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新宿ゴールデン街日記 Vol.9

路面電車の線路がまだ残る昭和初期の話から、祖父の田中小実昌氏のゴールデン街の様子までを聞くことができた前回。対談:ゴールデン街今昔はさらに盛り上がります。

新宿ゴールデン街日記 Vol.9

Vol.9 対談:ゴールデン街今昔[後編]

 ゴールデン街で生まれ育った【ロベリヤ】ママとの対談・後編。
カイがゴールデン街で働くことになった経緯をママが尋ねます。

ゴールデン街で働くことになった経緯

原島玲子ママ(以下、ママ)「カイ君がゴールデン街で働き始めるきっかけは何だったの? 」

 
田中開(以下、カイ)「大学卒業のタイミングで、母が亡くなって、家を相続して、あと生命保険とかでまとまったお金が入ってしまい…、働きもせずプラプラしてたんです。大学を卒業してから、大学院に入りました。2年半も行ってないですけど(笑)。そんな中で、せめて、なんかちゃんとバイトでもしたいなって思って」


ママ「ちゃんとってなに? 」


カイ「一流のホテルのおもてなしを身につけて、ジェントルマンになりたい(笑)と思って某有名ホテルの最上階のバーに行きました。そしたら意外と厨房汚いし接客も想像の範囲内で。それで帰りに【しの】で飲んでたんです。そしたらダイキさん(【しの】のママの息子さん)が働いていて。『俺今週でラストだから、お前来週からやらない』って言われて、『はい』って言いました」


ママ「【しの】のママは、結構好き嫌いはっきりしてるけど、カイ君のことは、気に入ったんだね。まー、おじいちゃんの代から知ってるけど、親の七光りだけでもダメな人はダメじゃん」


カイ「僕は、深夜番(注:12時以降の店番)だから、そんな一緒に働くことはなかったんですよ。【しの】の深夜は、なかなかディープで、殴り合いの喧嘩とかもありました。そこで1年やって。その後【三坪】(注:【しの】の向かいのお店)でも、半年と少しぐらいやって。それから、今の場所が見つかって【The OPEN BOOK】をはじめました」


ママ「ゴールデン街では2店舗やったんだね。じゃー、すでに接客はやったことあったんだ」


カイ「そうですね。【しの】でやったってことは後々考えるとデカいなあと。【しの】で働くときは、経験も無くて、何一つわからなかったけど。初日から、早番(注:12時まで)のキジマさんが『じゃーお店の鍵な。金はあそこ入れといて。じゃー』って言って。だから、お酒もどうやって作るんですかってお客さんに聞いてた(笑)。それで次の日、『あそこが全部だめだった。片付けはもっとこうして、以上。じゃーまた明日』って感じで。だから途中経過は全くなくて。結果だけ求められる、みたいな感じで」


ママ「でもそれでできたんだね。カイ君は。それでだめだって、使い物にならなかったら1年持たなかったでしょ?」


カイ「まあ、そうですね。今の子とかは苦労しているみたいです」

昔のゴールデン街を知るママが感じる、今の街並みとは?

カイ「若い人たちはゴールデン街に憧れはあるけど、ハードルが高いって思う人が多いみたいですね。僕は小さい頃からゴールデン街にいるから感覚が普通じゃないけれど。16歳の頃から【しの】とか【三日月】は僕のお母さんに連れていってもらってたんですよ。うちの祖父が死んだ後も、1年に1回は【三日月】【花ノ木】【しの】に行っていました。でも、僕が大学生になったら、母が『行くのめんどくさいから、あんた行ってきて』ってお金だけ渡されて、友達誘ってゴールデン街に飲みに行くようになったんです。タダ酒ですね(笑)それでも、行ったことのない、初めていくお店に入るのって入りづらいなって思いました」


ママ「【ロベリヤ】もよく入りづらいって言われちゃう。入り口が階段上がった先だしね。特に若い女の子はハードルが高くて一人では行けないっていうよね。顔なじみになれば、一人でも来られるのにね。でも、私にとっては若い人たちがゴールデン街に興味をもつっていうのはすごく嬉しい。昔と比べて、ゴールデン街もすごく変わった。第三世代といわれる今の時代のお店は、マラケシュみたいで、すごくお洒落なお店など昔のゴールデン街にはないようなお店が多い感じがする。ゴールデン街ってなんか不思議な空間だよね」


カイ「居酒屋でもないし。ゴールデン街で飲むと、高いという人もいるし、安いという人もいるし」


ママ「でも、昔と比べたら普通の値段になったよ。私たちの時代なんてすごく高いお店が多かった。ちょっと怪しげなお店は高めで、一見の人はワンセット3000円。それで、ママが飲むと2000円アップして、1時間延長やお酒のおかわりとかで追加でお金がかかるみたいな、そういう時代だった」


カイ「なるほどなあ。昔のほうが安くて、今が高いっていうのもステレオタイプだったんですねえ…、勉強になる」

今も残るゴールデン街“らしさ”

ママ「この間、テレビの撮影があって、ゴールデン街好きな井筒監督がいらした時、もう自然遺産みたいな感じでゴールデン街を残して欲しいよねっていう話をしてたの。国とか何かが守らなきゃいけないと思うんだよね。井筒監督がうちで撮影終わりに【ばるぼら屋】の焼きそばが食べたいって言って、開店10分前だったけどお店に行ったみたい。でもやっぱり、井筒監督でも18時にならないとだめーってオープンするのを待ってたみたい。その後、ちゃんと入れたみたいだけどね。誰が来ても18時じゃないと入れませんっていうのが、ゴールデン街らしいなと思った」


カイ「だいたいオープンするのは18時以降ですけどね。(笑)それもまたゴールデン街らしいですよね」

…と、話は尽きず、ここらで時間切れ。話の締めもオチもつかないけれど、むしろ、それが飲み屋の会話ということで、ご愛嬌!

 玲子ママ、ありがとうございました。対談:ゴールデン街今昔、みなさまいかがでしたでしょうか?
 また次回は、新しい対談が掲載予定です。お楽しみに!

この記事を作った人

田中開

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