生産者、観光客、地域の三方よしを実現する新銘菓「バターのいとこ」fromおいしいニッポン物語
ふわっ、シャリッ、とろっ。1つで3つの食感をたのしませてくれる栃木県・那須の新銘菓「バターのいとこ」が人気を集め、品薄の状態が続いている。なぜ、このような新発想のスイーツが生まれたのだろう。誕生の経緯を探ろうとして生産現場を訪ねると、思いのほか奥深いストーリーが見えてきた――。
地域の酪農家の“良質なクラフトバターをつくりたい”という思いから生まれたお菓子
とろりとしたミルクジャムの甘さが魅力の「バターのいとこ」
栃木県の北部にある那須郡那須町は、100近くの牧場がある酪農が盛んな地域。クルマを走らせれば、青々と輝く牧草地や、整然と並ぶ牧草ロールが視界に入り、この県が本州一の生乳生産量を誇るということを認識させられる。
まず向かったのは、「バターのいとこ」に欠かせないスキムミルクを供給する【森林ノ牧場】。その名の通り森林を活かした酪農を営む牧場で、起伏のある土地には茶色い毛並みのジャージー牛が放牧されている。日本で飼育される乳牛のほとんどが白黒斑紋のホルスタイン種であることを考えれば、とても貴重な眺めだ。
代表の山川将弘さんに案内されて牧場の中に足を踏み入れると、我々の姿を見つけた牛が無邪気にじゃれてきた。
「可愛いでしょう?」。山川さんが目を細めて言った。「ジャージー牛は人懐こくて愛嬌がある。ミルクもおいしい。脂肪分が高くて、こっくり甘いんです。これでつくった発酵バターは最高ですね」
山川将弘さん。東京農業大学畜産学科を卒業後、岩手県・中洞牧場を経て、アミタ株式会社が立ち上げた京都府丹後の【森林ノ牧場】へ。2年後、那須の【森林ノ牧場】へ異動し、2011年1月、自らが代表に
山川さんの口から「バター」というキーワードが出たので、今回の取材の本題である人気の新銘菓「バターのいとこ」が生まれたきっかけを訊ねてみた。すると、彼はすぐそばにいた一頭を撫でながら言った。
「実を言うと、『バターのいとこ』は、おいしいバターをつくるために編み出した策なんです。というのも、バターのことを知れば知るほど、小ロットで製造することの難しさを痛感し、スキムミルクを活用しないとことには、バターづくりは不可能だと認識するに至りまして……」
山川さんの発言が意味しているのはこういうことだ。
バターは牛乳から約5%しかできないとても貴重なもの。言い換えれば、牛乳の90%以上がスキムミルクとなる。それに加えて、バター製造にはものすごく手間がかかる。余談になるが、現在放送中のNHK連続テレビ小説「なつぞら」には、まさにそうしたくだりがあった。
【森林ノ牧場】のカフェ。牛乳やヨーグルト、プリンが購入できるほか、ランチやソフトクリームが楽しめる。一般の方にも【森林ノ牧場】の見学を行っている
「バターのいとこ」3枚入り 700円。栃木だと【Chus】や【バターのいとこ】で購入できる
もし、それでもクラフトバターに挑むなら、何をすべきか――。山川さんの言葉どおり、バターづくりの過程で出るスキムミルクに新しい価値を与えることかもしれない。スキムミルクは、通常、脱脂粉乳に加工されるが、小ロットでの加工は現実的ではなく、小規模な酪農家がそれを実行するには無理が生じる。だから、スキムミルクを活用する別の手として「バターのいとこ」が生まれたのだ。
「『バターのいとこ』が流通すれば、小ロットでもバターがつくれるようになる。そうしたら、【森林ノ牧場】以外の酪農家のバターづくりも請け負えます。バターは売りやすく、保存も効くので、もし委託加工が叶えば、六次産業化に踏み出したことにもなる。『バターのいとこ』は酪農の多様化に向けた一歩なのです」。
【森林ノ牧場】では8ヘクタールのところに30頭が暮らしている。牛たちはみんな元気でおてんば。かりん、リーリ、まんてん。それぞれが愛らしい名前で呼ばれている
もし、それでもクラフトバターに挑むなら、何をすべきか――。山川さんの言葉どおり、バターづくりの過程で出るスキムミルクに新しい価値を与えることかもしれない。スキムミルクは、通常、脱脂粉乳に加工されるが、小ロットでの加工は現実的ではなく、小規模な酪農家がそれを実行するには無理が生じる。だから、スキムミルクを活用する別の手として「バターのいとこ」が生まれたのだ。
「『バターのいとこ』が流通すれば、小ロットでもバターがつくれるようになる。そうしたら、【森林ノ牧場】以外の酪農家のバターづくりも請け負えます。バターは売りやすく、保存も効くので、もし委託加工が叶えば、六次産業化に踏み出したことにもなる。『バターのいとこ』は酪農の多様化に向けた一歩なのです」。
おいしいだけでは終わらない「バターのいとこ」は、日本の酪農を変えようとしている。
写真/木村文吾 取材・文/甘利美緒
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