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更新日:2019.04.04食トレンド デート・会食

予約困難の人気店|荒木町【南方中華料理 南三】オリジナリティ溢れる辺境チャイニーズのコース料理を紹介

白金【蓮香】、代々木上原【まつしま】に続くマニアック中華料理界、期待のルーキー。それが、ここ【南方中華料理 南三】の水岡孝和シェフだ。オープン前から中華フリークらの注視を受け、去年の5月、四谷荒木町にて開店!の声を聞くや、瞬く間に予約の取れない話題店にランクインしたほど。一度来たなら、リピートせずにはいられない【南三】の魅力の秘密を探ってみることにしよう。

予約困難の人気店|荒木町【南方中華料理 南三】オリジナリティ溢れる辺境チャイニーズのコース料理を紹介

雲南、湖南、台南の辺境料理を“水岡流”に昇華。ここでしか味わえない味がある

「一カ月ほど中国大陸をぐるりと回ってみて、個人的に面白いなぁと感じたのが、南の料理。雲南、湖南、台南の料理でした。市場に並ぶ未知の食材やスパイス、調理法のバリエーションが楽しくて、ワクワクしてしまいました。」

    オープンは、2018年5月7日。車力門通りの奥まった場所にある雑居ビルの2階にその秘境はある

    オープンは、2018年5月7日。車力門通りの奥まった場所にある雑居ビルの2階にその秘境はある

 ニコニコしながらこう語るのは水岡孝和シェフ。そう、だから、店名も“南”が3つで【南三】というわけだ。とはいえ水岡シェフ、異国の味をただ単にそのまま出しているわけでは決してない。現地らしさは全開にしつつも、彼なりのオリジリナリティをさりげなく施す——その塩梅の良さがまた、【南三】のフアンを増やすキーワードともなっているのだろう。

    カウンター3席にテーブル14席のこじんまりとした店内。予約受付日には、1ヶ月分の予約が数時間で満席に

    カウンター3席にテーブル14席のこじんまりとした店内。予約受付日には、1ヶ月分の予約が数時間で満席に

 食材調達の為、年に数回は台湾や雲南、湖南など現地を訪れる水岡シェフ。彼が辺境中華にどっぷりはまるきっかけとなったのは、赤坂【黒猫夜】だった。料理の鉄人を見て、中華の料理人に憧れた水岡シェフ。高校を卒業後、渋谷【天厨菜館】から修業をスタート。その後、西麻布【A-jun】(閉店)、三田【桃の木】と比較的一般的な?中華料理店を歩んで来た彼だったが、26歳の時、たまたま求人募集に出ていた赤坂【黒猫夜】に入門。思えば、これが1つの人生のターニングポイントだったのかもしれない。

    銀座【黒猫夜】では店長として腕をふるっていた水岡シェフ。鶏肉の燻製、鹿や豚のバラ肉で作るベーコンなど干し肉も手作り

    銀座【黒猫夜】では店長として腕をふるっていた水岡シェフ。鶏肉の燻製、鹿や豚のバラ肉で作るベーコンなど干し肉も手作り

 それまで学んできたものとは全く異なる少数民族や辺境地域の料理に、すっかりハマってしまったのだ。そして、痛感したのが自らの語学力。

「【黒猫夜】の社長に、《中華のコックは中国語を話せないよね》と言われたのが悔しくて。イラッと来たんです(笑)。でも、よくよく考えてみれば、言葉がわからなければ、料理本の原書も読めないし、現地で料理について詳しく聞くこともできませんからね。」

加えて、【黒猫夜】の厨房に中国人コックがいたことも、刺激になったそうだ。そこで一念発起。台湾へ一年間語学留学することに。この時、台湾で過ごした一年間が、語学力だけでなく様々な意味で水岡料理の根っこの部分での糧となったに違いない。

“中華シャルキュトリー”をはじめ、オリジナリティ溢れる辺境チャイニーズのコース料理を紹介

 さて、【南三】ではマニアック度満載のコースを月替りで提供している。

 まず、旬の素材が色とりどりに並ぶ6種類の『前菜盛り合わせ』が出され、次に『珍味盛り合わせ』と称する中華版シャルキユトリーが登場。『季節の野菜料理』で一息ついた後、『旬の春巻き』で軽くジャブ、続いて、魚、肉と圧巻のメイン料理が畳み掛けるようにお目見えする。そしてシメの麺かご飯もの、デザートで大団円。なんとこれで5,000円! 費用対効果がバツグンなのだ。水岡シェフが言う。

    料理は5,000円一本勝負(写真は3人分)。月ごとで献立を変えている

    料理は5,000円一本勝負(写真は3人分)。月ごとで献立を変えている

「日常使いのできる気やすい店にしたかったんです。5,000円ぐらいなら、 月に一回ぐらいは行ってみようかな、と思える値段じゃないかなと思った」そうで、ワインもボトルで2,900~3,600円程度。たっぷり飲んで食べても1万円でお釣りがくる。この価格説定で、それを上回る満足度。となれば評判を呼ぶのも必定。結果、人気が出すぎて2ヶ月先まで予約で満席。気安く来られる店ではなくなってしまったことは、なんとも皮肉ではある。

    ワインは、ボトルに値段が書いてあるもの以外は2,900円均一の明瞭会計。左からスペインのカヴァ3,000円、ドイツのゲヴェルトラミナー2,900円など各国のワインを揃えている。ナチュールワインもある

    ワインは、ボトルに値段が書いてあるもの以外は2,900円均一の明瞭会計。左からスペインのカヴァ3,000円、ドイツのゲヴェルトラミナー2,900円など各国のワインを揃えている。ナチュールワインもある

 もちろん、値段の手頃さだけでは無い。【南三】最大の魅力——それはやはり料理そのものにある。取材当日の献立を見てみよう。

 スターターの『前菜の盛り合わせ』に並ぶは、“芽キャベツの塩卵和え”や“台湾緑筍のカラスミマヨ和え”、“牡蠣スモークの発酵パインソース”に“菜の花ピータン豆腐”と“酔っ払い海老”。そしてよだれ鷄ならぬ“よだれナマコ”の6種類。

次の『珍味盛り』は、鴨舌の燻製、ウイグルソーセージ、パリパリ大腸の3種。『オオタニワタリと台湾オリーブの炒め物』が出て、『ポロ葱と海老卵、オマールえびの春巻き』。続いて『塩レモンサワラ蒸し』、『羊のロースト ニラミントソース』が出て、シメの食事が『ホタルいかとサクラ海老の台湾風おこわ』。デザートは『桃樹杏仁のリンコシャーベットがけ』。聞くだけで、好奇心を掻き立られる料理が満載! コースの流れも絶妙だ。

『前菜盛り合わせ』

    『前菜盛り合わせ』。手前左から時計回りに“よだれナマズ”、“牡蠣スモークの発酵パインソース”、“酔っ払い海老”“筍カラスミマヨ”、“菜の花のピータン豆腐”、“芽キャベツ塩卵和え”

    『前菜盛り合わせ』。手前左から時計回りに“よだれナマズ”、“牡蠣スモークの発酵パインソース”、“酔っ払い海老”“筍カラスミマヨ”、“菜の花のピータン豆腐”、“芽キャベツ塩卵和え”

 前菜からして心が弾む。

 一見、創作料理のように思える緑筍のカラスミマヨ。だが「この料理自体は(台湾では)けっこうポピュラーな食べものなんです。でも、向こうは味付けが甘いんです。だから、ここでは甘さをなくしてカラスミをふりかけてみました」とは水岡シェフ。

また、“菜の花ピータン豆腐”も水岡流のヒネリが効いた佳品だ。豆腐とピータンを混ぜ混ぜしたタイプはよく見かけるが、同店のそれは豆腐と湯がいた菜の花を混ぜ混ぜ。見た目は白和え風だが、一口食べて、思わず「オォッ」と声を上げてしまった。なんと腐乳を豆腐に混ぜているのだ。腐乳特有の風味で豆腐のコクが倍増。上に乗せたピータンとの相性も上々で、発酵食品同士ならでは旨味の相乗効果を実感できるはずだ。

『珍味盛り~鴨舌・パリパリ大腸・ウィグルソーセージ』

    定番の中華シャルキユトリー。“自家製ウイグルソーセージ”、ネギを射込んだ“パリパリ大腸”、“鴨舌の燻製”

    定番の中華シャルキユトリー。“自家製ウイグルソーセージ”、ネギを射込んだ“パリパリ大腸”、“鴨舌の燻製”

 そして今や、【南三】のシグネチャーメニュー的存在となったのが中華シャルキユトリー。これにも、随所に水岡シェフらしいアレンジが光っている。まず、筆頭はウイグルソーセージ。本来のそれは、羊の舌やハツ、レバーなどの内臓類で作る、いわば中華版“羊のアンドゥイエット”。

 だが「そのままだと日本人にはちょっと厳しそうなので、少しだけ食べやすく改良した」と水岡シェフ。そのアレンジの加減が実に巧妙なのだ。安易に和風にするのではなく、台湾でおなじみの糯米大腸(餅米と生ピーナッツ入り豚大腸の腸詰め)とドッキング。羊の内臓のほか肩肉や餅米を入れることで味わいをマイルドに仕上げる一方、背脂を加え、低温でよく練ることで乳化させ、全体をつなぐという西欧式手法も取り入れている。

    鶏肉の燻製や鹿や豚ベーコンなどお手製の干し肉たち

    鶏肉の燻製や鹿や豚ベーコンなどお手製の干し肉たち

 また、パリパリ大腸も、見かけによらず手間暇かけた一品。生の大腸を裏返して、中の脂を綺麗に取り除き、片栗粉と蒸留酒でよくもみ洗い。滑りや汚れを綺麗に取ったら、一度下ゆでしてから鹵水で柔らかくなるまで煮込む。その後、ザルにあげ、水気をよく切り、空洞となった腸の中に葱を通す。が、これで出来上がりでは無い。それから更に水飴と酢を塗り、一晩干してようやく下ごしらえの完成。これを、お客に出す前にカリッとあげれば、サクサクとした腸皮の歯ざわりも軽やかな珍味に仕上がるわけだ。

【南三】の味を決定づける、水岡流オリジナルソース

 また、特筆すべきは【南三】オリジナルのソースたち。

前述の“発酵パインソース”に、自家製ラッキョウ漬けと発酵唐辛子の甘酢漬けを合わせた“ラッキョウース”等々、何これ⁉︎と目を丸くしてしまうような未知の味に心を奪われたのは私だけではないだろう。

    水岡中華に欠かせない自家製ソースの数々。手前から時計回りに、舌平目の干物の粉末や台湾エシャロット、ココナッツ、唐辛子などで作る沙茶醬、発酵パインソース、ニラミントソース

    水岡中華に欠かせない自家製ソースの数々。手前から時計回りに、舌平目の干物の粉末や台湾エシャロット、ココナッツ、唐辛子などで作る沙茶醬、発酵パインソース、ニラミントソース

 中でもハートを鷲掴みにされたのが、羊のローストにかかっている“ニラミントソース”。これが旨い! いや怪味、快味というべきか。ニラやミントにレモングラスなど実に様々な味や香り、微かな辛味が混ざり合い、爽快かつテイスティ。後を引きまくること請け合い。

聞けば、雲南地方の烤魚料理に使う香草ソースを水岡流にアレンジしたもので、特有の爽やかな香りの源は、レモングラスもさることながら、木姜子(ムージャンズ)と呼ばれる香辛料。レモングラスと胡椒を掛け合わせたような風味が特徴で、中国では貴州省でよく使われているそうだが「台湾の馬告(マーガオ)という香辛料によく似ているんです。」とは水岡シェフ。

『羊のロースト ニラミントソース』

    『羊のロースト ニラミントソース』。レモングラスや木姜子の爽やかな香りとニラの風味などが渾然となって鼻腔を抜ける

    『羊のロースト ニラミントソース』。レモングラスや木姜子の爽やかな香りとニラの風味などが渾然となって鼻腔を抜ける

その馬告にも似た木姜子が、ソースをよりパンチのある味わいに仕立てている。今回は、羊のローストに掛けているが、鴨肉や魚のソースとしても大活躍。そのまま食べても気の利いたつまみになりそうな万能ソースだ。

『ホタルいか、サクラエビ台湾おこわ』

  • 締めの『ホタルいか、サクラエビ台湾おこわ』。定番の干し海老や干し椎茸干し貝柱、干しダコのほか、旬のホタルいかと桜海老入り。もちもち加減が見事

『リンゴシャーベット桃樹液杏仁』

  • デザートの『リンゴシャーベット桃樹液杏仁』。水で戻した桃の樹液は、葛餅のようなねっちりとした食感。トロトロの杏仁豆腐も美味な人気のデザート

【南三】の料理。それは、確かに辺境中華に違いはない。けれども、水岡シェフは現地そのままのコピーを、ここで披露しようとしているわけでは決してない。現地の匂いを限りなく感じさせつつも、それを水岡テイストにアレンジする。異国と異国の料理を掛け合わせ、新
しい味を構成する。それでいて、現地にもきっとこんな味がありそう——と思わせる匙加減、センスの良さも水岡料理の大きな魅力だろう。

    一番人気⁉️の自家製レモンサワー700円。キンミヤ焼酎にレモンとグラニュー糖、そして、オレンジのリキュールコアントローを入れるのがミソ。紹興酒もある

    一番人気⁉️の自家製レモンサワー700円。キンミヤ焼酎にレモンとグラニュー糖、そして、オレンジのリキュールコアントローを入れるのがミソ。紹興酒もある

 ダイナミックさは残しつつも手間暇は、決して惜しまない。料理を作るのが楽しくてたまらない。彼の一皿一皿からは、そんな思いがめいっぱい伝わってくる——そんな水岡シェフの人柄。それも人気の所以だろう。

この記事を作った人

撮影/岡本 裕介 取材・文/森脇慶子

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