新宿ゴールデン街日記 Vol.1 ~プロローグ~
新宿ゴールデン街にレモンサワー専門店【THE OPEN BOOK】をオープンした田中開さん。
この街をこよなく愛した、呑兵衛作家・田中小実昌氏の孫でもある彼は、ここで新しい文化のハブとなるのだろうか。
街には個性があり、色がある、と僕は思う。
新宿には色がない。ない、というか、色が分からない。
最近では、どこも似たような商業施設やチェーン店が並び、違いなんてないかもしれない。でも、やっぱり、恵比寿や中目黒なんて街は、オシャレなパステルカラーが似合いそうで、根津やら浅草は、緑や茶といった落ち着いた色味を、僕は感じる。
新宿、ときくと、果たしてその色は何なのかと思う。西口は、ビルが並ぶ、オフィス街。でも、北にいくと、大久保のコリアンタウンや東南アジア系の人達がひしめいて、スーツ姿が珍しくなる。四谷のほうに向かえば、御苑をはじめに落ち着いた店も多い。2丁目のゲイバーやゴールデン街といった、「濃い」人たちが集まるスポットもある。だから、色が分からない。あえて言うなら、絵の具をごちゃまぜにした混沌とした色だろうか。でも、だから、面白いと思う。とくに横丁や酒場に行けば、「何か」予測できないものに出会えるんじゃないか、そんな雰囲気がある。
いわゆる現代は、情報化社会で、望む情報はなんでも手に入るけれど、それは自分が”望んだ”からであって、たいていの場合は、自分が何を望んでいるかなんて分からない。今の社会は、普通に生きていると何でも手に入るようで、じつは何も手に入れてない、そう感じる。だから、ランダムな出会いは、価値がある。それが、酔っ払いのオジさんに朝まで説教されたとか、会いたかったあの人の横で飲めたとか、なんて選べないんだけれども。ネットを介したコミュニケーションが主流だけども、やっぱり実際に人が集まる場所には、エネルギーというか熱気がある。じゃあ、そこから、何が生まれるんだと言われれば、具体的な答えに詰まる、でも何かありそうな気がする。
そんな混沌の代表格として取り上げられるゴールデン街で、祖父は1970年代から散々飲み歩いていて、その縁もあって、ぼくは店を開いた。
そんなゴールデン街の景色を観測した日記をこれからつづっていきます。
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立っているのは、佐木隆三(右)と田中小実昌(左)。カウンターは、右から安達曈子、野坂昭如、熊谷幸吉。オールスターだ
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【THE OPEN BOOK】の内観。本が数千冊並ぶ
田中 開 プロフィール
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タナカ カイ
1991年東京都出身。早稲田大学基幹理工学部卒業、現在は同大学院に在籍中。祖父はゴールデン街をこよなく愛する、直木賞作家の田中小実昌氏。その縁もあり、この街にレモンサワー専門店【THE OPEN BOOK】をオープンする。
田中開