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更新日:2021.08.30食トレンド

日本料理とのタッグで焼鳥に季節感を表現する、人気焼鳥店の新店舗【おみ乃 神谷町】

目黒の【鳥しき】で修業を積んだ小美野正良さんが2017年に押上で開いた【焼鳥 おみ乃】は、2年半でミシュランの星を獲得。師匠の店同様予約至難店となっています。この店を信頼する2番手に任せ、小美野さんは2021年3月、虎ノ門に【おみ乃 神谷町】をオープン。焼鳥と日本料理の融合という新たなスタイルで挑戦を始め注目を集めています。どのような思いが込められているのか伺いました。

おみ乃の焼き鳥とコース料理

“焼鳥と日本料理の融合”を極める、洗練の焼鳥コース

    おみ乃神谷町のカウンター席

    情緒ある店構え、清潔感のある凜とした和の空間で焼鳥割烹をしっとり楽しめる【おみ乃 神谷町】

押上の【焼鳥 おみ乃】は、客がストップを言うまで出し続けるスタイルでしたが、こちらは、焼鳥や野菜焼きなど焼き物が11~13串、その合間に料理が5品と鶏スープ、食事、デザートのおまかせコースを提供しています。

カウンターの焼き台の前に立つのは小美野さんですが、料理を担当しているのは荒巻将司さん。厨房で作業をしているので料理する姿をカウンターで見ることはできません。そこで、小美野さんがコースの終わりに「料理長の荒巻です」とお客に紹介しています。

    親方の小美野正良さん

    店主の小美野正良さん。親方である自分より先に、若手料理長の荒巻さんを紹介するところにも人柄や思いを感じさせる

「焼鳥は季節感が出しづらいので、日本料理の要素を入れたいと常々感じていました。それに、お客様がストップと言うまで焼き続ける今までのスタイルですと、約全30種を制覇するまで食べ続けたいというお客様も多く、しっかり食べていただけるのは嬉しいのですが、お腹一杯になり過ぎて苦しい思いをされている方もいらっしゃるのだろうな、と思っていました」と話す小美野さん。

日本料理のように季節感を表現し、かつ、ライトに楽しんでもらうには……、という思いから新たなお店は「焼鳥と日本料理との融合を極めていきたい」と考えたそうです。

    料理長の荒巻将司さん

    【銀座鳥繁】で3年半、【銀座 小十】で3年学び、日本料理の世界で計6年間のキャリアを積んだ、料理長の荒巻将司さん

荒巻さんも、料理人としてのスタートは焼鳥店で小美野さんと同じような考えがあり、【銀座小十】ほか日本料理店でも6年ほど修業を積み、いつかは「焼鳥と日本料理の両方が楽しめるお店をやりたい」と思っていたそうです。

そんな二人が出会い、意気投合。「焼鳥のことをよくわかっている荒巻だからこそ、焼鳥を引き立てる料理を作ってくれると思っています」と期待を持ってコンビを組むことになりました。

    かしわ,砂肝,ぎんなん

    手前から『かしわ』、『砂肝』、『ぎんなん』。見た目から気持ちのよい焼き色。表面はカリッ、噛めばしっとり、きれいな肉汁が溢れる

とはいえ、主役は焼鳥です。小美野さんがカウンターに立ち、1本1本丁寧に焼く姿は、まさに師匠・池川氏から受け継ぐ「一串入魂」の体現。近火の強火で表面を一気に焼き、中に肉汁を封じ込め、カリッ、ジューシー、しっとりの焼き加減に仕上げるために、空気の通りを感じとりながら色々な形の炭をパズルのように組み、美しく積み上げています。

    おみ乃神谷町の焼き場

    炭の香りをプラスして、鶏本来の持ち味を引き出す火入れが見事

小美野さんが素晴らしいのは、焼鳥の美味しさだけではありません。炭の火の具合、その上に置いた串の面倒を見ながらも、徳利の中のお酒がなくなるとすぐに気づき次のお酒を聞いてくれたり、付け合わせの大根おろしがなくなりそうになるとタイミングよくおかわりの声掛けをしてくれたりなど、客席の様子にも常に目を配っています。

焼鳥と料理を提供しながら店の隅々まで神経の行き届いたもてなしの心に、「味だけではない美味しさ」を感じさせてくれるのです。

    おみ乃神谷町のコース料理の中の一品

    コースの合間で出される旬の素材を使ったお料理は、盛り付けの演出も季節感満載

    手羽先

    『手羽先』は、焼鳥ではなくお料理として揚げもので。中に春は蕗やうすい豆、夏は枝豆、秋は栗やキノコ、雑穀などを詰める

「料理は、あくまでも焼鳥の引き立て役です。焼鳥では表現しづらい季節感を合間合間にお出しすることで、ちょっと気分転換をして、次の串につなげる。そんな思いで料理を考えています」と話す荒巻さん。夏は、氷の上のほおずきを器がわりにして華やかさや涼やかさを演出。低温で酒蒸しにしてしっとり仕上げた伊達鷄もも肉のしんじょうを万願寺唐辛子にはさんだものと、いちぢくの白和え。料理は月替わりで考えているそうです。

    締めのご飯膳

    まずは白いご飯をひと口、ふた口楽しんでから、黄身の醤油漬け、鶏そぼろをのせていただくのがおすすめ

コースのクライマックスは、締めのご飯。【おみ乃 神谷町】では、醤油漬けにした卵黄と鶏そぼろをお味噌汁、自家製の香の物と一緒にお膳で供されます。嬉しいのは、ご飯が土鍋の炊きたてということ。タイミングを見計らい、それぞれの客席ごとに炊き上がりを目の前で見せてくれるのです。「日本料理の最後の、締めご飯らしくお出ししたかったので」と荒巻さん。お米もスタッフ皆で色々と試食、吟味を重ねているそうです。

    シャンパーニュ,ワイン,日本酒

    シャンパーニュ、ワイン、日本酒など選りすぐりのお酒が揃う

きめ細やかなサービスを信条にしている小美野さん。焼鳥に合う、かつ、お客の好みに沿うよう多様な品揃えのお酒も楽しみなところ。リストに載っていないワインや日本酒もあるので、好みを伝えたりおすすめを聞きながら決めることもできます。

「鶏肉屋さんの店頭で焼かれたひと串100円くらいの焼鳥から、居酒屋、専門店などいろいろなシーンで焼鳥を楽しんでもらえたら嬉しい。僕はとにかく焼鳥が大好きなので」と笑顔で話す小美野さん。焼鳥を介して幸せなシーンが増えてほしいという愛に溢れているのが感じられます。お店にはカップルの姿も多く、美味しい有名店というだけでなく、「大切な人と素敵な時間を過ごしたい」と思う人たちにも選ばれるお店になっているようです。

    親方の小美野正良さん,料理長の荒巻将司さん

    (右)小美野正良さん
    1977年、東京都生まれ。大学卒業後はSEとして企業に就職するも、以前から魅力を感じていた焼鳥職人への思いが大きくなり32歳で【鳥しき】に弟子入り。8年の修業を経て2017年に独立、押上に【焼鳥 おみ乃】を開店しわずか2年でミシュラン1つ星を獲得。2021年3月、2店目【おみ乃 神谷町】を開く。

    (左)荒巻将司さん
    1989年、福島県生まれ、神奈川県育ち。16歳からムエタイを5年間学びプロとしても活躍。21歳で引退後、料理人を志して【銀座鳥繁】で3年半修業。さらに【銀座 小十】で3年学び、日本料理の世界で計6年間の経験を積んだ。焼鳥と日本料理の融合という小美野氏の考えに共感し、【おみ乃 神谷町】のオープンより料理長に。

この記事を作った人

取材・文/藤田実子 撮影/今井 裕治

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