ご飯と共に気軽に楽しむ本格フレンチ【モノビス】が青山に開店!
フランスの名だたる三つ星店などで修行を重ね、帰国後レストラン【モナリザ丸の内店】の総料理長を経て【モノリス】を開業した石井剛シェフが、念願の姉妹店【フレンチ御膳・モノビス】をついにオープン。そのコンセプトは、なんと定食屋。骨太でありつつも、お一人さまや若い人がふらりと立ち寄れる「フランス料理×ご飯」の新境地とは?
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コロナ禍から生まれた新しいフランス料理の形
+ご飯で、本格フランス料理の味を親しみやすいスタイルに
この味が好きだから、通う。「ファンベース」の店の形
コロナ禍から生まれた新しいフランス料理の形
【モノリス】から徒歩わずか数十秒という抜群の立地に、今年8月にオープンしたばかりの定食屋【フレンチ御膳・モノビス】。「本店から、あまり遠くない場所にカジュアルな姉妹店を作りたいとは数年前からずっと考えていました」と石井シェフ。とはいえ、そのスタイルには、実はコロナ禍が大きく影響しているのだそうです。
フランスのミシュラン三つ星店などで修業を重ねた石井剛シェフ。「ル・テタンジェコンクール・ジャポン」の審査員も務めます
オーセンティックなフランス料理店である【モノリス】の客層は、フランス料理を食べ込んだゲストが中心。年齢層も高めだったため、コロナ禍で来店が難しくなるケースも少なくありませんでした。同時に、華美さはなくとも、しっかりと味を作り込んだフランス料理の良さを、若い人たちにも知ってもらいたい、という思いもあり、予約なしで一人でも気軽に訪れられる「定食屋」のスタイルを取ろうと思いついたのだそう。
グレーを基調としたスタイリッシュな内装、カウンターならではのライブ感も魅力の一つ
ターゲットは今の時代ならではの「お一人さま」。「コロナの状況でも、自分へのご褒美に、おいしいものを食べたい、という需要は絶対にあると思ったのです」。カウンター席のみにすることで、向かい合うよりも飛沫感染のリスクが低く抑えられ、料理もテンポよく出していくことで、数時間かけてゆっくり楽しむこれまでのフランス料理とは異なり、45分〜1時間20分ほどで食べられるため、感染リスクも最小限にできるという趣向です。
+ご飯で、本格フランス料理の味を、親しみやすいスタイルに
でも、石井シェフはそもそもなぜ「フランス料理とご飯」という組み合わせを思いついたのでしょうか?
「フランス料理では、米は野菜として扱われます。僕がフランスで修業した三つ星店の一つ【ジョルジュ・ブラン】では、シグネチャーの鶏のフリカッセに、米が付け合わせとして出てくる。やっぱり、日本人ですから米が出てくると純粋に嬉しいんですよね」。
フランス料理とご飯の相性の良さに気づいていたものの、生粋のフランス料理店である【モノリス】でご飯を出すわけにはいきません。でも、【モノビス】でならそれができる。フランス料理の技法を使いつつも、もっと自由に日本人としてのアイデンティティを生かした料理が作れる、というわけです。
60gの厚切りのフォワグラ、使う肉は和牛100%というハンバーグは150gと「しっかり食べた」満足感も抜群です
ここで追求するのは、「ご飯にあう味付け」。特に、甘辛い味との相性が良いのだそう。例えば、早くもシグネチャーとなりつつある『ハンバーグ・ロッシーニ御膳』には、石井シェフ自慢のペリグーソースが使われていますが、「実はペリグーの味のバランスは、照り焼きソースに近いものがあるんです。作るのはあくまでも王道のペリグーソースですが、半熟の目玉焼きをのせたハンバーグと合わせることで、どこか懐かしく感じてもらえる味に仕上がっていると思います。この【モノビス】では、フランス料理が大好きな日本人である僕が、日本人の口に合うように仕上げたフランス料理を出していきたいのです」
さらに、コロナ禍での気づきが、後押しした部分も。「コロナ禍で、専門店の強さが浮き彫りになりましたが、その背景には、『これを食べたいからここに行く』と、ゲストの心に明確な『食べたい味』が浮かぶ料理だからだと思います」だからこその「○皿のコース」ではなく、メインの料理を前面に打ち出し、そこに複数の小鉢がつくスタイルの選択。サービス料は取らず、代わりに330円で「お通し」としてコンソメを出す、という所にも「きちんと作ったフランス料理の『味』を知って欲しい」という思いがあるのだとか。
人気メニュー『ぶいやべーす御膳』は、残ったスープにご飯を入れて、リゾット風にしていただくのがオススメ
「時間をかけて作り込んだ盛り付けも、食体験を格上げする要素ですが、やはり一番大切なのは味。ここは、その味に向き合う場所であってほしい」と語ります。だからこそ、小鉢も「うずらと里芋のバロティーヌ」「フォワグラのフラン、レンズ豆のソース」など、ポーションこそ小さいものの、構成としてはちゃんとフランス料理の一皿。さらに、パテ・ド・カンパーニュを春巻きの皮で包み、揚げたてを提供するなど、カウンターならではの出来立てをテンポよく提供するライブ感も抜群。
カジュアルな定食コンセプトではあるものの、味に直接関わる部分は特に妥協しません。付け合わせには、石川県能登の「高農園」の野菜を使うなど、食材の多くが、【モノリス】と共通。ロッシーニのハンバーグには【モノリス】で出た端材の肉を上手に活用しています。「料理の着物」である器も、特注で仕立てた白木の大きなお盆、食器は有田焼を使うなど、食の豊かさを実感できます。
カトラリーはゲストが必要な時に取り出すシステム。引き出しは薄く作られ、テーブル下のスペースもゆったりしています
席数は8席と小さいものの、お店は、朝2回転、昼2回転、夜3回転というシステムで、通常の2〜3倍の回転数。多くの人により気軽に楽しんでもらうためには、低価格で効率よくオペレーションをすることも重要です。だからこそ、引き出しからゲストが自分で取り出すカトラリーに、スムーズに座りやすいように片側だけ肘掛のついた、座り心地の良い特注の椅子など、効率的な工夫も凝らされています。
この味が好きだから、通う。「ファンベース」の店の形
忙しい厨房をこなしていくのは、紆余曲折ありつつも、合計約3年【モノリス】で働き、石井シェフが「料理に対する情熱は人一倍、とっても勉強家です」と太鼓判を押す、29歳の仕名野吉宗シェフ。肉は一頭・半頭買いをして、店でさばき、自家製のフォンドボーをとる。伝統的な手法を大切にした丁寧な仕事ぶりで知られる石井シェフの料理。仕事を始めた頃は若さゆえ、石井シェフと衝突することもあったそうですが、「どうしても、石井シェフの料理の味が忘れられない」と戻ってきた、石井シェフの味に魅了されたファンの一人。
回転数の多い営業は、気を抜く暇もない忙しさですが「忙しいの、好きなんです。やったぞ、という充実感があって」と笑顔です。今のメニューは石井シェフが考案しているものですが、徐々に新しい料理も提案して、一緒にメニュー作りをしていくことになっているそうです。
定食の定番、鮭の塩焼きをフランス風に解釈。肉厚なタスマニア産サーモンにいぶりがっこを入れたラビゴットソースを添えて
今の時代、しっかりとしたファン層を持つことは特に大切。そんな時代に適応して【モノビス】では、リピーターに嬉しい、「Mono-bisカード」と名付けたポイントカードを導入しています。まるで飛行機のマイレージカードのように、利用回数が増えるとブロンズ→シルバー→ゴールド→ブラックと会員ランクが上がり、よりお得に味わえるというサービスです。
開店前には、ゴールドカード付きのセットを販売したクラウドファンディングで、なんと目標額の5倍もの金額を達成。「ふらっと気軽に」がコンセプトながら、今のところ、予約は必須のようです。
【モノリス】から徒歩わずか1分、トリコロールののれんが目印の【モノビス】
「明治時代の洋食以降、ご飯に合うフランス料理という世界はアップデートされていないままだったと思います。今の時代にあった、新しいフランス料理のジャンルとして、これから認知されて行って欲しい」と考えているそうです。コロナ禍で生まれた新しいレストランの形。味や、サービスやスタイルも含めた「今の雰囲気」を兼ね備えた新しいフランス料理の形として、注目を集めて行きそうです。
取材・文/仲山今日子 撮影/岡本裕介
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