都内最高峰のイタリアンで計10年研鑽を積んだシェフによる、自家製パスタが自慢の【commedia(コンメディア)】
【カーザヴィニタリア】をはじめ、【アロマフレスカ】グループで計10年間厨房に立ったシェフ、山口大輔さんによる自家製パスタが自慢のイタリア料理店。2023年、新たなスタートを迎えた【commedia】に込められた想いや、食べた人を“お腹の底から幸せにする料理”とは!?
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イタリア語で“喜劇”の意味をもつ店名【commedia(コンメディア)】とは!?
【アロマフレスカ】グループで計10年間研鑽を積んだシェフ
小麦粉と卵黄だけで作る手打ちパスタは、自信の表れ
イタリア語で“喜劇”の意味をもつ店名【commedia(コンメディア)】とは!?
東京の緑豊かな下町、木場。緑道沿いの小路を一つ曲がると、白壁の小さなイタリア料理店が現れる
「喜劇を楽しむような感覚でお客さまに料理を楽しんでもらいたい」という想いから、イタリア語で“喜劇”の意を店名に冠した【commedia(コンメディア)】。【アロマフレスカ】グループで計10年間研鑽を積んだシェフの山口大輔さんが6席のカウンターを即興の舞台に、目の前でライブ感ある料理を繰り広げていきます。
一人で訪れるお客さんも多いとのこと。シェフとの距離感も気兼ねなく過ごしやすい
山口さんの料理が常に進化を続け、観客であるお客さまを飽きさせない理由は、料理人としての高い技術に加え、飽くなき探究心ゆえ。
「お客さまがカウンターに座られた時に、最高の状態で仕上げられるよう、パスタなら薄さを数ミリ単位で変えたり、小麦粉の配合を変えたり、同じお肉でも焼く温度や時間を少しずつ変えてみたりと、日々ブラッシュアップを心がけています」
明るいお人柄の山口さんとの楽しい会話も魅力のひとつ
そんな、自他ともに認める“凝り性”は10代の頃から。高校卒業後にバックパッカーとしてアジアを巡り、自転車で北海道や九州を一周していたという山口さん。
「九州へ入る前の山口県で『食事がおいしいと評判のユースホステルがある』と聞き、大雨のなかたどり着いて食べたハンバーグが、すごくおいしかったんです。悪天候のなかずっと自転車を走らせてきたこともあり、本当に幸せな気持ちになって……。その時に『料理人は、人を幸せにできる仕事なのかもしれない』と感じたのが、料理人を目指したきっかけです。食べる瞬間まで料理人という選択肢は全くなかったんですが、その後の九州一周はずっと料理のことばかり考えるようになって(笑)、『もう自分のやるべきことは決まったんだ、帰ろう』と東京に戻って、料理の道へ進みました」
山口さんのモットーは、1万時間突き詰めることでその道のプロになれるという「1万時間の法則」
【アロマフレスカ】黄金期に、前菜とメインの2部門を担当
山口さんが20歳で料理人を目指した当時、東京は第二次イタリア料理ブーム真っ只中。代官山や三軒茶屋の有名イタリアンでの修行を経て、2006年から1年間、イタリアのピエモンテ州とマルケ州で料理を学び、2007年に帰国後【アロマフレスカ】に入社します。
「ちょうど原田シェフと笹川シェフ(現【ボッテガ】)の2トップがキッチンにいらした時代で、口コミサイトでも【アロマフレスカ】と【カーザヴィニタリア】が1位と2位を独占していた黄金期。僕は『前菜とメインを両方担当して』と言われて(笑)、体力的には本当に大変でしたが、1人で2つの部門を仕込みからやらざるを得ない状況が、日々の成長に繋がったんだと思います。メンタル的にも鍛えられて、“失敗”というワードは、諦めてしまったら失敗になるんですが、諦めないで何度も何度も結果が出るまでやれば失敗は起こらない、ということも学びました(笑)」
『米沢牛のトリッパとイタリア産グリーンピースの煮込み』
この日の前菜は、春仕様にアレンジされた『米沢牛のトリッパとイタリア産グリーンピースの煮込み』。別茹でにした小さな豆の食感がプチプチと軽やかで、トリッパとの相性の良さに意表をつかれます。
「一般的なトリッパは臭みをとるためにニンニクを多用しますが、米沢牛のトリッパは全く臭みがないので、野菜とトリッパのスープをとるイメージで3時間半煮込みます。濾しただしを戻し、さらに鶏のブロードと合わせ、オーブンで香ばしく煮詰めるようにキャラメリゼすることでコクを出し、時間差でギアラを投入して旨みを重ねています」
生産者の熱量に惹かれて、熊本まで直接に会いに行ったと言う山口さん。サシの少ない赤身肉は、休みなく裏返し、熱を丁寧にあてていきます
メインは、赤身が中心の黒毛和牛「菊池源吾牛」。熊本県菊池市でアマニ成分を配合して作られる、10年連続「特A」受賞のブランド米「七城米」を与えることで、オメガ3をたっぷり含んだ黒毛和牛に育つそう。
「日本の畜産業界では一般的に、高値で売れるようサシの多いA5ランクの黒毛和牛を育てようとしがちですが、サシを増やすために穀物ばかり与えて牛の健康を損ねていたり、味わい的にもサシが多いほどいいと言う時代でもありませんよね。特にうちでは厚切りでお出しするため、自分でも納得がいく赤身肉主体の黒毛和牛を探していました。『菊池源吾牛』の生産者である「菊池ユートピアファーム」増永さんは、牛の排出物を堆肥にし、その堆肥を使用し無農薬製法で収穫した稲や籾殻やお米をまた食べさせて、循環型畜産農業を実現しているんです」
『菊池源吾牛のフィレの炭火焼き』
シェフの手に触れた部分からとろけていくほど融点が低い菊池源吾牛。ナイフを入れた瞬間に感じられる柔らかさと、クリアな甘みのある味わいがポイントです。付け合わせは、全国の信頼できる生産者さんから直接仕入れる「野菜のちから」の旬の野菜をロースト。
小麦粉と卵黄だけで作る手打ちパスタは、自信の表れ
山口さんの“凝り性”はパスタにも表れる。日替わりでタリオリーニ、ピチ、オレキエッテ……とさまざまな手打ちパスタが登場
【commedia】で提供されるのは、前菜5~6品とパスタ2品、メイン1品、デザート1品の9~10品で構成される、おまかせコース(15,000円・サービス料なし)のみ。なかでも山口さんの手腕がもっとも光るのが、オープン直前に使う分だけを伸ばすという手打ちパスタです。
本日のパスタは、イタリアの小麦粉・00粉(ゼロゼロ粉)と卵黄だけで打ったという、タヤリン。グルテンで固めないためモチモチ感はなく、歯切れの良さが特徴
「厳密に言うと、00粉(ゼロゼロ粉)に卵黄とそこに付着するわずかな卵白、少量の塩とこねる時に必要なオリーブオイルだけなので、打ち立ての麺はふわふわ。卵黄が濃い卵だと麺の味わいを邪魔してしまうので、極力自然農法で作られる黄身がレモン色の卵を使用して、小麦粉の甘さに寄り添うようにしています」
『手打ちパスタ“タヤリン” 鶏のブロードとバターとわずかなチーズ』
タヤリンを味わうためのパスタは、鶏のブロードと茹で汁、バターを少しずつ合わせたソースに、少量のチーズのみと、極めてシンプルな一皿。ふんわりとしたパスタの広がりや余韻まで感じられます。
ワインは「自分の料理と相性が良いか」を基準にセレクト。ペアリング(5杯8,000円、3杯5,000円)も用意
よりシンプルに、より素材を生かすための調理に邁進する山口さん。
「東京には器用なシェフがたくさんいますし、手の込んだ料理はどこでも食べられると思うんです。僕は器用なほうではないし、“自分にしかできない料理”もあるんじゃないかと思っていて、例えば仕事帰りにいらしたお客さまが、難しいことは全て忘れて、食事した帰りにはすごく元気になって下さったり、食べて『これ何が入っているんだろう』と考える必要もないほど単純に『あぁ、おいしい』と感じられる料理を作っていきたいですね」
山口さんが料理人を目指したきっかけにも通ずる、“人を幸せにする料理”。時間や手間を惜しまず、素材に真っ直ぐ向き合うからこそ、その先にある食べ手の腑にもストンと響く味わいが生まれているのではないでしょうか。
撮影/佐藤顕子 取材・文/藤井存希
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