おいしいガストロノミーの新機軸「ご馳走ヴィーガン」レストランに注目
近年、ヴィーガン料理がにわかに注目されている。ヴィーガン料理といっても、あじけないサラダや焼いた野菜などではない。創意工夫溢れ、見た目も美しく、驚くほどにおいしい”ご馳走”ヴィーガン料理を出すお店が増えているのだ。体にも地球にも優しい新しいジャンルとしてこれからますます注目のヴィーガン。厳格なヴィーガンじゃない人でも食べたくなる、「ご馳走ヴィーガン」に出合える人気店に取材した。
そもそもヴィーガンとは?
ヴィーガンとは、「完全採食主義者」のこと。ベジタリアンとは違い、卵や牛乳、はちみつ、ゼラチンなど動物の体を通った食べ物は一切口にしない。徹底したヴィーガンは、衣服も植物繊維のものしか身につけない。最近は、牛肉の消費による二酸化炭素問題など地球環境を考えてヴィーガンになるケースも。
*完全ヴィーガンではなく、たまにヴィーガン食を実践している人は「フレキシタリアン」と呼ぶ。
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東京・北青山【The burn】
京都・四条烏丸【京料理 木乃婦】
東京・銀座【ファロ】
東京・丸の内【サンス・エ・サヴール】
東京・有楽町【礼華 四君子草】
東京・北青山【The Burn (ザ バーン)】
誰もが食べたくなる〝おいしい〟ヴィーガン料理に出合える”ご馳走ヴィーガン”に出合える店として筆頭にあげたいのがこちら。シェフ・米澤文雄さんが2019年末に出版した『ヴィーガン・レシピ 』 は1カ月で重版となり、この度3刷りが決定したという人気ぶり。この反響には本人も驚いたそう 。
「料理人でなく、一般の人が多く購入してくれています。思想的なヴィーガンでない人も気軽にヴィーガンを選ぶという流れは来ていますよ」と話す。
『車麩のビンダルー』車麩は煮ても味が出ないので、味を含ませて揚げることでコクを出す。
米澤さんは1年8カ月前、【The Burn】シェフ就任時には、すでにヴィーガン料理をオンメニュー。そこには、すべての人が食卓を分け隔てなく囲める店にしたいという思いがあった。「ヴィーガンを用意するのは最大公約数でどんなお客さまにも対応できるから。ヴィーガン対応のものであっても、誰もが〝食べたい〞と思う魅力的な料理にするのは大前提です。そうすればアラカルトでも注文が入り、ロスにならない。無意識に注文した料理がすべてヴィーガンだったお客さまもいらっしゃいました。」
米澤さんのヴィーガン料理は、見た目も美しく、また食べたくなる魅力がある。その発想はどこまでも自由だ。例えば、『車麩のビンダルー』は、「車麩の見た目って豚バラ肉に似ているな」と思って生まれた料理だという。
『焼きなすのカルパッチョ』発想は和食の焼きなす。素材それぞれがバランスよく一体化する。
「僕が N.Y. で働いていた【ジャン・ジョルジュ】はお客さまのリクエストにその場で対応することが多かった。鍛えられましたね」と語る米澤さん。ジャンルを超えた食材を駆使し、アイデアと技術でおいしい料理をつくる【ジャン・ジョルジュ】で学んだスタイルは、食材の制限があるヴーガンでさえも軽々とその壁を乗り越えてゆく。
「現代人の胃は確実に疲れている。そうしたニーズにもヴィーガン料理はフィットすると思いますよ」
東京都出身。恵比寿【イル・ポッカローネ】で修業後、N.Y.ミシュラン三つ星店【Jean‐Georges】で日本人初のスーシェフに。2018年秋、【The Burn】の料理長に就任。
撮影/佐藤顕子 取材・文/山路美佐
京都・四条烏丸【京料理 木乃婦】
淡麗な旨みと食材の滋味を余さず料理に盛り込むことさらにヴィーガンとは謳っていないが、ベジタリアンにもヴィーガンにも対応できるのが精進料理だ。
ただし、ここ【京料理 木乃婦】 の精進料理は、鎌倉時代に渡来した仏教由来のものとは手法や食材わせが随分違うと、三代目主人高橋拓児さんは言う。「仏教の精進料理は殺生をしないことや食を余さず食すことなど心の部分が重要。料理屋はそこにおいしさを加味しなければなりません」そこで肝心なのが、料理ごとに使い分ける昆布や乾物のだしなのだとか。
『精進八寸』赤飯は小豆を5時間煮詰めただしで炊いた。
【木乃婦】では、吸い地には上品な利尻昆布を、焚き物には真昆布と、抽出温度や時間も含め使い分ける。「和食にもテクノロジーの進化は必須です。手法や食材の合わせ方を考え抜くことに、料理屋が精進料理をつくる意味があります。」と高橋さん。
『ホワイトアスパラガスのすり流し椀』初夏のホワイトアスパラガスをすり流しに。
たとえば、今回お椀に使ったホワイトアスパラはアスパラギン酸が豊富な旨みのある食材だから、そのフレーバーを残すために淡麗な利尻昆布を使う。さらに昆布の香ばしさに同調食材させるためアスパラを少し焼いて添え、胡麻でコクを加える。
「美味探しに疲れる時代です。高級食材を重ねるだけが美食ではないと考えるとき、知恵や工夫つまり教養で旨みをつくる精進料理は新たな味を発見できるものになるでしょう」【木乃婦】の精進料理は、単に宗教や嗜好に添ったものではなく、食べることで食への考え方が変わるものなのかもしれない。
その真偽は食べてみることで実感できるのだろう。
大学卒業後、【東京吉兆】で修業後、80年続く料理屋【木乃婦】の三代目主人に。理論的な技術を駆使する日本料理やおいしさの研究に取り組む。京大大学院農学研究科修士課程修了。
撮影/伊藤 信 取材・文/中井シノブ
東京・銀座【ファロ】
ヴィーガン= 食事制限ではない 料理のひとつのジャンルである「ヴィーガン」とは動物性食品を口にしないことであり、一般的にはとかく〝制限〞の側面が注目されがちだが、それに対してレストラン【ファロ】の能田耕太郎シェフは自らの食体験から持論を展開する。
「あるときローマでローヴィーガンを食べる機会を得ましてね。僕自身は肉も魚も食べる人間なので、普通の料理の方が美味しいに決まっているとなめてかかったんです。 でも、それが驚くほどおいしかった。そこで目覚めました。ヴィーガンとガストロノミーは単にジャンルが違うだけ。おいしさを追求することにおいてはなんら変わりがないのだと」
『しろいし蓮根のラビオリ』ラビオリの生地にはタピオカ粉を練り込んでもっちりした食感を出した。
能田シェフは食材の乏しいデンマークでの修業経験を生かしつつ、メニューにヴィーガンのコースを掲げた。
料理を仕立てるうえで配慮するのは「お客さまの満足感をいかにして高めるか」。そのキーワードは「旨み」と「油」。食材の使い方や調理の仕方を工夫することで淡泊になりがちなヴィーガン料理に旨みをもたらし、油分を補うために上質な植物性オイルを活用する。そうして完成した料理は驚きと楽しさに満ちた〝ヴィーガン・ガストロノミー〞と呼べるもの。「制限」ではなく「可能性」を感じさせる食の新機軸なのだ。
『グリーンアスパラガスアーモンドソースと文旦』アスパラガスのもともとの甘味を感じさせる仕上がりに。
1999年に渡伊。2011年に【ヴィテルボ】で、'17年に【 Bistrot64】でミシュラン一つ星を得。'18年10月【ファロ】のリニューアルを機にエグゼクティブシェフに。
【ファロ】
住所:東京都中央区銀座8-3-3
東京銀座資生堂ビル10F
電話:0120-862-150
撮影/久間昌史 取材・文/甘利美緒
東京・丸の内【サンス・エ・サヴール】
旬の野菜を主役に味や温度にメリハリをつけて構成数年前からメニューにガストロノミーのヴィーガンを登場させているのが、南仏・モンペリエにある名店【ル・ジャルダン・デ・サンス】の日本店シェフの鴨田猛さん。「ヴィーガン料理でもラグジュアリーなものを提供したい」と話す。
『王リンギ茸のグリエ、豆乳とセップ茸のブイヨンと根セロリのパイユ』黒米料理はヴィーガンメニューのスペシャリテ。
旬のおいしい野菜をふんだんに五味、食感、温度、香りのコントラストを使い、構成するのが鴨田流。「ボリューム感やコクが欲しいときは油と穀物の力を借ります。油分は苦味のある野菜をマイルドにする効果もあります。柑橘やハーブは料理に奥行きを与えてくれます。」
『ひよこ豆と落花生のフムス、アボカドとスティックセニョールのテンプラフリット』アプリコットのクーリのフレッシュな酸味もポイント。
ジャンルを超えた食材を試し、経験上ピタリとハマれば切り干し大根なども使う。「旨味を加えようと昆布のだしも試したのですが、昆布のだしはフレンチにはしっくりこない。色々と試してみて、切り干し大根のだしは色々な料理にすっと馴染み、深みも出るので気に入っています。」
ガストロノミーのこだわりは盛り付けにも。細部まで神経をとがらせ、ご馳走感を出し、訪れるゲストを魅了している。
国内で修業を重ねたのちフランス、ベルギーで3年間働く。2003年に帰国後、【サンス・エ・サヴール】スーシェフに。2012年料理長となり、現在に至る。
取材・文/山路美佐
東京・有楽町【礼華 四君子草(しくんしそう)】
野菜やきのこの力を生かし調味料でコクを出す〝インカのめざめ〞でつくられたフカヒレに、本物そっくりなきのこの饅頭などなど。見た目もさることながら深みのある味わいはヴィーガンならずとも食指が動く。「通常なら動物性の旨みから取るコクを補うために、きのこ類や黒糖をもちいて味に奥行きを出しています」とは「営養薬膳師」の資格を持つ料理長木村旭さん。
『ヴィーガンフカヒレ』フカヒレの質感が出るよう、タピオカ粉をまぶす工夫を。
チャイニーズを掲げる同店だけに、地味になりがちなヴィーガン料理も実に彩り豊かにかつ、味わい深く楽しませてくれる。先のフカヒレにしてもソースに精進オイスターソースと黒糖をつかいコクを。きのこ饅頭も干し椎茸を加え春キャベツやたけのこなど野菜のみで仕上げたとは思えぬ味わいの豊かさ。新鮮な無農薬野菜も旨みに一役買っている。
『きのことたけのこのお饅頭』中にたけのこが入ったきのこを模した饅頭。いずれもヴィーガンコース9,000円~。
1977年生まれ。東京出身。【筑紫樓】、「東京ドームホテル」で修業後、【礼華】に入店。【礼華 新宿御苑】の料理長を経て2018年【礼華 四君子草】の料理長に。
【礼華 四君子草(しくんしそう)】
住所:〒100-0006東京都千代田区有楽町1-1-2東京ミッドタウン日比谷 3F
TEL: 03-6273-3327
撮影/佐藤顕子 取材・文/森脇慶子
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