、どう受け止めればいいのか戸惑った記憶があります。ただ、全体の通奏低音として最後まで残ったのは、これはカレーなんだということでした。
 野球の世界ではかつて「江夏の21球」という名シーンがありました。これをもじって私は「ガガンの25皿」などと言っては、そのインパクトの強さを語ったりしていました。

    ガガンの絵で表現されたメニューが一枚あるだけ。テーブルクロスはありません。

 そんな【ガガン】が神宮前の【傳】とコラボするというので出かけてきました。スタートは真夏のある日、21時です。
 オーナーシェフのガガン・アナンドさんと、傳の長谷川在佑さんが、テーブルに座った20人ほどのゲストに語ります。すでに2人は上気していうようで、それは1回目のディナーを終えたばかりの興奮もあったのでしょうが、それ以上に、不思議な熱のぶつかり合いが感じられ、レストランというより、仲間の宴会に途中から参加したような感じです。
 そこで語られたのは「今回のメニューができたのが2日前でした」ということでした。
笑いが起こります。それで大丈夫かよ、といった顔も見られます。ガガンらしいやといった声も。長谷川さんも持ち前のホスピタリティ全開で、さあやっちゃいますよ~とキッチンに入ります。「拡散しちゃってください。ハッシュタグは #gagaden 」。なんかコンサートに来た感じです。

    傳の長谷川シェフとガガンのアナンドシェフ

まず、皿を舐めろ

 で、乾杯し、アミューズの最中のあとに出てきたのが、これです。舐めろ、と。

 また笑いがおこります。でも、これはなかなか出来るようで出来ない。ファインダイニングのシーンで犬のように皿を舐めるというのは、かなりの吹っ切れ具合でしょう。みな一様に笑いながら皿をなめています。鮟肝のペーストでしょうか。複雑な美味しさです。

 続いてエビのスナックや、傳のお決まりのフライドチキン(DFC)が出てきます。
 ガガンは自分のスマホをいじり出し、音楽が始まります。キッチンの前に自前の小さなスピーカーを置き、踊り始めました。
 なんだろう。みな驚きと同時に、不思議な楽しさを感じます。そう、これは海の家などで感じる解放感です。ガガンが鉢巻をして鉄板でイカゲソか何かを焼いている背景に、濃いめのポップミュージックが流れるといった、違和感満載の演出。

 キッチンのスタッフも踊りながら調理をしています。
 そんななかで、フィッシュカレーが出てきたり、すっぽんが出てきたり。
 このフィッシュカレーはバンコクのガガンでも出てくるもので、すっぽんは長谷川さんの技の光る一品ですが、スパイスが重層的に効いています。
「コラボはそれぞれの一品を交互に出すより、お互いを合わせたほうが面白い」と長谷川さんはいいます。確かにそのハプニング的な美味しさを感じる料理です。
 ・・・にしてもうるさい(笑)。

 マイケル・ジャクソンの「ブラック・オア・ホワイト」が流れ始め、出てきた皿がこれです。

 手でふたつに割ると、こうなります。

 ガガンっぽい肉料理です。シンガポールに【Burnt Ends】という肉料理の名店がありますが、ここの強火で焼いた肉を思い出しました。もちろんジューシーで美味しい焼き具合。ただ音楽がブツブツ途中で切られます。もう次の料理を出すんだ、といったガガンの気が早いのか、これも演出なのか、彼のホームパーティに誘われて、勝手に好きな音楽を聞かされて、酔っ払って踊っちゃいますか、みたいなノリ。いやはや。

こちらはカオス

「DJガガン!」
 誰かが叫びます。ガガンはそれに応えて踊ります。長谷川さんも踊ります。ストーンズのナンバーがいくつかかかります。「ギミー・シェルター」がお気に入りとガガンが言います。音楽は全体的に古いです。でもそれがまた不思議なアンバランス感でおかしい。

 で、出てきた魚料理はこれです。

「ぐちゃぐちゃに混ぜて食べてください」と長谷川さん。
 スズキの生カレーがけのカルパッチョでしょうか。ココナッツソース、フライドオニオン、各種スパイス、それにすだちが入っています。それにしても、この味の深さはなんでしょう。スパイスの魔力か、演出にやられているのか。
 と思っていたら、今度は賑やかなインド音楽。これにはゲストも踊り始めました。
「同じアホなら踊らにゃ損」とばかり、今度は阿波踊りの様相を呈してきました。インド映画を観ているような感じもします。

 そして酔いも回った最後に出てきたのが蟹カレー。
 炊き立てのごはんにたっぷり蟹ソースがかかっています。ガガンと長谷川さんが踊りながらつくった一品。これが旨い。これを食べさせたいがために長い長い助走を用意したのかと思うほどです。

 味の複雑さは言うに及ばず、ごはんとの相性が最強で、皆これはおかわりをしていました。なかなか味わえないカレーライス。
 もっともこのテンションで出てくるものがまずければ、まったく話にならないでしょう。アジアのトップレストランがこれをやってのける潔さ、懐の深さに驚くのと同時に、けっこうギリギリのところを攻めてることを再認識。

 ちょうどすぐ近くにあるレストラン、【フロリレージュ】では、同じくバンコクの名店【ジューリング】がコラボしていて、こちらはドイツ料理。店同士連絡を取り合う人がいて、向こうの静謐さにくらべ、こちらはもうカオスだと。これは長谷川さんとだからこそできる、ぎりぎりの一期一会イベントなのでしょう。

 ジューリングの双子のシェフにかつてインタビューしたとき、ガガンは天才的なクリエーターだよと語っていたのを思い出しました。
 音楽とダンスがしばらく頭から離れず、それとともに出された料理のとびぬけた美味しさに、なんだか一本も二本も取られた感じ。

この記事を作った人

小西克博/ヒトサラ編集長

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