コースの構成からペアリングまで、想定外の発想力に驚き! 気鋭のイノベーティブ鎌倉にあり|鎌倉【IZA】
2021年4月、コロナ禍にひっそりオープンした【IZA】。「お鮨屋さんのようにテンポ良く楽しんでもらいたい」と少量多皿、13~14品で構成されているコースと、世界各国のお酒を使ったペアリングの完成度の高さで食通の舌を虜にしています。食材はできるだけ地産地消、カトラリー、食器、家具などもジャパンメイドにこだわり「鎌倉から世界へ発信したい」と話すオーナーシェフ・芝先康一さんにその意気込みを伺いました。
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日本のクラフトマンシップを伝えるレストラン
一つの壮大なストーリーを13~14皿で堪能
抜群のペアリングセンス
日本のクラフトマンシップを伝えるレストラン
厚みのある一枚板のカウンターが映えるシンプルなインテリアの店内。座り心地のいい椅子、テーブルにセットされたカトラリーの素材や美しい形も印象的。席に着いた瞬間からただならぬこだわりを感じます。
親しみやすい色合いながらもどっしり感のあるベッリーウッドの一枚板のカウンターが心地よい時間を約束してくれる
「駅からは近いけれど、看板もないビルの2階を選んだのは、ここを目指してきて来てもらえる店にしたかったからです」と話す芝先シェフ。単にお腹を満たすレストランではなく、わざわざ行く価値があり、且つまた行きたくなる、つまり他では味わえない料理やサービスで大満足してもらう、ということを自身に課した覚悟ある開業だったのです。
扱いやすいフォルム、重さもほどほどで日本人の手に馴染むカトラリーは、東京都多摩市にある「ZIKICO」の製品。グラスも日本の吹きガラス
東京など関東圏の方や日本各地の旅行者だけでなく、コロナが収束すれば、外国人も多く訪れる鎌倉。「料理はもちろんですが、脇を固めるカトラリーや食器、家具などもジャパンメイドにこだわり、職人の手仕事による品質の高いものを選びました」と芝先シェフ。ジルコニア製のカトラリーは形の美しさ、持ちやすさだけでなく、金属臭が発生しないため、料理の味を邪魔することがない逸品です。
鳥が羽を伸ばして飛び立つ瞬間をイメージさせるフォルムで「バードチェア」と呼ばれる椅子。見た目は軽やかながら、座ると安定感があり、疲れにくい
一つの壮大なストーリーを13~14皿で堪能
小道具は完璧。そこで繰り広げられる料理は、13~14皿で一つのストーリーを完成させています。芝先シェフは「お鮨屋さんのように」と言いますが、一皿の中にさまざまな調理法、香り、食感、彩り、味わいがあり、緩急はあるものの同じようなテンションで供される力作のオンパレード。その発想力に驚かされます。
イタリアンをベースにしつつもジャンルを超えた発想力とセンスと技術でオリジナリティ溢れる料理を楽しませてくれる
さらに驚くべきは、2ヶ月に1回コースを一新すること。「変わらないのはフォカッチャだけ。レシピは全部捨てます。そうじゃないと先に進めないので」と芝先シェフ。クリエイション魂の塊というべき人物なのです。
2022年夏のコースのテーマは「僕の夏休み」。海、山、川、牧場など夏休みを過ごした場所を思い浮かべながら、季節の食材を使ってストーリーやレシピを考案していくそうです。
2022年の夏のコースの一品目として出されていた『鮎のタルト』。タルトの内容は変わるが、流木を加工した台は定番
1品目は、鮎を丸ごとコンフィにしたパテとタルト仕立て。一口サイズですが、柔らかな身質にワタの苦味も混ざり鮎らしさをしっかり味わいつつ、キャビアの塩気、胡瓜の瑞々しい食感と青い香り、シソよりも控えめな甘味と清涼感、マジョラムの風味……。頭の中は、谷間の清流の風景に!
『赤海老と白桃のマリネ』。白桃ヴィネガーでつくったゼリーシートで覆われ、まるでデザートのよう。レモン塩漬けが挟んであり、甘い、酸っぱい、しょっぱいのバランスも完璧
次は、現代アートのオブジェのような一品、『赤海老と白桃のマリネ』です。ディルとコリアンダーでマリネした赤海老は、甘味、旨味、ねっとり感が増すように塩揉みしたのち脱水シートで2日間水分を抜いているとのこと。白桃の高貴な甘味との相性が素晴らしく、想像を越える美味しさに驚くばかり。誰もが最初の2品ですっかり芝先ワールドの虜になってしまうでしょう。
実体験を伴なわず、コース料理を全ての解説を読むと情報過多になってしまうので、もうあと一品だけ、とてもユニークなお料理を紹介しましょう。コースの中盤で必ず「実況付きワンスプーン」というスタイルで出している一品です。
「僕の夏休み」がテーマだった夏のコースでは、牧場の景色をイメージした箱庭に『炙り馬肉のワンスプーン』をセット
一つのスプーンの中に盛り付けられた食材を咀嚼して口内調理をしながら味わうのですが、さまざまな風味や食感、味わいをシェフが実況してくれるというエンターテインメント性の高い一品です。
「お店を始めた当初は、最初に説明をしてから召し上がっていただいていたのですが、先に説明をするとネタバレ、あるいは忘れてしまうから咀嚼と同時に実況してくれないか?とお客様からの要望があって」と芝先シェフ。「最低20回は咀嚼してくださいね。では、口に入れてください」という合図と共に咀嚼を始めます。
熊本産馬肉のもも肉の炙り、ラルド、らっきょう、ゴルゴンゾーラチーズのシャーベット、砕いたアマレット(北イタリアのクッキー)、ピンクペッパー、ローズマリー、マリーゴールドなど、スプーンにのせる順番も計算されている
「アマレッティの軽いサクサク感のあとに、ゴルゴンゾーラの冷たさがきましたね。次にラルドの塩味、甘酸っぱいらっきょうの味とシャキシャキ感、そして今馬肉の弾力ある食感と甘味がきましたね。そして、最後にピンクペッパーが弾けて、ローズマリーと一緒にスーッと余韻が残ります」とアナウンサーのように流暢なシェフの実況と同時進行で言葉通りの食感や香り、味わいを体験することができるのです。これは楽しい! 次回はどんな実況ワンスプーンを体験できるの?と再来を心に誓うことになるのです。
少量とはいえ、満足度の高いお皿の数々。「一品、一品がパズルのピース。食べ終わって、一つのストーリーが完成するように構成しています」と芝先シェフ。
お酒も、ノンアルコールも抜群のペアリングセンスを楽しむ
そのストーリーの名脇役となるワインペアリングのセレクトはもちろん、ノンアルコールカクテルのペアリングも秀逸。料理だけでなく、ドリンクにもここまで手をかけているお店は少ないのでは。ゲストの満足度を高めるためのホスピタリティが細部に行き届いていることに感心します。
夏のノンアルコールカクテペアリングで出されていたフローズンレッドアイ(左)と胡瓜のペーストやミントを使ったモヒート(右)。7杯4,000円
合わせる料理とドリンクのカードも用意されている
ワインを中心に時に日本酒も供されるアルコールペアリングは7杯で9,000円。少なめの6,000円、ノンアルコールとミックスの5,500円もあり
食後にコーヒーを選ぶと、芝先シェフ自らがハンドドリップで淹れてくれます。でもその前に、食後酒の誘惑が棚にずらり。選びやすいように、ボトルの側に説明カードが添えてあるのも嬉しい心遣いです。
「メニューで字面だけ見て選ぶよりも、ボトルやエチケットを実際に見てジャケ買い的な選び方をするのも楽しいですよね」(芝先シェフ)
少量多皿のイノベーティブ・フュージョンや、食材や調理法の情報量が多いレストランが増えている昨今。もう珍しさだけで個性があるとか、唯一無二という評価はもらえません。なかなか厳しいジャンルを選びながら、看板を出さずとも口コミだけで顧客を着々と増やしているのは、やはり芝先シェフの天性の才能とそれを発揮するための努力の積み重ねがあってこそ。【IZA】での食体験は、イノベーティブ・フュージョンとは、シェフの引き出しの多さとコースの構成力が勝負どころということを実感することができるでしょう。
料理をつくることだけでなく、人をもてなすホスピタリティにも溢れる芝先シェフ
一斉スタートというスタイルでもなく、「おしゃべりを楽しみながら、ちょっとずつ美味しいもの食べて、呑んで、ゆっくりしてくださいね」とホスピタリティにも溢れる芝先シェフ。共に働くスタッフ2人も料理人です。3人全員が料理をしながらサービスも担当し、コース料理も日々のゲストの反応を見ながらマイナーチェンジを重ねているとのこと。「だから、2ヶ月間同じコースとはいえ、最初の方で食べた印象と、最後の方で食べた印象は変わるんです。その変化を楽しみたいと、2ヶ月の間に何回か足を運んでくださるお客様も少しずつ増えています」と芝先シェフ。まさに、「いざ鎌倉」なレストランです。
カウンターで料理ができあがるのを見ながら、シェフたちと会話をしながらがおすすめだが、大切な人と静かに感動を分かち合いたい時はテーブル席を
この記事を作った人
撮影/三橋 優美子 取材・文/藤田実子(フリーライター)
フード・ワイン・日本酒などのを生み出す人々の日々の仕事、思い、人生、哲学に興味を持ち雑誌・書籍などで取材を重ねている。執筆作品に『鮨 一幸のすべて』『鮨さいとう 鍛錬と挑戦』(ともにカドカワ)などあり。ライター歴30年。
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