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長野【割烹安藤】~ヒトサラ編集長の編集後記 第36回

秋は実りの季節、おいしいものがたくさんあります。そのなかでも王者はやはり松茸でしょうか。今回は信州に松茸狩りに行って、それをお店で料理してもらうという旅をしました。場所は南信州豊丘村の【割烹安藤】です。

キャビアが乗った松茸寿司

松茸のネイチャー・トゥ・テーブル

南信州豊丘村で【割烹安藤】を営む池野大樹さんの案内で近くの山に入り松茸を探します。結構急斜面で足元がおぼつかなかったですが、言われる場所を探すと確かに松茸が落ち葉の中から頭を出しています。

「雨が降ったあとは結構出ますよ。次の日にきてもまた同じあたりから出てたりします。それだけ成長が早いってことですね。1年のうち、いましか味わえない醍醐味です」と池野さん。

    豊丘村の松茸

大きな松茸は近くに行くだけでもうあの香りを出しています。しゃがんで松茸を傷つけないように丁寧に周りから手で掘っていきます。運が良かったようで、短時間でかなりの収穫です。
これを池野さんが料理してくれるという、贅沢なネイチャー・トゥ・テーブルです。

「信州って蕎麦のイメージが強いと思うんですけど、食材には恵まれていると思います。いまの時期は松茸がいいですが、うちではチョウザメを育ててキャビアもつくっています。それを一緒に味わっていただければ」。

    豊丘村の松茸

信州のキャビアと合わせて

さて、一仕事終えてお腹も空いた頃、【割烹安藤】に到着。カウンター越しに池野さんが調理を始めました。松茸の香りが部屋を包んでいます。
池野さんは地元で修業された料理人で、オリジナルの食材を求めるうちチョウザメの飼育に行きついたのだとか。いまでは『チョウザメ丼』や『チョウザメ・ラーメン』といった変わり種もメニューに入るようです。

    松茸とチョウザメの皮の煮凝り

まずは『松茸とチョウザメの皮の煮凝り』から。キャビアの風味を味わってほしいと池野さん。キャビアのとなりにはフィンガーライムが彩りを添えています。チョウザメは言われないとわからない食感で、それに塩味と深みを与えるキャビアは刺激の少ない、むしろ卵感を感じるものです。この地ならではの野趣あふれる先付です。

    松茸の土瓶蒸し

『松茸の土瓶蒸し』は、親しんだ味ですが、香りの立ち方が違います。

    松茸と雑きのこのセロファン蒸し

そして松茸と雑きのこをセロファンで包んで蒸したもの。さっきいた山の香りがより華やかになった印象です。ずっとこの香りに包まれていたい気になります。

    チョウザメの刺身

刺身で出されたのがチョウザメ。ここにも松茸が添えられています。
「チョウザメは1週間ほど寝かせています。独特の臭みがあると言う人もいますが、これはぜんぜん違うと思います」。

口に運ぶと、確かに食感や風味は寝かせた川魚、ニジマスを感じます。
「天然わさびが生息する清水で育てていますからね」と池野さん。「キャビアもこのチョウザメの卵ですからフレッシュな感じかと思います」。

このキャビアは、長野発のブランド・キャビアとして「天女のほほえみ」という名前で売られてもいます。日本ワイン、それも長野のものと合わせてみたくなり、買って帰ることにしました。
 

香りの饗宴

「コロッケと餃子もつくってみたんですが……、あ、チョウザメのひれ酒もどうですか?」
なんか居酒屋風でいいですね。もちろんいただきます。フグのひれ酒よろしく火を点けてみたりして、カウンターが華やかになりました。

それから『松茸寿司』です。

    松茸寿司

可愛く握られた2カン。彩りが綺麗です。フィンガーライムの酸っぱさがいい具合に全体を締めています。これもまたお酒がすすみます。

    南信州牛ときのこソース

焼物は旨味を湛えた柔らかい南信州牛に、香り高いきのこソース、トリュフにようにスライスされた松茸に、キャビアが添えられます。重厚なフレンチのメインのような、でもどこか軽やかで和の佇まいを見せる一皿になっています。香りの饗宴のピークでした。

    締めの松茸ご飯

最後に『松茸とチョウザメの天ぷら』が出て、締めはもちろん『松茸ご飯』。あみ茸の澄まし汁が体に染み入るようでした。


天気に恵まれた南信州の秋を楽しませていただきました。紅葉はもうすぐです。

この記事を作った人

小西克博/ヒトサラ編集長

北極から南極まで世界100カ国を旅してきた編集者、紀行作家。

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