ヒトサラマガジンとは RSS

ハワイ・ワイキキ【すし匠 Sushi-sho】 ~海を渡った現代の華屋与兵衛が握る原点回帰の旨さ <ヒトサラ編集長の編集後記 第18回>

「こんなことやってると、だんだん原点回帰してる感じなんですよ。昔は流通の問題が大きくってなかなか魚を新鮮な状態で食べられない。そこを職人がいろんな技法で調理して、美味しくしてたわけじゃないですか。やってると職人の原点を感じて楽しいですよ」

アプリで見る

江戸前の技法と精神で

 リッツ・カールトン・ワイキキ・ビーチのロビー階。海を望むレストランを抜けた先にすし匠があります。江戸前寿司で名を馳せた四谷すし匠の大将、中澤圭二さんがオープンさせたお店です。扉をあけるとそこは劇場の舞台のよう。そのなかで大将の中澤さんがこちらを笑顔で迎えてくれます。四谷の風景が瞬間浮かびました。
 すし匠がハワイに進出するのはちょっとしたニュースでした。あれから1年。大将に会いたいのと現地の魚がこの名人の手でどう料理されて出てくるのかを見たくて、ここにやって来たのでした。

 合掌造の屋根の下で暖炉を囲むような八角形のカウンターはインパクト満載の10席。カウンターの中には3人の握り手。今夜は中澤さんが目の前で握ってくれることになりました。
「ちょうどここに来てから季節が一巡りして、なんとなく慣れてきたかなといったところです。大変なことは多いけど、ここの気候が気持ちよくってね。けっこう楽しんでますよ」

 カウンターの後ろの冷蔵庫には伝説の魚モイを釣る華屋与兵衛が描かれています。江戸前寿司を広めた華屋与兵衛がモイを釣るとは、まさに中澤さんの心意気が絵になったようなものです。江戸前の精神と技法で、どれだけ現地の魚を寿司にできるか。中澤さんがハワイに来たテーマはそれでした。

トロピカルな食材を江戸前に

  • ヤシの新芽

  • ミル貝とクレソンの和え物

 まずガリだと出されたのがヤシの新芽。日本から生姜が輸入できないための代用品だとか。ワシントン州からの小ぶりの牡蠣の煮びたしや、バナナの葉でスモークしたサーモンなどが出てきます。面白いのはパールハーバーで獲れたミル貝とクレソンの和え物。クレソンってこんな使い方ありかもと思える一品です。お酒もいろいろ用意されていましたが、今回は日本酒で通すことにしました。お任せにすると、まずはフルーティでキレのいい黒龍の龍。

 オノというサワラカマスみたいな地魚が握りで出てきます。すし匠はつまみと握りを交互に出すスタイルで人気を博したわけですが、ここホノルルでもそれは引き継がれています。オノは柔らかくて甘い魚で、バーガーにもなっている人気の魚です。続いてロスからの小鯛のおぼろ漬け。おぼろが江戸前スタイルにはいい役をしているようです。次はハプープという深海魚です。日本ではハタですね。5日寝かせて味を引き出したものですが味が足らないので少し火を入れています。炙り感を感じます。
「これ、まだ探っている段階で、美味しいんですけどシャリと合わせると、シャリがまだ立つんでね」と中澤さん。
 海外で寿司をいただくとき、やはり酢飯が気にはなりますが、さすがというか、これはかなり美味しい酢飯で、タマキゴールドというカリフォルニア米ということでした。

  • オノ

  • ハプープ

 おや、シンコかと思えば、スメルトという海のワカサギだそうです。カリフォルニアの沿岸で結構あがるのだとか。ヒカリモノ気分が出ています。「コハダやアナゴは日本から入れないつもりなんです。江戸前の代表ネタはちょっとこちらでは出せない。これは私の矜持。でもこういう工夫はありでしょ」。

  • 海のわかさぎ「スメルト」

  • スメルトをシンコ風に

 その後に出てきたのは、寿司屋のレバ刺し感覚でやってくださいと、なんとミル貝のレバー。上質なレバー感がありマウイオニオンがいい薬味感を出しています。そしてアクという魚。メジマグロとカツオの中間といった味わいです。バナナの葉でスモークされていて、カツオの叩きですね。マウイオニオンがここでもいい働きをしています。

  • ミル貝のレバー

  • アクのたたき

ハワイの華屋与兵衛

 日本からのマグロをはさみ、ラウラウが出てきました。ラウラウはハワイの伝統料理で、タロイモの葉で包まれた蒸し焼きです。ここではサーモンとオパの頬が巻かれ、土佐酢のジュレが効いています。オパは沖縄などで見る赤マンボウですね。ようやくあたたかい料理がでてきました。日本からのマグロのヒレシタが出て、ロブスターを紹興酒に漬けた酔っ払い蟹ならぬ酔っ払いロブスター。いやあこれはお酒が進みます。お酒は伯楽星が出てきました。

  • サーモンとオパのラウラウ

  • 伝説の魚モイを握る

 ハワイの王族しか食べられなかったモイの登場です。中澤さんの後ろで華屋与兵衛が釣っている伝説の魚です。これを中澤さんは2、3週間発酵させて飯鮓(いずし)にしています。味をもっと際立たせたいのか、シャリは赤酢、和からしで握ります。
 「こんなことやってると、だんだん原点回帰してる感じなんですよ。昔は流通の問題が大きくってなかなか魚を新鮮な状態で食べられない。そこを職人がいろんな技法で調理して、美味しくしてたわけじゃないですか。発酵自体は古代の技法ですが、やってると職人の原点を感じて楽しいですよ。その意味じゃ東京は魚が豊富すぎて、スーパー過保護状態だって思いますよ。こちらに来てそれは痛感します」

 四谷のすし匠でもお馴染みの巻物が出てきます。ロスのイワシとハワイのキュウリらしく、あっさりとしていて、次に出てきたチェリートマトといい感じの箸休めに。お酒を新潟は久須美酒造・亀の翁にします。漫画「夏子の酒」のモデルになったお酒です。
「イノシン酸をがっつり食べてみて下さい」とエイジングマグロの握り。さすがにこれは後を引く旨さです。そしてまた面白い一品はオパのハラスです。深みがあってブリのような脂を感じます。オレゴン産の山葵にシトラスキャビア。「これフィンガーライムって名前だったものが出世したんです」と中澤さん。見た目は黄色いキャビア。いろんな料理に使えそうな気がします。

「山葵を両方にカツンカツンと乗せて、二口でどうぞ」。なんだか、懐かしいフレーズも聞けて、四谷にいるような気になります。

    オパのハラス シトラスキャビアのせ

 ホワイトサーモンやうにが入った松前漬の海苔巻を手で受けます。海苔は日本ですよね、と訊くと中澤さんは頷きながら、外は日本、中はアメリカと笑います。
「ここには磯がないんですよ。ビーチでしょ全部。磯の香がない。海苔も獲れないんですよ」。
 そしてモロカイエビのボイル。エビも生で仕入れられないから苦労している最中だと。なぜ冷凍じゃダメなのか、ひとつひとつ、そんなことから現地の人に教え、改善しているのだそうです。
 香りのいいイサキはロスから持ってきたもので、1週間塩を効かせて寝かせたもの。皮目が硬いのですが味が出てきます。イチゴ蒸し。ウニはサンタバーバラのもの。先ほどのシトラスキャビアも効いています。お酒が〆張鶴の大吟醸になりました。

シャリチーなるアイデア商品も

  • モロカイエビのボイル

  • イチゴ蒸し

 もう少しいけますか? に、もちろんですと頷きます。
 これまた懐かしいメニューです。四谷では鮟肝をスイカの奈良漬で巻いたものでしたが、こちらではそのスイカがヤシの新芽に。これをバルサミコと蜂蜜で漬けるのだそう。そういえばこのヤシの新芽は、ハワイのナンバー1フレンチと言われるラ・メールの前菜でも見ました。天ぷらでもいけそうな、バリエーションを感じる食材です。
 絶賛売出し中、と、もうひとつ出してくれたのは、いぶりがっこに3か月発酵させた飯。「シャリがチーズみたいなのでシャリチーと名付けました。ワインにだって合そうでしょ」と中澤さんは嬉しそうです。奥さんの出身地である秋田の名物と寿司の原点との意味深なコラボレーションです。

  • ヤシの新芽の握り

  • シャリチー

 では、最後にと、大きなアサリが出てきました。チェリーストーンです。現地のバーなどでは生で食べたりしているそうですが、ここでは煮ハマ風に。シメにふさわしいほんのりとした甘さです。タマゴは2種類。干したアオヤギの出汁巻きとタロイモ、アマエビのカステラ風。続いてブラウンシュガーのくずきり、パイナップルのアイス。お腹いっぱいですが、まだいけそうな気もします。現地の魚をここまで江戸前にしてくれる職人がここにいることに素直な驚きを禁じえません。

  • チェリーストーンを煮ハマ風に握る

  • 干したアオヤギの出汁巻きとタロイモ、アマエビのカステラ風

 実際、現地のシェフの多くから、中澤さんの仕事に敬意を抱いているということを聞きました。中澤さんから魚のことを学んだという若いシェフもいました。そのことを言うと、「それは有難いですが、私もずっといるわけじゃない。だから学んでくれたら私がいなくなった後でもそれを引き継いで根付かせてほしいです」と。
お客さんが引けたカウンターで、引退をほのめかす話もちらほら。でも、まだまだ辞められないでしょう。

 もう一軒顔を出すんで失礼します、いうと、中澤さんはクルマを呼んでくれました。それが白い大きなリムジンだったことに、乗る段になって気が付いて笑ってしまったのですが、大将の茶目っぷりが健在で嬉しい夜でありました。

「でもね、店ってやり始めが一番楽しいんですよ。何しようかどうしようかってドキドキして。その意味でいま私、楽しいですよ。これから1年何やろうかって考えて。これでも日々進化してるんですよ」
 ぼんやりしていて、次の予約を入れそこないました。日々進化する中澤さんの握るすしを食べるためだけにハワイへ行く。そんな贅沢があってもいいと思いました。

この記事を作った人

小西克博(ヒトサラ編集長)

北極から南極まで世界を旅してきた編集者、紀行作家。

この記事に関連するエリア・タグ

人気のタグ

編集部ピックアップ

週間ランキング(5/15~5/21)

エリアから探す