蟹料理の名店「きた福」の新たな展開は “蟹と鮨の饗宴” |東京・新富町【新富 きた福】
日本料理店【久丹】や鮨【はしもと】など、ミシュランの星付きレストランが点在する新富町界隈。この知る人ぞ知る美食スポットに、また一つ、注目の一軒が誕生した。2023年の2月にオープンした活けかに料理店【新富 きた福】がそれ。そう、あの予約が取れない人気店【きた福】の赤坂、銀座に続く3軒目だ。
東京メトロ有楽町線「新富町駅」から徒歩4分、東京メトロ日比谷線・JR京葉線「八丁堀駅」徒歩7分のところにある【新冨 きた福】
だが、この店、これまでの店舗とは少しだけ様相が異なっている。前記の2軒がお座敷やテーブル席でのパフォーマンスだったのに対し、新富町店はカウンタースタイル。しかも、ここでしか食べられないスペシャルメニューがあるというのだ。もちろん、扱う蟹のグレードも全く変わらない。が、コースで繰り広げられる蟹料理の要所要所に、江戸前の握り鮨が提供されると聞けば、期待も高まろうといものだろう。
檜のカウンターは、蛇の目寿司時代からのものを、表面だけ削ってそのまま残している
“蟹と鮨の饗宴”という夢のようなコースでゲストをもてなすのは、料理長の橋本孝さん、和食と鮨の二刀流で腕を磨いてきたベテランだ。
埼玉県出身の橋本さんが鮨職人を目指したのは、野球少年だった小学生の時。「カウンターで鮨を握っている職人さんがかっこよくて。」がその理由。厳しい環境に身を置きたいと常々考えていたこともあり、高校卒業後、18歳で迷わず寿司屋に入門。丸の内の【寿し屋の勘八】で3年の修業後、渋谷で110年続く老舗【亀井鮨】(現在は閉店)で7年間研鑽を積み、その後、和食を学ぶべく一路京都へ。3年間みっちりと腕を磨いた後、地元埼玉で独立を果たした。
料理長の橋本孝さん、50歳。【すし屋の勘六】で鍛えた如才ない応対がゲストの心をグッと掴む
橋本さん曰く「『毘沙門屋』の名で、お鮨も出す京料理屋仕立ての創作和食店を営んでいた。」そうだが、13年間続けた46歳の時、古巣の【勘八】から声がかかった。「手伝って欲しい。」との依頼に、恩返しの思いもあって再び【勘八】の板場に立つことにした橋本さん。そうこうするうち、縁あって、同店の料理長を任されることになったというわけだ。
「もともと、この場所は、助六寿司発祥の店として知られる「蛇の目鮨」の跡地なんです。で、最初は、オーナーの阿部光峰(みつほ)さんと何か面白い鮨屋をやろうということで意気投合した」橋本さんだったが、研修を兼ねて赤坂や銀座の【きた福】で蟹を扱ううち、専門店ならではの活け蟹へのアプローチや料理の面白さに惹かれていったのだとか。
【新富 きた福】は、鮨と蟹を出す新しいスタイル
当初は、鮨の合間に蟹を出すコースを想定していたそうだが「結局、蟹を全面に押し出した方がインパクトもあり、よりお客様にも喜んでもらえるのでは?」ということで話がまとまり、蟹の合間に鮨を出すコース運びに舵を切り換えた次第。
通年食べられる毛蟹とタラバ蟹を基本に、シーズンには松葉蟹や黄金蟹(松葉蟹と紅ずわい蟹の間に生まれた蟹)もラインナップ。いずれも活けの蟹のみを使用。お客の目の前で捌くスタイルはこれまでと変わらないとはいえ、カウンター前ともなるとより距離感が縮まるからだろうか、臨場感もひとしお。加えて橋本さんの人を逸さぬ語り口も、ハレの場をグッと盛り上げてくれる。
『セイコ蟹の醤油漬け』。内子、外子、身と3つの味を一緒に味わえる。ちなみにセイコ蟹とは、ズワイ蟹のメスのこと
取材日、コースは、『うすい豆の擦り流し』から始まった。続くカンジャンケジャン風の『セイコ蟹の醤油漬け』等で胃袋をウォーミングアップしたところで、お凌ぎ代わりに出されるのが、中トロ、大トロの鮪2貫。鮪は、あのカリスマ鮪仲卸「やま幸」から仕入れている天然本鮪、この日は山口県で上がった149Kgの大物だ。しっとりとした身の艶やかさが上質な脂ののりを感じさせる。赤酢の酢飯との相性も上々だ。
山口県で上がった149Kgの天然本鮪
『中トロ』
『大トロ』
そして、いよいよ真打ち登場。活けの毛蟹が運ばれてきた。「今日の毛蟹は1kgアップ。400~500gが一般的な大きさですから実に2倍以上。甘みが全然違いますよ。」そう言いつつ、蟹を捌き始めた橋本料理長。胴体から脚を取り外し、脚の部分はそれぞれに料理法を変え、異なるおいしさを楽しませようという趣向だ。
繊細な食感の中、みずみずしい甘みが印象的なお刺身、続くしゃぶしゃぶでは、レア、ミディアムレア、ウェルダンと火入れ加減の違いで微妙に変わる旨みの深さを舌で感じさせてくれる。穴子の押し鮨で一息ついた後は、炭火焼きの蟹がお目見え。芳ばしい香りが加わることで、蟹の甘みにより立体感が加わるようだ。
1kgアップの毛蟹を、1人一杯で食べ切る幸せをぜひ
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『刺身』はさっと湯通しして冷水で冷やす
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『しゃぶしゃぶ』は、レア、ミディアムレア、ウェルダンと3段階で楽しめる
焼けていくほどに殻の香ばしい香りが漂う蟹の『炭火焼き』
そして、一番太い脚の部分は天ぷらで提供。サクサクの衣に包まれた蟹脚を口にするや、蟹の風味が鼻に心地よく抜けていく。一方、繊維の食感が脚と異なる蟹つめは、蟹味噌と共に手巻きにするなど、まさに千姿万態の味わいで最後まで舌を飽きさせない。対して胴体の方はシンプルにボイル。丁寧にほぐされた蟹身を蟹味噌と一緒に頂けば、ただそれだけで充分。何もつけずとも、蟹本来の旨みをストレートに味わえる。これこそ、上質の蟹だからこその美味であり、また、敢えてそのままで出す潔さに蟹の質の高さが伺えよう。
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『天ぷら』
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『手巻き』
甲羅の身は綺麗にほぐして蟹味噌と共に頂く趣向。呑兵衛なら、日本酒を少し垂らしても
だが、まだ、ここで終わりではない。蟹と鮪のハイブリッドコースの〆がまた、圧巻だ。土鍋で炊くご飯は、北海道の夢ピリカ。ツヤツヤと炊き上がった白飯に宝石のようなイクラをたっぷりとよそってくれるのだ。ご飯が隠れるほどのイクラには、思わず歓声が上がるに違いない。
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『穴子の押し鮨』は、茹でから焼きに変わる時の口やすめ的なタイミングで供される。押し鮨は季節ですしダネが変わる
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珍しい『蟹の心臓』を食べられるのも、蟹料理専門店ならでは
最後の食事は、土鍋で炊き立てのご飯に好きなだけ?自家製いくらをトッピングしてくれる。こちらもテンション上がりそう
蟹のフルコースに合わせ、アルコール類も充実。ワインのほか、日本酒では、新政が豊富に揃い(1合1,540円~)、新政5種を飲み比べられる“新政ペアリング”8,800円もある。
日本酒は新政が充実。その内容は時々で変わるそうだが、常時5~6種の新政銘柄を用意。No.6の最上級モデルのエックスタイプ、見えざるピンクのユニコーンなどのレアな一品も味わえる新政ペアリング(8,000円)もある
撮影/佐藤顕子 取材・文/森脇慶子
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