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更新日:2024.02.07旅グルメ

静岡市で味わう「江戸時代から続く海と山のぜいたく」。静岡おでんも、実は徳川家康にゆかりがあった⁉

静岡県静岡市は、マグロや桜えびといった海産物に加え、わさびや自然薯といった山の恵みも豊かです。しかもそれらは、近代以前から静岡市に根付いていた食文化であり、静岡市を訪れると、食を通じて伝統を味わうことができるのです。徳川家康や松尾芭蕉が愛した食が、静岡市にはある。

静岡市で味わう「江戸時代から続く海と山のぜいたく」。静岡おでんも、実は徳川家康にゆかりがあった⁉

屈指の冷凍マグロの水揚げ量と、駿河湾でしか食べられない生の桜えび

静岡県は冷凍マグロの水揚げ量が日本一。中でも、静岡市にある清水港は、日本で食べられるマグロの約半数を水揚げしていることをご存じでしょうか? 港のすぐ近くにマイナス60~70℃の冷凍倉庫があるため、清水港から各地に運輸される――ということは、裏を返せば、清水港では鮮度抜群のマグロを、輸送コストがかからないためリーズナブルに食べることができるということ。

清水港に隣接する「清水魚市場 河岸の市」では、マグロの女王と呼ばれる「ミナミマグロ」をはじめ、「メバチマグロ」、「キハダマグロ」、「ビンナガ(ビンチョウ)マグロ」といったさまざまなマグロを味わうことができます。

    『まぐろトロ三昧定食』1,980円。マグロをたくさん食べたい!という人におすすめ

    『まぐろトロ三昧定食』1,980円。マグロをたくさん食べたい!という人におすすめ

【ととすけ】の『まぐろトロ三昧定食』は、ビンチョウマグロ、バチマグロ、本マグロ、さらには、マグロのカマ(「ととすけ揚げ」)がセットになったボリューム満点の定食です。あらためてマグロを食べ比べると、トロっとした本マグロ、脂の乗ったビンチョウマグロ、ねっとりとした食感がクセになるバチマグロという具合に、異なる食感が分かるはず。

また、1本のマグロから2つしか取れないカマを丸ごと揚げて、秘伝の甘辛タレでひたした創業からの人気メニュー『ととすけ揚げ』は、皮はパリパリ、身はフワフワのオリジナルのカマ揚げ。豪快に手でかぶりついて、がぶっと食べてみてください。

    『生桜えび』880円、『生しらず』880円。「ハーフサイズで」とお願いすれば、写真のように2点盛りのハーフにすることも可能

    『生桜えび』880円、『生しらず』880円。「ハーフサイズで」とお願いすれば、写真のように2点盛りのハーフにすることも可能

静岡市に来たら忘れてはいけないのが、桜えびです。桜えびは、世界的にも希少な生物として知られ、世界中でも駿河湾と台湾でしか獲ることができません。しかも、「生」で味わえるのは、ここ静岡市だけ。【ととすけ】でも、「生桜えび」を堪能できるのですが、毎日あるわけではありません。

桜えび漁は、資源管理と継続的漁業の両立を実現するため、春漁(3月下旬~6月初旬)と秋漁(10月下旬~12月下旬)の年二回しか行われません。もし、お店に立ち寄って生桜えびがあるなら、とてもラッキーなこと。シャッキとしながらも、甘く口の中でとろける美味しさは、正真正銘、静岡市だけでしか食べることのできない唯一無二の味です。

【ととすけ】

  • 電話:054-368-7364
    住所:静岡県静岡市清水区島崎町149番地
    「清水魚市場 河岸の市」内2F

家康が愛したわさび、芭蕉が詠んだとろろ汁

静岡県といえば、多くの人がわさびを思い浮かべるのではないでしょうか。わさびは、鎌倉時代には食用化されていたと言われていますが、本格的に栽培が始まったのは、今から400年前の慶長年間(1596~1615年)だと伝えられています。

駿府(静岡市)に隠居していた徳川家康に、有東木(現在の静岡市葵区有東木)の庄屋がわさびを献上したところ、家康が絶賛。以後、家康のお声掛かりによって有東木のわさびは、門外不出の御法度品になったといいます。「どうする?」ならぬ、「そうする!」と家康が号令を掛けたことで栽培されるにいたった、天下人が愛した逸品なのです。

    【造りの山葵】では、本わさびを自分で擦って楽しむことができる

    【造りの山葵】では、本わさびを自分で擦って楽しむことができる

【造りの山葵(つくりのわさび)】は、わさび漬けのトップブランド「田丸屋本店」が経営する、わさびと創作料理のお店です。一品料理をアラカルトで選ぶのもよいですが、季節の料理とわさびを堪能できる『葵会席(AOI) 』(6,600円)と、『特選寿司会席』(7,700円~)もおすすめです。

両コースに含まれる『旬のお造り五点盛り』は、どれから食べるか迷ってしまうほど。この日は、ナミマグロのトロ、カツオ、サワラ、タチウオ、金目鯛――。また、黒毛和牛炙り焼きなどの肉料理も、わさびの美味しさを感じられる一品です。わさびは、空気と触れ合うことで風味と香りが出るため、優しくこするとよりおいしさを感じられます。大根おろしを作るように、強い力でガリガリとこすると、風味も香りも出づらくなるため注意が必要です。

  • 『旬のお造り五点盛り』。『葵会席(AOI) 』では、この他に『前菜(四季のくず豆腐)』、『季節の揚げ物』、『蒸し物(季節の茶碗蒸し)』などが楽しめる

    『旬のお造り五点盛り』。『葵会席(AOI) 』では、この他に『前菜(四季のくず豆腐)』、『季節の揚げ物』、『蒸し物(季節の茶碗蒸し)』などが楽しめる

  • この日の肉料理は、『和牛の炙り焼き』。わさびとの相性は言わずもがな抜群です。

    この日の肉料理は、『和牛の炙り焼き』。わさびとの相性は言わずもがな抜群です。

【造りの山葵】

  • 電話:054-273-0031
    住所:静岡県静岡市葵区紺屋町5-2

わさびの影に隠れがちですが、実は静岡市は自然薯も名産です。山芋とは、自然薯、長芋、大和芋の総称を意味しますが、日本原産の山芋は自然薯だけ。そのため、自然薯は古くから日本人に親しまれた野菜です。とりわけ、東海道五十三次の20番目の宿場町・丸子宿(まりこしゅく)の『とろろ汁』は、かの松尾芭蕉の俳句「梅若菜 丸子の宿の とろろ汁」にも登場する歴史ある一品。

「当店は、1596年(慶長元年)に創業しました。芭蕉だけではなく、十返舎一九の小説『東海道中膝栗毛』や、歌川広重の浮世絵『東海道五十三次』にも登場しています」。

そう話すのは、【とろろ汁の丁子屋】14代目店主・柴山広行さん。丸子のとろろ汁は、スタミナがつく料理として旅人から人気を博していたため、江戸時代の名だたる文化人も愛食したのだという。

    写真でも伝わるだろう粘り気と弾力性。

    写真でも伝わるだろう粘り気と弾力性。

【とろろ汁の丁子屋】では、地元の農家と提携することで、年間14トンの自然薯を扱っています。毎月、1トン以上の自然薯が消費されることからも、昔も今も同店の自然薯を求めて多くのお客さんが来店することがわかると思います。日曜日ともなると、平均500杯ほど注文が入るそう。

「最初は何もせず、そのままとろろをかけてお召し上がりください。二口目は納豆と同じで空気を含ませてよくかき混ぜ、さらにおそばのように音を立ててすするように食べてみてください。まったく味が変わることが分かると思います」(柴山さん)

人目を気にせず、ズズっとかき込むように食べること。きっと芭蕉も広重も、そう食べていたはず。

    とろろ汁、麦めし、味噌汁、香物、薬味がつく【とろろ汁の丁子屋】の定番メニュー『丸子』(1,630円)

    とろろ汁、麦めし、味噌汁、香物、薬味がつく【とろろ汁の丁子屋】の定番メニュー『丸子』(1,630円)

自然薯には、ビタミンやミネラルなどの栄養価が豊富に含まれています。ただでさえ美味しいのに、何だか得した気分になる。

【とろろ汁の丁子屋】は、おろし金の機械ですりおろすと、その後は、職人さんが一つひとつの自然薯を人力で擦っていくそう。下味としてマグロの煮汁、生たまご、醤油を加え、カツオだしの自家製白みそで伸ばしていくことで、もっちりとしたとろろ汁が完成するという。

この食感と味に魅了される人が後を絶たないからこそ、「400年以上続いたと言いたい」と柴山さんは顔をほころばせる。外観、内観の雰囲気も旅情をかき立てます。

【とろろ汁の丁子屋】

  • 電話:054-258-1066
    住所:静岡県静岡市駿河区丸子7丁目-10-10

「静岡おでん」はフードロス対策の先駆けだった!

旅の最後を締めくくるのに相応しい食べ物が、静岡市にはあります。「静岡おでん」です。「なんとなく聞いたことがある」とは思うのですが、普通のおでんと何が違うのか、いまいちよく分からないという人は、多いのではないでしょうか?

「静岡おでん」は、真っ黒スープに黒はんぺんなどが入り、ダシ粉をかけて食べるおでん。黒さの秘密は、だしに牛すじが使われ、さらに濃口しょう油を使うため真っ黒なスープになるのだそう。

おでん種も特徴的です。いわしなどをすり身にした黒はんぺんに加え、スケソウダラのすり身のしらやき、油揚げを開いて野菜、豆腐、かまぼこなどを入れた篠田巻(しのだまき)、なると巻、すじぼこ……という具合に練り物が目立ちます。

    モツや練り物など、見慣れないおでん種を楽しむのが「静岡おでん」。ダシ粉をかけて食べる

    モツや練り物など、見慣れないおでん種を楽しむのが「静岡おでん」。ダシ粉をかけて食べる

真っ黒スープゆえ、しょっぱいと思われがちですが、実際に食べてみると驚くほどにマイルド。しかも、ダシ粉やからしで味変できる優れものです。それにしても、どうしてこのような独自のおでんが誕生したのか。静岡おでんコンシェルジュの大石正則さんが説明します。

「ルーツは、大正時代までさかのぼるのですが、当時は野菜の煮込みでした。戦後になり、廃棄処分されていた牛すじや豚モツを捨てずに、材料として煮込んだことが始まりとされています。静岡市の SDGs の始まりです。また、静岡市の近くには、沼津や由比など練り製品の産地があったため、黒はんぺんなどが使われるようになりました」

今風に言えば、「静岡おでん」はフードロスをなくすために生まれた、超効率的な食文化というわけです。

「戦後は、市役所前の青葉通りに片側に28台、計56台の屋台が並んでいたという記録があります。その近隣まで含めると、約250台の屋台が存在していたといいます」(大石さん)

    「静岡おでん」の象徴的エリアが、「青葉横丁」と、通りを挟んで向かい合う「青葉おでん街」だ(写真提供:静岡市)

    「静岡おでん」の象徴的エリアが、「青葉横丁」と、通りを挟んで向かい合う「青葉おでん街」だ(写真提供:静岡市)

現在も静岡市内には、「静岡おでん」を提供する店舗が1000店舗以上(駄菓子屋系150店舗、居酒屋系850店舗)あります。しかし、ノスタルジックな雰囲気に触れたいなら、「青葉横丁」と「青葉おでん街」で決まりです。

「もともと静岡おでんは、静岡県内の富士川と大井川間にだけ存在する食文化でした。今は、沼津にも浜松にも静岡おでんのお店が増え、静岡県を代表する食べ物になりましたが、オリジナルは静岡県の中部地方。中でも、「青葉横丁」と「青葉おでん街」は聖地です。静岡県の中部地域限定だった「静岡おでん」が、今や東京に50店舗以上、大阪に 30 店舗以上、名古屋に20店舗以上あり、仙台や群馬にも店舗があります。このほか、バンコクやシンガポールにも店舗ができています」(大石さん)

静岡の地酒である「開運」(土井酒造)や「萩錦」(萩錦酒造)などを合わせれば、至福の夜を過ごせるはず。大石さんによれば、人気種は「フワ」(牛の肺)、「黒はんぺん」、「卵」、「牛すじ」、「大根」だそう。

「だしをシンプルに味わいたいなら、こんにゃくがおすすめ。といっても、何を食べても美味しい。私もいまだに迷うほどです(笑)。気になる種を食べてみてください」(大石さん)

    店舗によって、種も違えば、スープの黒さも異なる。はしごをして、食べ比べるのも面白い

    店舗によって、種も違えば、スープの黒さも異なる。はしごをして、食べ比べるのも面白い

「青葉横丁」

  • 電話:054-221-1438(静岡市観光・MICE推進課)
    住所:静岡県静岡市葵区常磐町1-8-7

静岡市には、江戸時代から続く食のカルチャーがたくさん残っています。

あるとき、地元の漁師が、「いわしを有効活用できないか」と徳川家康に懇願したそうです。家康は、いわしを長持ちさせる方法を、料理人のはんべえに相談したといいます。そして誕生したのが、「黒はんぺん」だと言われています。

魚もわさびも自然薯もおでんも、長い年月をかけて静岡市で育まれてきた食文化です。静岡市に行ったら、ぜひ五感で味わい尽くしてください。

この記事を作った人

取材・文/我妻 弘崇

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