鮨の激戦区・西麻布に異変あり! 銀座の名店でみっちり修業した職人の新店、現る|【鮨 祥】
腕の立つ鮨職人が凌ぎを削る東京・西麻布に、銀座の名店【青空】で8年半修業を積んだ三井祥さんが店を出した。名前は【鮨 祥】。2021年7月26日のオープンからまだ数ヶ月しか経っていないにもかかわらず、すでにリピーターが後を絶たないという。
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【青空】の大将を見て学んだ「仕入れ」の大切さ
調和のセンスが光る“最後までおいしい鮨”
眼福に値する貴重な器の数々
【青空】の大将を見て学んだ「仕入れ」の大切さ
【鮨 祥】が生まれたのは、“素材感”を大切にした料理と器選びのセンスで食通を唸らせる日本料理店【豪龍久保】があった場所。その付け場を任されたのが、「ピンの食材しか使わない」と評判の銀座【青空】で8年半修業した三井祥さんである。
美しい佇まいで鮨を握る三井さん
「【青空】では、技術はもちろん、魚の仕入れについてとことん学びました。親方は、名前がどれだけ売れようとも仕入れは人にまかせず、毎朝6時に市場へ出かけていく。仲買さんと信頼関係を築き、一切の妥協を許しません。そうした姿勢を受け継ぎつつ、この【鮨 祥】では徐々に自分らしさも出していきたいと考えています」
まだ33歳と若いが、三井さんの口調は随分と落ち着いている。そして、物腰がやわらかい。さらに聞くと、仕入れ先は【青空】とほぼ同じ。しかも【豪龍久保】からのスタッフが脇を固めている、と教えられた。
これはもう、おいしい料理をいただけないわけがない。確信に満ちた予感がした。
取材した日には、東京湾で獲れた天然の車海老がお目見え。濃厚な味わいで、なかなか手に入らない貴重品だ
調和のセンスが光る“最後までおいしい鮨”
【鮨 祥】の料理のメニューは、3万3000円のおまかせコース1本。選び抜いた食材に質実剛健な仕事を施したつまみとにぎりを堪能できる。
取材した日には、まず千葉・大原の鮑が登場した。適度に弾力のある歯ごたえと、驚くほどミルキーな味わいに、三井さんの仕入れに対する強いこだわりが滲み出ているようで、こちらの背筋が思わずすっと伸びた。
出汁は、鮑を蒸したときに出た水分。素材の旨みを生かし切った一皿だ
また、秋刀魚も素晴らしかった。秋刀魚の身をいったん開いて骨を外し、丁寧に掃除したワタを詰め直して焼いた一品で、口に運ぶと皮の香ばしさに続き、ジューシーな旨みが爆発的に広がった。
秋刀魚は北海道・根室産。火入れの塩梅が見事だ
後半には、三井さんの面目躍如たるにぎりが登場。流線形の端正なフォルムに思わず見惚れ、一瞬、口に運ぶのがためらわれた。
唸らされたのがマグロである。ミツカンの白菊を使った酢飯とよく合う。今は赤酢のシャリが全盛だが、【鮨 祥】においてはネタそのものの味が力強いからこそ、きりっとしたシャリがはまるのだ。
マグロの仕入れ先は豊洲の「やま幸」
三井さんのにぎりは口当たりが実にいい。ネタの状態を見極め、シャリとのバランスを調整している。だから、何貫でも食べられるような気がしてしまうのだ。鮨好きとしてはたまらない。
酢で〆た春子鯛のにぎり
眼福に値する貴重な器の数々
【鮨 祥】で味わえるのは口福だけではない。オーナーである【豪龍久保】の久保氏が蒐集した器も魅力の一つである。たとえば握りを乗せる皿は、北大路魯山人の晩年の作。迫力と気品が、三井さんのにぎりを引き立てている。
魯山人が長年にわたって作陶した「葉皿」。一皿ひと皿で趣きが異なり、味わい深い
素材で勝負する鮨に、ごまかしは効かない。ひとつひとつの仕事をいかに丁寧にやれるかが、愛される鮨店となれるか否かがわかれるところだろう。それで言うと、【鮨 祥】は前者。また来たいと思わせる理由がある。
店があるのは地下1階。カウンター6席のみのこぢんまりとした雰囲気が隠れ家と呼ぶにふさわしい
なお、営業は18時~と20時45分~の2回転。三井さんの実直な仕事ぶりを間近にできる幸せ者は、1回6名だ。
撮影/岡本裕介 取材/甘利美緒
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