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更新日:2017.11.10グルメラボ 連載

あるカクテルを巡る歴史と妄想的考察

19世紀のアメリカ西部に誕生したバー文化と、その後花開いた色とりどりのカクテル誕生の歴史をヒモ解き、酒のつまみになりそうな、因果と応報にまみれた意外な歴史のエピソードに思いを巡らせてみる

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カクテル誕生の意外な歴史にみる作用と反作用

その名は『スクリュードライバー』

 つい最近のこと、都内にあるヒーロー戦隊モノ好きが集う老舗のオタクバーに取材で訪れる機会に恵まれた。
 そこは店内の棚に仮面ライダー1号・2号そしてマジンガーZさらにはウルトラマンといった、昭和の変身ヒーローものや合体ロボのフィギュア、そしてアイテムがところ狭しと陳列されている場所で、まるでコレクターの隠し部屋にお邪魔しているような気分を味わえる希有なスポットなのである。
 そこで撮影用にと、何か色の映えるカクテルということで「スクリュードライバー」を作ってもらうことになった。

    仮面ライダーのグラスで頂くスクリュードライバーは格別。

 かねがねカクテルの名前ってのは後ろに“パンチ”や“キック”をつけると、戦隊ものやヒーローの技の名前っぽくなるし、プロレスの必殺技ならそのままでもいけると思っていたのだが、特にこの『スクリュードライバー』は格別だ。いかにも腕なり身体なりをひねりながらパンチやキックを相手に見舞うヒーローや、リングポストの上からきりもみしながらジャンプするレスラーを想起することができる。
 ウォッカ3に対してオレンジジュースを5の割合で作る一般にも良く知られた、この中口(ちゅうくち)味のカクテルにはチーズやソーセージなどの塩味のあるものが良く合う。
 しかしこの『スクリュードライバー』、日本語に直訳すると「ねじ回し」や「ドライバー」などと無粋な名前となる。なんで「ねじ回し」なのか? その名前の由来を辿っていくと、意外な歴史のエピソードに辿り着くのだ。

    カクテルの名前は変身ヒーローの技の名前のようである

イランで誕生した『スクリュードライバー』

 時は1953年。イランでは「ハンマド・レザー・シャー」が起こした『イランクーデター』により王政復古の名の下に、英米の傀儡政権(パーレビ王朝)が誕生し、文化破戒ともいえる急激な欧米化(白色革命)が進んでいった。
 そして石油利権はアメリカを中心とした国際石油資本に、1979年の「イラン・イスラム革命」でイランが国有化するまで牛耳られることになるのだった。
 そのため当時は多くの石油関連のアメリカ人技術者がイランに渡っており(約3万人)、そんな中から生まれたのがこの「スクリュードライバー」(ウォッカ45ml・オレンジジュース75ml)なのである。

 石油プラントで日夜働くアメリカ人労働者がある日、現場でウオッカをオレンジジュースで割ろうと思ったが、手元にマドラーが無いので近くにあるドライバーを使ってみたというのが始まりだった。なんともアメリカ人らしいお話である。
 ちなみに1955年にアメリカが介入したあの『ベトナム戦争』の戦地では、このオレンジジュースが「バヤリースオレンジ」となり(それも沖縄製)、アメリカ軍の整備兵が同じくドライバーで攪拌したという話が伝わっており、その時から『スクリュードライバー』で使うオレンジジュースは「バヤリースオレンジ」が正式なのだという都市伝説めいた話を聞いたこともあるが、果たして真偽のほどは判らない。

    スクリュードライバーのつまみにはウインナーが合う

ウォッカベースのカクテルたち

 さて、この『スクリュードライバー』のオレンジジュースの替わりに、トマトジュースを使うと、二日酔いに効くと言われている迎え酒カクテル『ブラッディ・メアリー』(ウォッカ45ml・無塩トマトジュース130ml)となり、リンゴジュースなら『ウォッカ・アップル・ジュース』(ウォッカ40ml・アップルジュース適量)となる。

 ついでにいうなら、旧日本軍の特別攻撃隊の名前である“神風”から命名された、その名も『カミカゼ』(旧レシピは、ウォッカ45ml・ライムジュース15ml・キュラソー小さじ1杯)なんてのもある。これなどは戦争中の敵である日本軍の攻撃隊の名前を付けているのだが、こうやって厭な歴史も誇らしい歴史も全てをカクテルにして飲み干すという、アメリカ文化の貪欲さというか、バイタリティーをみる思いだ。日本人の感覚からすれば「なんでやねん!」なんて突っ込みも入れたくなるというものである。
 最近はこのカクテルも、簡単なものなら居酒屋でも普通に頂くことができるが、本格的にグラスを傾けようと思えばやはり、落ち着いた「バー」のカウンターに限るのかもしれない。

    日本人なら塩味の利いたえだまめも欠かせない

バー発祥の国アメリカ

 ちなみにこの「バー(bar)」はアメリカ発祥である。19世紀の西部開拓時代のアメリカの宿場町には、ヨーロッパからの移民達が集う「サルーン」と呼ばれた酒場があった。そこには酒樽が並べられ、その場で量り売りして飲むことができたのだが、度々この樽から直接盗み酒をする輩がでるようになってから、その対策として各店で樽と客との間に一本の横棒で仕切を作るようになりその横棒(bar)が名前の由来であり、バーテンダー(bar tender)はその酒樽と杭にロープでつないでいる馬を見張り、そして客の世話をするというガードマンと店員を一緒にしたような役割があるのだとか。

 バー(bar)といえばカウンターで立ち飲みスタイルを思い浮かべるが、この横棒(bar)にグラスをちょっと置くうちに、進化してカウンターになっていったのかもしれない。
 時は流れて20世紀、1919年にそんなワイルドなアメリカの酔っぱらいを震撼させる法律が施行される。酒の醸造、販売、輸送を禁止した悪名高き『禁酒法』である。
 江戸元禄期に第5代将軍徳川綱吉によって制定されたあらゆる殺生を禁止した『生類哀れみの令』ぐらいに極端で無茶な法律だが、結果この法律によって、失職したアメリカのバーテンダー達は職を求めてヨーロッパを始め世界中に散っていくことになり、それによりアメリカのバー(bar)文化が世界に広がっていくという皮肉な結果となるのである。年号の覚え方としては、“バーテンダー世界にイクイク(1919)禁酒法”がオススメだ。

    チーズとの相性もバツグン。スーパーで売られるチーズ盛り合わせ

『禁酒法』で誕生したケネディー大統領

 とは言え「禁酒法」はその後のアメリカの歴史を大きく動かす原動力となっていった。法律が失効する1933年に大統領に選出した『第32代大統領フランクリン・ルーズベルト』(1933年~1945年)の選挙資金の支援者だったのが、当時事業家であり民主党の政治家『ジョセフ・P・ケネディ』だった。
 彼はいまでは認められないインサイダー的株式投資などで財を成したといわれる人物だが、そのルーズベルトの息子と一緒にジンとスコッチの輸入会社をタイミング良く? 設立すると酒の解禁に合わせて紀伊國屋文左右衛門(※1)みたいにまんまと大儲けし、その後のケネディー家の興隆を確かなものとしている。後に自分の息子である『ジョン・F・ケネディ』は第35代アメリカ大統領となっている。これもまた「なんでやねん!」的アメリカなのである。

「命の水」それはウォッカ

 さて、『スクリュードライバー』のベースであるウォッカはロシアの国民酒とも言われるお酒である。
 無色透明で無味無臭であり、冷やせば冷やすほど独特な旨味を増していくから、カクテルに無くてはならないお酒といわれている。
 名前の由来は「生命の水」を意味するロシア語の「ズイズネニャ・ウォダ」の愛称である「ウォダ」が転じて「ウォッカ」と呼ばれるようになったためとか。

    1864年ロシアで誕生したロシア皇帝御用達のウオッカ。ロシア革命で欧米に広がり、様々なカクテルを誕生させている。3回蒸留と10回ろ過をした無色透明なクリアな味が特徴。アルコール度数は40度

 元々は12世紀後半から16世紀半ばに農民たちにより造られていたまさに地酒だった。当初はライ麦ビールやその他の醸造酒を蒸留して造っていたというが、現在ではもっぱら麦やジャガイモ、トウモロコシなどの穀物類が原材料である。
 19世紀に入ると、一回だけの蒸留の「単式蒸留器方式」から何回も蒸留する機械式の「連続式蒸留機方式」となり、さらに白樺炭でのろ過をするようになって、綺麗で澄んだ臭味の無い微かな香味を持つウォッカの原型が誕生している。
 このウォッカが世界に広まったのは1917年に起こった『ロシア革命』がきっかけといわれている。多くの亡命者が世界中にウォッカの醸造レシピと供に命がけで散っていったわけである。まさに色んな意味で「命の水」だったのだ。
 酒には醸造する文化と飲酒の文化がある。そしてその背景には必ず何かしら国家や戦争などに翻弄された人の歴史が潜んでいる。
 時にそんな悠久の歴史に思いを馳せながら、グラスを傾けることはそんな人類の“命”を頂く贅沢な行いなのである。

※1紀伊國屋 文左衛門(きのくにや ぶんざえもん)
江戸時代、元禄期の商人で、大豊作で大暴落した紀州蜜柑を買い占めて品薄で高騰する江戸へ運んで大儲けしたり、木材を買い占めて大火事後の江戸でこれまた大儲けした伝説の豪商。

ライター薬師寺十瑛の食べ物考察

この記事を作った人

取材・文/薬師寺十瑛

オヤジ系週刊誌と月刊誌を中心に請われるまま居酒屋、散歩坂、インスタント袋麺、介護福祉、住宅、パワースポット・グラビア編集・芸能そしてちょっと霞ヶ関と節操無く取材・編集・インタビューに携わる日々を送る。現在、脳が多幸を感じる食事や言葉に注目中。

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