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更新日:2019.07.18食トレンド

オマージュ“の裏”にある姉妹店は、本格フレンチが安価で楽しめる「ビストロノミー」|浅草【noura】

浅草にあるフレンチの名店【オマージュ】。その姉妹店が、昨年の夏にオマージュ“の裏”にオープンしました。その名の通り、【noura(ノウラ)】。好みの料理を自分でコーディネートできるプリフィックススタイルのビストロで、手ごろな価格で本格フレンチが食べられると評判のお店なのです。

オマージュ“の裏”にある姉妹店は、本格フレンチが安価で楽しめる「ビストロノミー」|浅草【noura】

往年のフレンチレストランを彷彿とさせる、プリフィックススタイルの店

おまかせスタイルのフレンチが定着して、もうどれぐらい経つだろうか。【ムニュ・デキスタシオン】が流行った頃から既に存在していたとは思うが、現在のような“猫も杓子も”状態になったのは、【カンテサンス】以降ではなかったか、という気がする。

    最近、話題の店が続々と出来ている注目のエリア、浅草観音裏に昨年の8月、静かにオープン

    最近、話題の店が続々と出来ている注目のエリア、浅草観音裏に昨年の8月、静かにオープン

往年のレストランは、コースだけではなくアラカルトも用意しているケースが多かった。好みの料理を自分でコーディネートする楽しみが残されていたわけだが、コンパクトに食べられるコースにお得感があったのも事実。

そこで、一大旋風を巻き起こしたのがプリフィックススタイルだ。先駆者は、伊川順二シェフ。フレンチをもっと気軽にとの思いから、彼が始めたビストロ【パ・ザ・パ】がそれだ。

今を去ること30年ほど前、荒木町にオープンしたこの店のスタイルは、瞬く間に当時のフランス料理界を席捲した。なにしろ、前菜、主菜、デザートに食後の飲み物付きで3,800円! それも各カテゴリーに4~5種類用意されたアイテムから好きな料理を選べるのだから、食いしん坊にとっては願ったりかなったり。アラカルトの割高感を感じることなく、制限があるとはいえ、選ぶ自由はあるわけだ。

    ずらりと横並びのテーブル席がユニーク。テーブルには、カトラリーがまとめて置かれており、セルフで使うシステム。メニューも机の下の引き出しに差し込んである。

    ずらりと横並びのテーブル席がユニーク。テーブルには、カトラリーがまとめて置かれており、セルフで使うシステム。メニューも机の下の引き出しに差し込んである。

一世を風靡したものの、近頃ではあまり見かけなくなっていたこのプリフィックススタイルに久しぶりに出会った。

浅草【noura】ー。

そう、あのミシュラン2つ星の名店【オマージュ】“の裏” に去年の夏オープンしたビストロである。

浅草は観音裏。公園に面して佇む、そのどっしりとした木の扉を開ければ、店内は木の温もりを生かした北欧テイストのインテリア。うなぎの寝床のように細長く、入って右手がオープンキッチン、そして左手は、横一列にテーブル席がずらりと並ぶ。

    客席との隔たりがない厨房は、ちょっとしたアイランドキッチンのよう。入り口そばの席なら、料理を作っている様子がよく見える。

    客席との隔たりがない厨房は、ちょっとしたアイランドキッチンのよう。入り口そばの席なら、料理を作っている様子がよく見える。

民家をリノベーションしたというだけに、どこかアットホームな居心地の良さが印象的。厨房とダイニングの境目がなく、アイランドテーブルが置かれたキッチンは、知人のダイニングキッチンのような親近感がある。

「もう一度、原点に戻ってみようと思ったんです」

静かな口調でそう語るのは、【オマージュ】のオーナーシェフ、荒井昇さん。今から19年前、【オマージュ】をオープンした当初は、3,800円のプリフィックススタイルからスタートした荒井シェフ。2011年の東北大震災を機に、思い切って方向転換。店を移転すると共に、それまでやりたいと考えていたガストロノミー路線の店へと舵を切りなおした。しかし……。

    「オマージュ」の荒井昇シェフ(左)と「noura」を任された松本義夫シェフ。厳しいフランスでの修業時代を共に過ごした仲だ。

    「オマージュ」の荒井昇シェフ(左)と「noura」を任された松本義夫シェフ。厳しいフランスでの修業時代を共に過ごした仲だ。

劇場型レストランやイノヴェーティヴ料理等々、食の有り様が目まぐるしく移り変わる昨今、「色々と考えさせられることがありましてね。時代の流れに捉われることなく普遍的な料理を出す、そんな普通の店があってもいいんじゃないか…そう思ったんです」

そんな荒井シェフの想いが詰まったメニューを覗けば、“オニオングラタンスープ”に“自家製リエットとタルタル”、“鴨のコンフィ”から“カスレ”、“ステーキフリット”etc.定番のビストロ料理がずらりと並ぶ。

    『スモークサーモンのラタトゥイユ包み  クリームクネルとワッフル添え』5,800円コースの前菜。単品は1,500円。専用の機械で焼く焼きたてのワッフルも美味しい。

    『スモークサーモンのラタトゥイユ包み クリームクネルとワッフル添え』5,800円コースの前菜。単品は1,500円。専用の機械で焼く焼きたてのワッフルも美味しい。

しかも、前菜、ミニスープ、メイン、デザートの4品構成で 3,800円と5,800円のお手頃価格! 加えて1皿のボリュームもしっかりビストロサイズとあらば、グルマンならずとも食指が動く。

    夏場の新メニューの『仔羊の煮込み ナヴァラン風』。2,800円。北海道足寄産の仔羊のあばらの部分を、白いんげんと共に煮込んだ一皿。心寛ぐしみじみとしたおいしさだ。

    夏場の新メニューの『仔羊の煮込み ナヴァラン風』。2,800円。北海道足寄産の仔羊のあばらの部分を、白いんげんと共に煮込んだ一皿。心寛ぐしみじみとしたおいしさだ。

ちなみに、この2,000円の差は、料理内容の差。3,800円の方は、先のオニオングラタンスープやステーキフリット、パテ・ド・カンパーニュなどザ・ビストロといった料理が並び、5,800円の方は『三重県鳥羽、北川さんの岩牡蠣のゼリー寄せ』や『スパイシーなガスパチョ メロンと生ハム添え』といったややガストロノミックなメニューが、前菜に華を添える。

そして、何より目を見張らされるのは、食材の質と料理の完成度の高さ。

    『マダムビュルゴーのシャラン鴨 腿肉のコンフィ』5,800円コースのメイン。単品は3,000円。鉄分の旨味の濃いシャラン鴨を、贅沢にもフォアグラの脂でコンフィに。

    『マダムビュルゴーのシャラン鴨 腿肉のコンフィ』5,800円コースのメイン。単品は3,000円。鉄分の旨味の濃いシャラン鴨を、贅沢にもフォアグラの脂でコンフィに。

『鴨のコンフィ』の鴨には、マダム・ビュルゴーのシャラン鴨を用い、冷製フォアグラには、昔ながらの伝統的な生産法に拘るダニエルキャスタンの口どけなめらかなフォアグラを選ぶなどいずれも一流レストランと変わらぬ質の高さ、仕事の丁寧さが光る。

「オーセンティックな料理を手を抜かず、上質な食材を使って提供したい」

そんな荒井シェフの真摯な姿勢が伝わってくるようだ。

特筆すべきは、雑味のない旨味が凝縮された“綺麗な味”のスープ・ド・ポワソン

厨房を任されたのは、荒井シェフとは、フランスでの修業時代、きのこの魔術師と言われた三ツ星シェフレジス・マルコン氏の元で共に学んだ松本義夫シェフ。【noura】のオープンに際して、荒井シェフが口説き落としたベテランだ。だからなのだろう。どの皿も、作り込んで来たからこその安定感のある味わいを感じさせる。

中でも、白眉は“ブイヤベース”。スープ・ド・ポワソンが秀逸なのだ。

    『ブイヤベース オマージュ仕立て』は、5,800円のコースのメイン。単品は3,000円。ココット鍋のままテーブルに運ばれる演出にも、心が躍る。滋味豊かで余韻が深い。

    『ブイヤベース オマージュ仕立て』は、5,800円のコースのメイン。単品は3,000円。ココット鍋のままテーブルに運ばれる演出にも、心が躍る。滋味豊かで余韻が深い。

実は、このスープ・ド・ポワソン、お隣の【オマージュ】で仕込んでいるそうで、荒井シェフ曰く「スープの主材料は、アマダイの骨と赤座海老の殻。どちらも【オマージュ】でよく使う魚なんですよ(笑)。あとはその時々で仕入れた旬の魚が入ることもありますが、基本はアマダイの骨と赤座海老の殻のみ。」だそうで、その他、人参、玉ねぎ、セロリにトマトペースト、そして軽く濃度をつけるためのじゃがいものみ、とシンプルかつユニークだ。

「目指しているのは、綺麗な味。凝縮感はあるけれど、雑味のない味わいが理想です。だから、あまり煮出さず、煮込むのは40分程度」とは荒井シェフ。

    魚以外の海老やイカは、一度ソテーして軽く火をいれてから、スープに入れる。

    魚以外の海老やイカは、一度ソテーして軽く火をいれてから、スープに入れる。

魚などの具を濾し、更に1/3の量になるまで弱火でゆっくり煮詰めたら、ここに、スープ5に対し1の割合でオリーブオイルをたっぷりと入れ、ハンドミキサーにかけて乳化させる。これが荒井流、旨さの秘訣だ。だからなのだろう。スープ・ド・ポワソンならではの磯の香りや魚介の濃密な旨味を漂よわせつつも、口当たりはあくまでも軽やか。

    継ぎ足し継ぎ足しを繰り返しつつ、週に3回作るというスープ・ド・ポワソン。魚は、生のまま投入。写真の魚は、黄ハタ。

    継ぎ足し継ぎ足しを繰り返しつつ、週に3回作るというスープ・ド・ポワソン。魚は、生のまま投入。写真の魚は、黄ハタ。

どこかつるんとしたような滑らかさは、なるほど荒井シェフの言う“綺麗な味”そのものだ。料理の提供の仕方はビストロでも、その味わいは、最早、ガストロノミーのそれと変わらない。まさに“ビストロノミー”と呼ぶに相応しい一軒だろう。

    『魯肉飯』500円。岩手の南部高原豚の腕と豚足を柔らかくなるまで煮込み、台湾醤油やお酒、千鳥酢、五香粉などで味付けしている。テイクアウト用もある。

    『魯肉飯』500円。岩手の南部高原豚の腕と豚足を柔らかくなるまで煮込み、台湾醤油やお酒、千鳥酢、五香粉などで味付けしている。テイクアウト用もある。

一方、これぞフレンチといったラインナップで料理を構成しながら、〆には台湾でおなじみの“魯肉飯”を用意。そんな茶目っ気も、いかにもイマドキ。ご飯があるというだけで、不思議と肩の力がふっと抜けていくようだ。

また、日常使いしてほしいからと予約は前日からのみ受け付けるシステム。当日でもふらっと入れる、そんな気軽さも魅力の1つだろう。

この記事を作った人

撮影/岡本 裕介 取材・文/森脇慶子

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