紅葉が眩しい季節。山と畑の幸を使った、車浮代の「江戸の変わり飯」レシピ三品
時代小説家で江戸料理・文化研究家の車浮代さんに、現代人が忘れてしまった江戸の素朴で豊かな食事情を教えていただく第五弾。食欲の秋にお薦めしたい、旬の食材を使ったご飯物のレシピ三品をご紹介します。ごゆるりとお愉しみくださいませ。
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栗の香りと甘味を引き出すシンプルな『栗飯』
かぼちゃと小豆の『なんきん粥』
きのこを主体にした『骨董飯(ごもくめし)』
深まる秋にお勧めの「変わり飯」三品をご紹介
朝晩の急な冷え込みに、体調を崩しやすいこの季節。
寒気がしたなと思ったら、すぐに身体を温める飲み物や食べ物をお腹に入れ、風邪を撃退しましょう。
根菜、木の実、きのこは身体を温める陽の食べ物です。
今回はこれらの食材を使った、江戸ご飯三品をご紹介致します。
『栗飯』(三人前)
栗の香りと甘味を引き出すよう、塩と酒だけでシンプルに炊いたご飯です。
■材料(三人前)
・むき栗…150g
・米…2合
・水…適量
・塩…小さじ1/2
・酒…大さじ1
・摺り胡麻…少々
■作り方
1)炊飯器に洗米、分量の水、酒、塩、むき栗を入れ、30分程度置いてから炊く。
2)ざっくりと混ぜて蒸らし、摺り胡麻をかけていただく。
栗は、数少ない日本原産種の一種です。
縄文時代から人工栽培が行われた跡が残っており、ドングリやくるみなどの木の実と共に、縄文人の主食とされていました。
後に農耕が行われるようになってからも、栗は非常食として欠かせないもので、奈良時代に書かれた『日本書紀』や、日本最古の薬物辞典である『本草和名』、平安の頃に書かれた『延喜式』などにも、飢饉の備えとして栗を栽培するよう促した文面が残っています。
非常食になるということは兵糧にもうってつけで、栗を皮ごと天日干しにして臼で搗ち割り、実だけを集めた「搗ち栗」は、「勝ち栗」に通じる縁起の良さからも、戦には欠かせない一品になりました。
戦の前の出陣式と、戦勝を祝う凱旋式には『三献の儀』という儀式が行われますが、この時に欠かせないのが「打ち鮑」と「搗ち栗」と「昆布」です。
「敵を打ち、勝ち、喜ぶ」という語呂合わせで、まずは三宝にこれら三種を乗せ、出陣の場合は先に打ち鮑を口に入れ、盃の酒を三度に分けて飲み干します。
勝ち栗と昆布も、同様にそれぞれ口に入れて、三度に分けて盃を飲み干します。
こうして三杯の酒を空けると、盃を振りかぶって庭に叩きつけて割り、軍扇を広げて大将が「エイエイ!」と声を上げると、一同が「オー!」と勝鬨の声を上げげるのが習わしでした。
凱旋の場合は、「搗ち栗」「打ち鮑」「昆布」の順に儀式が変わります。
これは、「敵に勝って、家に帰って、喜ぶ」となるからです。
『なんきん粥』
かぼちゃだけで炊いたものもありますが、小豆を入れた方が彩りも良く、味にアクセントがつきます。
■材料(二人前)
・かぼちゃ…100g
・米…1/2カップ
・水…500ml
・小豆…20g
・水…300ml
・塩…少々
■作り方
1)かぼちゃは種とわたを取ってまだらに剥き、1cm角に切る。小豆は水洗いし、水とともに鍋に入れ、最初は強火、煮立ったら中火にし、30分煮る。差し水をしながら柔らかくなるまで煮る。
2)鍋に水と洗った米を入れ、混ぜながら強火で炊く。ふきあがったら塩と1を入れ、再びふき上がってきたら中火にし、灰汁を取りながら30分程度炊く。
3)1を加えてさらに5分炊いたら火を止め、蓋をして蒸らす。
かぼちゃの語源は「カンボジア」です。
原産国は中南米なのですが、かぼちゃの種を運んで来たポルトガルの船が、カンボジアを経由したことから、カンボジアが訛って「かぼちゃ」と呼ばれるようになりました。
他にも、江戸時代のかぼちゃの呼び名はさまざまです。
天保4 (1833) 年刊行の『万家至宝(ばんけしほう)都鄙安逸伝(とひあんいつでん)』に、「かぼちゃは江戸では唐茄子、京都ではかぼちゃ、西方ではほうぶらという」とあります。
それぞれ、「唐茄子」はこの頃のかぼちゃが茄子のようにくびれた形をしていたからで、「ほうぶら」とはポルトガル語のかぼちゃ 「abóbora (アボボラ)」から来ています。
「なんきん」と呼んだのは主に大坂で、『好色一代男』や『世間胸算用』で有名な、大坂の井原西鶴の『浮世草紙』に、「とかく女の好むもの 芝居 浄瑠璃 芋 蛸 南瓜(なんきん)」と言う一節があります。
ちなみに現在の日本では、「かぼちゃ=パンプキン」と訳されますが、パンプキンはハロウィンで出回るオレンジ色のかぼちゃのみを指し、我々が普段食べている、皮が緑色のかぼちゃは「スクワッシュ」と言わないと、外国人には通じません。
また、江戸時代中期から、かぼちゃは冬至の日に欠かせない野菜でした。
野菜不足になる冬場、夏に収穫して冬場まで保存でき、栄養価が高い南瓜は、風邪や中風の予防に良いとされ、「冬至冬中冬初め」と言われるこの日に、かぼちゃや小豆粥を食べて、柚子湯に入ることで、人々は無病息災を祈りました。
『骨董飯(ごもくめし)』(『名飯部類』より)
骨董には「いろいろなものの寄せ集め」という意味があり、ご飯に複数品の具材を乗せ、出汁をかけたものを全般に「ごもく飯」と呼びます。
今回は、きのこを主体にしたごもく飯をご紹介します。
■材料(二杯分)
・えのき茸…1株
・なめこ…1/2株
・芹…4株
・温かいご飯…2杯分
・鰹出汁…300ml
・醤油…小さじ1.5
・塩…少々
・七味唐辛子…少々
■作り方
1)えのきとなめこは、傘の部分から1cmほどの長さに切り、サッと熱湯にくぐらせ、水気を切る(軸の部分は煮物や汁物等にご利用ください)。芹も1cm幅に切る。
2)鰹出汁を温め、醤油と塩で味を整える。
3)温かいご飯に1を盛りつけ、2を茶碗の淵からそっと注いで、七味唐辛子を振る。
享和2(1802)年に大坂の医家・杉野権兵衛が書いた『名飯部類(めいはんぶるい)』には、約150品もの変わりご飯のレシピが掲載されています。
中でも最も多いのは「汁かけ飯」の類いで、その中に「骨董飯」がいくつか含まれています。
数種類の具材を使う「ごもく飯」に、「骨董飯」という漢字を当ててあるのは本書のみで、江戸時代に出版された他の料理本は、全て「ごもく飯」と表記されています。
そもそも「骨董飯」は中国の表記で、永楽13(1415)年に刊行された『性理大全』という本に、「魚や肉など、色々なものを飯に混ぜ込んだものを骨董飯という」と書かれています。
『名飯部類』の作者は医家なので、中国の書などを読み込んでおり、この漢字を採用したものと思われます。
ところが、『性理大全』の解説を読むと、これは「汁かけ飯」ではなく「混ぜご飯」のようです。
現在では「五目飯」というと数種の具材を入れた「炊き込み飯」のことを指しますので、調理方法が変わっていていることがわかります。
今回の具材に使ったえのき茸となめこは、どちらも江戸時代には天然ものしかなく、高価な茸でした。
えのき茸の人工栽培が可能になったのは明治になってからで、本来のえのき茸は傘が大きく、茶色がかっていて、歯ごたえもありました。
昭和初期には、現在私たちが知る乳白色のえのき茸が大量に出回るようになりました。
近年見かける「ブラウンえのき」は、原種との掛け合わせにより誕生したものです。
また、なめこは「滑子」と書き、表面がゼラチン質のぬるぬるしたもので覆われている茸全般をそう呼んでいました。
現在のなめこは「ツツエ」と呼ばれていた種類で、大正時代後半から人工栽培が始まったと言われています。
取材・文/車浮代
時代小説家/江戸料理・文化研究家。著書に『江戸の食卓に学ぶ』『江戸おかず12ヵ月のレシピ』『今すぐつくれる江戸小鉢レシピ』、ベストセラーとなった『春画入門』『蔦重の教え』など多数。TV・ラジオ、講演等で活躍中。国際浮世絵学会会員。http://kurumaukiyo.com
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