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更新日:2017.08.15食トレンド 旅グルメ 連載

北海道ニセコ【ダイニングアウト】 ~北の大地のイタリアの色彩<ヒトサラ編集長の編集後記 第19回>

今回のテーマは「大自然」。そこにシェフが「色」という要素を入れてきました。大自然が徳吉シェフ色に染められていきます。大自然への敬意と同時に、それを越えなければというシェフの思い。それは洗練された芸術体験ともいえるものでした。(小西克博/ヒトサラ編集長)

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大自然を徳吉シェフの色で染める

 誰も知らなかった、行かなかったような場所に、突然現れるプレミアムな野外レストランイベント、ダイニングアウト。そんな場所に世界のトップシェフが現われ、地元の食材を使って腕を振るうとなれば、その希少性、価値は相当なものでしょう。それは贅沢であると同時に、日常性、均一性からときはなたれ、個性や多様性の可能性をみるクリエイティブな体験でもあります。
 11回目となる今回の舞台は北海道のニセコ。雄大な自然の真っただ中で行われました。
シェフはミラノから「Ristorante TOKUYOSHI」の徳吉洋二さん。「オステリア・フランチェスカーナ」でマッシモ・ボットゥーラ氏の右腕として働き、イタリアでは日本人オーナーシェフとして初めてミシュランの星を獲得したシェフです。
 今回のテーマは「大自然(火、土、水、風)」。そこにシェフが「色」という要素を入れてきました。さながらファッションショーのようなテーマのもと、大自然が徳吉色に染められていきます。大自然への敬意と同時に、それを越えなければというシェフの思い。それは洗練された芸術体験ともいえるものでした。

    羊蹄山をバックにホストの中村孝則さんと徳吉洋二シェフ

 目の前に蝦夷富士、羊蹄山の勇姿を眺めることができる場所。ロケハンの大変さが伝わってくるような私有地の丘に、今回のダイニングアウトは姿を現しました。2日間限りの夏の夜のイベントです。一晩40名のゲスト。日の長い夏の夕方に、それは始まりました。

 テーブルにつくと、香りのいいナイアガラ種のスパークリングワインに続き、ストゥッツィキーノが出てきます。日本のイタリア料理店ではあまり馴染みのない言葉ですが、これは食前酒といただくいわばお通し。色とりどりの8品が登場します。
 「トンガリタコス」「備中鍬と野菜」「草と根っこ」「ニセコの瓜科」「羊毛」「雪解け」「羊蹄山」「火山岩」。
 徳吉シェフに言わせると「羊蹄山の麓の自然がそのまま料理になったような」、まさにニセコの原風景のアイテムが料理に姿を変えての登場です。それも一品一品、丁寧に自然をいろんな角度から見ていくと見えてくる風景の層の厚さを表現しているかのように。
 ストゥッツキーノは食材が全体にシンプルに調理されていて、生野菜が中心の構成になっています。豊かな大地の恵みに感謝をささげる儀式のように見えてきます。
 儀式と言えば羊ですが、これを徳吉シェフは遊び感覚満載の料理にしています。羊肉のつくねですが、持つところが羊毛で包まれています。また羊蹄山を模した器に乾燥チップやいくらが盛り付けられたり、野菜が皿に刺さった状態で出されたり、ユニークなプレゼンテーションです。

    8種類のストゥッツィキーノ

赤の蟹、紫の鹿、緑の鳩

 さあ、これからメインのディナー。
 そのときちょうど時を合わせたかのように、羊蹄山に西日が差しこみました。西日は麓の村を照らし、まわりの山々のシルエットを羊蹄山に映します。そして最後には山の頂が光り輝いたのです。スタッフは現地で働く人たちが多かったのですが、みな一様に息をのみ、こんな光景は見たことがないと感動しています。

    光り輝く羊蹄山

 そんななか、現われたのが強烈な赤。赤色がテーマの料理「花咲蟹のクロスタティーナ」です。クロスタティーナとは小さなタルトのことですが、その上に甲羅がかぶさった状態で出てきます。甲羅の人工的にも見える鮮やかな赤に、今回のお皿をオーダーしてつくったということに驚きました。この一体感と色の鮮烈さには度肝を抜かれる感じです。「色で攻める」、徳吉シェフのメッセージがよく伝わる一皿です。
 同時に小さなブロード(スープ)。蟹とパルミジャーノレッジャーノ。
このブロードはこれから全皿にペアリングされて出てきます。ちょっとした試みですが、日本の味噌汁を頂く感覚にも似て、徳吉シェフの幅の広さを感じてしまいます。お酒は平川ワイナリーのピュルテ。

    花咲蟹のクロスタティーナ

 次は白と黒がテーマの「魚拓」。これは徳吉シェフのシグネチャーで、白いお皿にイカ墨のスタンプが押されています。胴体の部分は本物の魚で、鰯をレモンやウイキョウの粉を混ぜたパン粉をまぶして焼いたもの。見た目の地味なインパクトに反し、ふくよかな旨みを感じるのは、鰯の身のなかにホタテのムースが詰め込まれているからでしょう。松の実のブロードが添えられます。合わせたワインは何とキュヴェ・ギョタク(魚拓)。地元の酒屋さんでシェフが見つけたとか。

    魚拓

 強烈な皿に緩急をつけるかのように、3皿、4皿めはパスタとリゾット。ほっとします。パスタは白の中の白がテーマの「ユリ根とアーモンドのキタッラ」。食感を楽しめる香り豊かな白いパスタ。北の大地の雪景色を感じる一皿。
 続くリゾットは黄色がテーマの「雲丹とサフランのリゾット」。ユメピリカをつかって、カルボナーラソースです。黄色の皿にあうお酒として、じゃがいも焼酎が出てきました。
3皿、4皿めは、最初のインパクトをちょっと抑えるかのような構成で、ほっとします。

  • ユリ根とアーモンドのキタッラ

  • 雲丹とサフランのリゾット

 長い夏の陽が沈み、あたりは暗くなりました。テーブルの灯りがキラキラする向こうで、暗い大地から太鼓の音が聞こえて来ます。
 茂呂剛伸さんの演奏で、縄文土器が出土した場所の土で作った壺に蝦夷鹿の革を張った太鼓です。1万年前のサウンドが大地の底から聞こえてくるような演出は、薪能のそれよりプリミティブで、人間の深い部分に眠る野生を呼び起こすような感じを覚えます。

    茂呂剛伸さんの太鼓の演奏が始まる

    テーブルを回りながら話をする徳吉シェフ

 それとともに出された5皿目は、なんと紫色。「蝦夷鹿とラベンダー」というタイトルです。花咲蟹の赤も人工的なインパクトのある色でしたが、これはもっと強烈かもしれません。大自然と食欲との間に楔を打つような一品です。ドルチェとして甘い味を伴って出てくるのであればともかく、これがメインディッシュの蝦夷鹿とは。

    蝦夷鹿とラベンダー

 ところが、その強烈な色彩に対して、味は実に考え抜かれています。骨付きのロースを野菜の照り焼きソースを塗りながらゆっくりと火を入れ、紫じゃがいものソースで覆い、ドライフラワーにしたラベンダーでスモークしてあるという凝りよう。ラベンダーの薫香の華やかさと肉が纏った色の妖艶さ。ナイフを入れるのに少し戸惑ってしまうような、そんな不思議なメインディッシュです。地元のニセコ酒蔵の吟風特別純米生原酒がペアリングされました。

 その興奮も覚めやらぬなかで、ディナーの最後を締めたのは、鳩でした。小鳩をローストして緑色の野菜やハーブで覆い隠してソースを添えた一品。アクセントのホースラディッシュは大地へのオマージュのよう。ブロードのとうもろこしは夏のイメージ。そしてこの皿のテーマが緑です。ディナーの最後に緑を入れて、赤、白、緑のトリコローレの完成といった意味も隠れているように思いました。

    小鳩

クチーナ・イタリアーナ・コンタミナータ

 驚きの連続のなかドルチェが出てきました。
 不思議なテクスチャーの「田園」。この大地の地層を表現しています。古くなったワイン(ヴィネガー)と卵白で泡立て凍らせたものをルバーブのコンポートとあわせてあるそうです。徳吉シェフも「これは味わったことがない」と笑う面白い一皿。

 次は「海藻と土」。土に見立てたポルチーノとカカオのビスケットに海藻のジェラート。そこにダイニングアウトのホスト役をつとめた中村孝則さんと徳吉シェフが、2か月前に獲って仕込んだウドなどの山野草の砂糖漬けをふりかけます。土を感じる不思議な味に牛蒡と牛乳のブロードが添えられています。

  • 田園

  • 海藻と土

 そして最後に、今回使った食材すべてを捨てることなく使ったというスープが登場し、ディナーが終わりました。野趣あふれる大自然のすべてをいただくとともに、そこにはフードロスへのメッセージもこめられています。

 徳吉シェフの料理はクチーナ・イタリアーナ・コンタミナータ(混成された料理)と言われます。アートの世界でも使われる言葉ですが、料理をまぜるのではなく、より深く文化と文化をまぜることで新しいものがうまれるということ。これは非常にチャレンジングでクリエイティブな言葉です。
 ドルチェに至っても、優しくまとめるのではなく、最後まで攻めてる感じがとても印象的でした。
 「そりゃパスタやリゾット出せば皆さん安心はしてくれますよ。でも僕は驚かせるのが楽しい。実際デザートにチョコ食べるより、ラーメン大盛りのほうが幸せだし」
徳吉シェフは笑います。

 「大自然のなかでの美味しい食事。それはもう美味しいと決まったあたりまえの予定調和の世界で、それを越えなければダイニングアウトは意味がない」ダイニングアウトの総合プロデューサーの大類知樹さんは語ります。

 そのためにはやはり何かを壊すような、作り手側の強烈な個性が必要でしょう。もちろん食べ手側のセンスも。徳吉シェフが大自然に強烈な色と個性を持ち込んだのもむべなるかな。 
 前回の青島に続き、ニセコもまた本当に贅沢な一夜でした。

この記事を作った人

小西克博(ヒトサラ編集長)

北極から南極まで世界を旅してきた編集者、紀行作家。

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