時代の感覚をほどよくミックスしながら、クラシックフレンチの良さを伝える |経堂【Coctura(コクトゥーラ)】
2021年11月にオープンしたばかりですが、シェフの田中俊資さんはフランス料理歴25年のベテラン。ソースが味の決め手となるクラシックな料理を得意とする本格派ながらも、ほどよくモダンと融合した華ある一皿で楽しませてくれます。経堂駅から少し歩いたところにある、一軒家のこぢんまりとしたお店ですが、TPOに合わせて1階カウンターと地下のダイニングで使い分けも可能。畏まらず、気取らず、フレンチの楽しさや魅力を伝える【Coctura(コクトゥーラ)】に早速行ってみました。
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レトロな商店街の中にある瀟洒な一軒家レストラン
日本の季節感を盛り込みながら、フランスの食文化の真髄を伝える
見た目や仕掛けに頼らない、成熟度の高いフレンチ
レトロな商店街の中にある瀟洒な一軒家レストラン
ベージュにオリーブ色のテントが映える、暖かみのある佇まい
小田急線「経堂駅」から歩くこと約10分。マップでお店を確認したときには「ちょっと歩くかも……」と思うかもしれません。でも、駅前からお店まで続くすずらん通り商店街のレトロな風情に心が和み、気がつけばお店の前に。新築の一軒家の1階は厨房とカウンター5席、地下はテーブル席のダイニングになっています。
1階のカウンター席。シェフと会話を交わしつつパテほか前菜をつまみつつワインというカジュアルな使い方もできる
田中シェフは、駒沢で【オー・ボナクイユ】というお店を14年間営んでいました。ビルの老朽化に伴い移転することになり、常連客が比較的訪れやすい場所として経堂を選んだそうです。「今までの店は厨房が別だったので、次に作るときはカウンター席も欲しいと思っていたんですよね」とシェフ。場所柄、ふらりと立ち寄り、軽く飲んで食べるということができるお店は重宝されるに違いありません。
地下のダイニングは、シェフのお料理同様、クラシカルな良さを大切にしたインテリア
地下のダイニングは、前のお店から大切に使っていたというアンティーク家具や、深紅のビロードのカーテンなどが優美な雰囲気を醸し、一気に本格フレンチの世界へ引き込まれます。最近の新しいお店は、シンプルモダンな北欧スタイルが主流になっているだけに、クラシカルな雰囲気はかえって新鮮に感じられます。とはいえ、「あまり重々しいとお客様を緊張させてしまうので、テーブルセッティングにはガラスを使うなど、モダンに寄せてあまり重々しくならないようバランスをとっています」と田中シェフ。
ガラスのショープレートを使ったテーブルセッティングで、華やかさを軽やかに演出
日本の季節感を盛り込みながら、フランスの食文化の真髄を伝える
お料理は、ランチは5,500円の1コース、ディナーは7,700円と11,000円の2つのコースが用意されています。「食材、特に野菜や魚は旬を意識して日本の季節感も大事にしていきたいと思っています」と田中シェフ。一皿目のアミューズは、栗のお菓子のような可愛い一皿が運ばれてきました。食べてみると、豚肉のリエット! 栗の形に成型して表面をポルト酒でコーティングしたそうです。
「季節感はもちろん、可愛い!と感じてもらうなど笑顔を誘うようなアミューズで緊張感をほぐしたいと思っています」(田中シェフ)
続く前菜の一皿目もまた、一瞬「ケーキ?」と驚かされます。チョコレートのように見えるのは、バルサミコ酢を煮詰めてゼラチンを加えたジュレ。その下に軽く燻製にした秋刀魚とフォアグラを飴色に炒めた玉ねぎでつないで層にしているのです。フォアグラを軽やかに、しかも日本の季節感も交えての表現。見た目も味もグランメゾンに負けずとも劣ることはありません。
『秋刀魚とフォアグラのオペラ仕立て』(11,000円のコースの一品)
メインの1品目、お魚料理は小麦粉をつけてバターで香ばしく焼いたヒラメのムニエル。フランス料理の定番料理ですから、ソースでお店の個性を表現することになります。そこで、田中シェフは、軽やかながらも旨みやコクがでるように、アサリのだしを煮詰めた“ジュ”をベースに生クリームを加えてまろやかに仕立てたエマルジョンソースに加え、春菊の泡をトッピングして季節感を添えています。また、ヒラメの下にはプリッと大粒の小麦とマッシュルームを使ったリゾットを敷き、食感のアクセントとして楽しませてくれるのです。
『平目のムニエル 浅利のエマルジョンソースと春菊の泡』(11,000円のコースの一品)
メインの2品目、お肉料理は、 フォアグラを挟んだ牛タン下のロールキャベツです。お皿の色、艶やかなソース、トリュフなど、見た目も香りもまさに秋! 気分がさらに上がります。
ワインは、ワインをこよなく愛する田中シェフが自ら飲んでおいしかったものをオンリスト
赤ワインや香味野菜で数日マリネしてからフォン・ド・ボーで煮込んでおいしさを増した牛タン。煮詰めた煮汁にお肉を焼いた脂を合わせるなど、 手間暇かけたソースは田中シェフの得意とするところ。香り高く味わい深く、誰もが本能でおいしいと感じることができるクラシックの良さを改めて教えてくれる一品です。
『牛タン下とフォアグラのシューファルシ』牛タンの中に香ばしく焼いたフォアグラが
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デザートには柿、梨、シャインマスカット、いちじくなど旬のフルーツをチェリーのリキュール・マラスキーノでマリネした『秋のマチェドニア』。
見た目や仕掛けに頼らない、成熟度の高いフレンチ
手間暇かけて調理したいくつもの工程を重ねて一つの料理が完成するフランス料理。「その一つ一つの手間を大切にしたい」と田中シェフ
「店名の【Coctura(コクトゥーラ)】はラテン語で“調理”という意味なんです。“初心忘れるべからず”という思いでつけました」と話す田中シェフ。「フランス料理はソースが命ですから、これをやらなかったら文化を伝える、つまり僕が料理をしている意味がなくなってしまう。日本人である僕が日本料理を作るのなら自分なりの発想で変えていくことも時に許されるかもしれないけれど、他の国の料理をやっている以上、食文化としてフランスに脈々と伝えられていることをやらずしてフレンチレストランとは言えないですよね」。
低温でじっくり発酵させてから焼いている『ライ麦のカンパーニュ』。ソースをつけながら食べるのにちょうどいいやわらかさに焼き上げているとのこと
料理人に憧れ、大学を中退して21歳で料理の道に入った田中シェフ。専門学校を卒業後、渡仏してビストロや星付きレストランなどで古典をしっかり学び、帰国後、【ブノワ】のオープニングスタッフに。アラン・シャペルの薫陶を受け、ソースを作る部門“ソーシエ”を務めていました。ソースは料理の味の核となるのですから、ソーシエを任されるのは、技術はもちろん知識も深いトップレベルの料理人という証です。その実力を、ビストロほどくだけず、グランメゾンほど堅苦しくない空間で楽しませてくれます。空間も料理もバランスが良く、シェフの腕前だけでなく、知識や精神性の成熟度の高さも感じることができました。
一見寡黙そうに見えて、ジョークを交えたトークで会話が弾む明るい人柄の田中シェフ
「現代風の仕掛けのある料理や“映える”料理は苦手」と話していた田中シェフですが、アミューズからデザートまで香りよく、美しく、おいしいお皿の数々に「古さ」など微塵も感じませんでした。シェフの人柄に触れることができるカウンター席も魅力ですが、初めて訪れるならダイニングでシェフの世界観をしっかり堪能するのがおすすめです。
※メニューは取材当時の内容となります。変更がある場合がございますので、詳細は店舗までお問い合わせください。
この記事を作った人
撮影/佐藤顕子 取材・文/藤田実子
フード・ワイン・日本酒などのを生み出す人々の日々の仕事、思い、人生、哲学に興味を持ち雑誌・書籍などで取材を重ねている。執筆作品に『鮨 一幸のすべて』『鮨さいとう 鍛錬と挑戦』(ともにカドカワ)などあり。ライター歴30年。
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