オイルと塩で食べる新感覚のおすしが登場!【米菜°sakura 織音寿し】東京・銀座
地産地消のパイオニアとも呼べるレストラン【アル・ケッチァーノ】の奥田政行シェフが新たに考案したのは、オイルと塩で味わう「オイル寿し」。なぜ、イタリアンの料理人がすしにチャレンジするのだろう。その真意に迫った。
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日本の米の価値を上げ、その素晴らしさを世界に広めたかった
ネタにする魚に応じてオイルと塩を使い分ける
すし屋のつまみにアクアパッツァ!?
日本の米の価値を上げ、その素晴らしさを世界に広めたかった
2020年7月、東京・銀座に誕生した【米菜°sakura 織音寿し(ベイサイドサクラ オリオンズシ)】は、各国のオイルと塩で食べる、世界で初めての「オイル寿し」の店。イタリア スローフード協会国際本部が主催した「テッラ・マードレ 2006」において世界の料理人1000に選出されるなど、国内はもとより世界にもその名を馳せるイタリアンの第一人者、奥田政行シェフがワインとペアリングさせるために考えたものだ。
奥田政行シェフ。山形・庄内の【アル・ケッチャーノ】をはじめとする5店舗を切り盛りするほか、庄内の食材を広めるべく多忙の日々を送っている。
最初に断っておくと、オイル寿しとはけしてオイリーなすしではない。ネタに合わせてオイルとすしを使い分けることで、すべてが引き立て合い、ハーモニーを奏でる新感覚のすしである。口にしたことがなければ味わいの想像がつかないかもしれないが、奥田シェフは笑ってこう言った。
「まずいはずがないんですよ。だって、オイルに酢飯の糖分を合わせることは、生クリームに砂糖を入れているようなものでしょう? そこに塩を加えたら、ヴィネグレットソースになる。ほら、美味しい。それにね、魚でも野菜でも、素材がよければ、塩で食べるのが一番味わい深いんですよ」
料理のメニューはコースのみ。夜は1万2,000円〜。写真はオイル寿しの一例『セビーチェ』。寒平目をレモン果汁で締めて、シチリア産のオリーブオイル、パセリと共に味わう握りだ。
オイル寿しの店をやるきっかけとなったのは、イタリアのジェノヴァを訪れたときにすしにオイルを塗って出したところ、スタンディングオベーションに包まれたこと。そして、その後、アメリカや中国からもオファーが届き、需要があると感じたそうだ。
「僕は昔から日本古来の米の価値を上げたいと思ってきました。そうしなければ、後継者がいなくなって米作りが廃れてしまう。彼らの反応は、可能性を見出すのに十分なものでした。そこで、もともと東京オリンピックが開催される予定だった2020年に、江戸前ずしの聖地である東京の銀座に出店したのです。ちなみに、すしの表記を“寿司”ではなく“寿し”としたのは、オイル寿しが新感覚のすしだから」(奥田シェフ)。
庄内浜を中心に主に日本海側で獲れた魚を使用。
ネタにする魚に応じてオイルと塩を使い分ける
では、実際のところ「オイル寿し」には塩とオイルがどのように使われているのか。
店に用意されているオイルは10種類以上、塩は100種類以上。オイルはすしネタにする魚の味や香りに共鳴するものを吟味して選ばれている。
付け場には世界各地から取り寄せられたバラエティ豊かなオイルが並ぶ。職人が刷毛でネタに塗るのをカウンター越しに眺めるのは新鮮だ。
参考までに、ある日のすしネタとオイルの組み合わせの例をご紹介しよう。
ヤリイカ×ショウガオイル
マアジ×スペイン エグレヒオ(オリーブオイル)
クルマエビ×ベルガモットオイル
メジマグロ×ニンニクオイル
ウニ×ブラッドオレンジオイル
組み合わせる上でのポイントは、奥田シェフによれば「ネタにする魚の特徴を見抜くこと」。鮪の赤身なら鉄分と酸味があるので、その酸味を中和するために丸い味のニンニクオイルを使用する。また、塩については、鮪の酸と同化するような酸味のあるタイプが適しているため、石川県能登半島で作られる竹炭塩を選ぶ、という具合だ。なお、ペアリングするワインはピノ・ノワール。「赤身の握りを食べた後に丸みのあるワインを飲むと、口の中に残る酸味がぐっと引き締まる。これが、僕が考案するオイル寿しの世界観。食材の共鳴です」(奥田シェフ)。
塩のストックは100種類以上と教えられたが、奥田シェフが見せてくれたメイクボックスのごとき塩コレクションを数えると、300種類以上(!)はありそうだった。
すし屋のつまみにアクアパッツァ!?
「オイル寿し」だけでも相当に新鮮なすし体験だが、この【米菜°sakura 織音寿し】を唯一無二の存在たらしめている要素は他にもある。つまみもそうだ。なんとこちらでは握りと握りの合間にバーニャカウダやアクアパッツァなど、魚を使った温製のイタリア料理が小皿で登場するのである。これについて奥田シェフは次のように話してくれた。
「冷製の料理を口にすると、人は自分から味を探しに行きます。それに対して、温製の料理は味が向こうからやってくる。すしを食べつつ、イタリアンのつまみを味わうと、攻めと守りが逆転して、また食べられるようになるんですよ」
旬のメバルを使ったアクアパッツァ。セロリとドライトマトを用い、軽い味わいに仕立てている。
たしかに。筆者は実際におまかせ握り10貫とつまみ2品、デザートが付いたランチコース『浜風』(6,500円)を試してみたところ、味わいに緩急のついた構成のおかげで最後まで飽きることなく楽しめた。せっかくなのでとコースに合わせてワインのペアリングをお願いしたところマリアージュの感動が増幅し、もっと、もっとと、つい欲張って握りを追加で所望してしまった。
店でストックするワインと日本酒の一例。山形産などの日本ワイン、五大シャトーのワイン、サンマリノやグルジアのワインなど、世界各国のお酒をラインナップしている。ワイン&日本酒のペアリングコースは1万円~。
ネタ、オイル、塩、米、酢、ワインが口内調理でマリアージュされて、新鮮な口福をもたらす奥田シェフの「オイル寿し」。「食べに来てくださった方はわけがわからないから、2度、3度と足を運ぶんです」と奥田シェフは愉快そうに笑っていたが、近々、また食べに行ってみたいと思っている筆者は、その奥田マジックにすっかりハマってしまったクチ、なのだろう。
店内はカウンター8席のみ。
撮影/玉川 博之 取材・文/甘利美緒
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