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更新日:2018.12.05旅グルメ 連載

幻のビール"マルエフ"と味わえる岐阜の和牛焼肉処【桔梗苑】

金華山や長良川、岐阜城など壮大な自然歴史が息づく街・岐阜市。JR岐阜駅から車で5分ほど走ると、閑静な住宅街に焼肉の名店・桔梗苑が佇む。今年で50周年という節目を迎える老舗は、岐阜市民をはじめとして県外の焼肉ファンなど、多くの人に愛されてきて今日にたどり着いた。そして、明日も明後日も、未来に向けて、伝統の味を提供し続けている。

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満足のワンランク上のおもてなしができるよう日々努力を重ねる

 創業は1968年。店名の由来は創業者の女将のひらめきから決まったのだという。

「祖母(女将)はお花が大好きな人だったので桔梗の花言葉にある『変わらぬ愛』『気品』『誠実』という意味を込めて名付けたのだと思います。この花言葉はそのまま店の姿勢に繋がる言葉として受けとり、私たちも大切に受け継いでいます」
と、料理長の新井明浩さん。

    和の雰囲気を醸し出す、伝統的な日本家屋の屋根付き門がお出迎え

    掘りごたつとタタミの席に分かれる店内。子供から年配まで、ゆったりと寛いで食事が楽しめる

 玄関先の暖簾をはじめ、店内には窓や壁、座布団などにも、象徴である桔梗をモチーフにした意匠を凝らし、慎ましい和空間のなかに彩を添え、優美な雰囲気を生み出している。

 新井さんをはじめ、スタッフ一同が誓う合言葉は「お客様に感動とときめきを」。

「おいしい料理をご提供してお客様に満足はしてもらえるかもしれません。でもそれだけでは感動やときめきを感じてもらうことはできない。私たちは感動やときめきを満足のワンランク上という位置づけをしています。そんなレベルの高いおもてなしができるよう、日々努力を続けていくことが私たちのコンセプトです」

    完全予約制のVIPルーム。壁には地元の職人に特注した桔梗のガラス彫刻が施され、高級感を演出

「変わらずに美味しい」を得るには 常に変わり続けることが大切

 メニューのこだわりは、飽くことなき味と品質への追求だ。なかでも焼肉のタレと和牛への想いは強い。

「うちは、下味をつけたお肉に漬けダレで食べていただくという、いわば焼肉の王道スタイル。だからタレは命。ベースの醤油も蔵元を選んで独自に作っています。そんな大事なタレですが5年前や10年前とは全く味が違うんです。どうしたら今日より明日がおいしくなるのか、そればかり考えていますね」

    オーダー率98%を誇る桔梗苑の代名詞『タン塩』1090円。手もみで下味をつけて提供する

 通っていればお客は自然と舌が肥えていく。いつ訪れても「変わらずに美味しい」と感じてもらうためには、お客が気づくか気づかないかという程度に改良を続けて“常に変わり続けなければいけない”というのが教え。

「牛肉も同じです。A5ランクの特選和牛を使用していますが、特定のブランドに偏ることはありません。ほぼ毎日、業者さんに様々なブランド牛を持ってきてもらい、その日の気温や湿度など状況に合わせて、部位別に最適なお肉を選んで仕入れています」

    A5のサーロイン、リブロースを使用し、極上の旨みを味わえる『黒毛和牛上ロース』1780円

 厳選された一品一品が並ぶメニューのなかで、オーダー率98%を誇るのが『タン塩』。タンの芯の部分のみを使用した肉はサシが入って、やわらかくてジューシーな味わい。『黒毛和牛上ロース』も自信作の一つ。サーロイン、リブロースのみを使用。余分な脂をそぎ落として、強烈な旨味が堪能できる。

    一頭から2キロしかとれない美しい霜降り肉を使用した『黒毛和牛上ミスジ』1780円

『黒毛和牛上ミスジ』は、肩甲骨付近の部位で一頭から2キロしかとれない美しい霜降り肉。舌触りがよく、とろけるような食感とともに肉の甘味と旨味が楽しめる。「あぶる程度が一番おいしくいただける」と、薄切りで提供している。

    創業から伝統の味『キムチ盛り合わせ』840円(手前)と、独自の湯引きで黒い部分を取り除いた『しろセンマイ 酢味噌味』740円

 サイドメニューも充実。『キムチ盛り合わせ』はすべて自家製。発酵させる白菜とカクテキは、甘味と酸味のバランスがピークを迎えたものをその日に提供するため、夏場と冬場で発酵期間や野菜を収穫する生産地の標高も変えるこだわりよう。前身は漬物店というだけに、焼肉に匹敵するほどの会心の作。

    醤油ベースの『テールスープ』940円。骨の髄液を抽出して、トロトロで旨味が凝縮された味が楽しめる

 このほかにも、独自の技術で湯引き処理したコリコリとした食感が特徴の『しろセンマイ 酢味噌味』や仕込みに2日間を費やす、醤油ベースの『テールスープ』も必ず注文したい一品。

「センマイの黒い部分を削り落とすのが大変な工程。真っ白でお客様に提供できるようになるまで、紆余曲折、時間をかけてやっと辿り着いたんです。全国から処理の仕方を教えてほしいと問い合わせが殺到していますが、全部お断りしています(笑)。テールスープは、あっさりとした味わいで、口の中でとテールの香りを旨味が広がります」

店の第一インパクトはビール。"マルエフ"の旨さが好印象に貢献

 極上のおもてなしを追求する桔梗苑にとって、焼肉と相性の良いビールは、欠かせないアイテム。採用しているのは通称"マルエフ"と呼ばれる『アサヒ生ビール樽詰』(620円)だ。"マルエフ"の存在は、味わいだけでなく店のイメージ作りにも一役買っているという。

    "マルエフ"の樽は、鮮度を重視して通常1樽19リッターのところ、あえて10リッターの樽を仕入れている。

「お客様が着席して最初に口の中に入れるのはお肉ではなく、ほとんどの方がビール。こだわって、手間暇かけて食材をご提供しているので、本当はタン塩を食べてもらいたいのですが(笑)。つまり、店の第一インパクトはビールのうまさで決まるんです」

最初に口に運ぶものが満足いかなければ、その後に続く食事の印象にも悪影響を及ぼしてしまう。だからこそビール選びにも手を抜けないという。

    「泡切り」は大切な工程のひとつ。粗い目の泡を捨て、きめの細かい泡を残し、生ビールの旨みを封じ込める

 マルエフの魅力を新井さんは次のように語る。

「(マルエフの前身を含めて)100年続いてきたのは、それだけいつの時代の人にも愛されてきたということ。今は多彩なビールが開発されていますが、私はシンプルに焼肉に合うビールが欲しい。そういう視点で見ると、マルエフはウチに近い要素を感じたんです。シンプルなのに個性があるというか。ちょっと懐かしくてビール本来の旨味や苦みを感じて、純粋に旨いと思いましたね。料理の邪魔をしないのもいい。マルエフを採用してから、最初の一杯だけビールのお客さまがほとんどだったのに二杯目、三杯目と続くようになりました」

    新しい発想を加えながら、伝統の味を守り続ける料理長の新井明浩さん

 桔梗苑がいかに地元に愛されてきたのかを表すエピソードがある。岐阜の町には「桔梗苑デビュー」という言葉が広く知られている。「今日、あそこの家の子が桔梗苑デューするんだって」と評判になることもある。そもそもは、地元の生命保険会社が広めた言葉で、「大人の仲間入り」「一人前」という意味が込められている。桔梗苑の焼肉を食べて育った子供がやがて成長して就職して、両親や恋人など大切な人を自分の稼いだお金で初めてごちそうする。そんな節目、門出を祝うにはふさわしい舞台として選ばれてきた。
 
 取材中、「実は…」と語った新井さんのコメントが忘れられない。
 
「50年やってきたウチの焼肉と100年続いてきたマルエフを合わせると、不思議なことに新しさを感じるんです」

 その感覚をぜひ味わいながら、自分も晴れて桔梗苑デビューを飾ってみたい。これだけで岐阜を訪ねる大きなきっかけになる。

    玄関エントランスの灯籠に火が灯るとゲストを迎える準備は完了。優しい光が足元を照らす

この記事を作った人

撮影/佐藤顕子 取材・文/内山賢一  

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