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更新日:2022.06.03食トレンド

“パンチパーマの鮨職人”が、自身の店【東麻布さいこう】をオープン!

予約困難店【はっこく】を立ち上げから支え、二番手として活躍した齋藤淳(さいとうじゅん)さんが、満を辞して開業。2022年3月2日、自身の店【東麻布さいこう】を麻布十番にオープンしました。人気店からの独立、アイコンである大将のパンチパーマ(!?)と話題は先行しますが、実は、職人気質の実直な江戸前鮨が魅力。知られざるこだわりと、新たなステージにかける想いを伺いました。

東麻布さいこうのアジ

予約困難店の二番手を担った、“パンチパーマの鮨職人”が独立

麻布十番駅から徒歩3分。2022年1月に新築されたばかりの高級ホテルやアパートメントが入るビルの1階に、「東麻布さいこう」と書かれた暖簾が揺れています。

    東麻布さいこうの外観

    麻布十番駅から徒歩3分。1月 に新築されたばかりの高級ホテルやアパートメントが入るビルの1階に、「東麻布さいこう」と書かれた暖簾が揺れています。

一見すると大将の苗字「さいとう」にも見えるのですが、こちらの店名は「最高」と「さぁ、いこう」をかけて名付けているそうです。ちょっとした高揚感とともに、店内へ。

エントランスをくぐると、ウェイティングスペースとしても使える薄灯りのバーに始まり、贅沢に仕切られた6席のカウンター個室、齋藤さんがメインで握る10席のカウンターテーブルへと、奥行きのあるスペースが広がります。

    CAP(内装について)

    CAP(内装について)

【はっこく】では自身のカウンターを担うこと約4年、多くのお客様から愛されてきた齋藤さん。3年ほど前から“パンチパーマの鮨職人”としてアイコニックな存在でしたが、見た目のインパクトだけで常連客が通うことはありません。17歳で鮨店の門をたたき、料理人としてのキャリアは今年で23年と、鮨職人として心血を注いできた人物です。

「鮨職人といえば坊主頭というイメージが強く、人とは違う“パンチのある髪型”としてパンチパーマにしましたが、実際、調理中に毛が落ちにくく、汗も滴りにくいので、機能的なんです。昔から職人の髪型としてパンチパーマが多かったのには、やはり正当な理由があるんですよね」

齋藤さんが作るつまみに、注目するワケとは!?

握り30貫のコース1本で勝負していた以前の職場とは異なり、【東麻布さいこう】のコースは、つまみ7品と握り13~14貫にデザートが付くおまかせコース。

「握りだけではつまらないですし、若手のスタッフに成長してもらうためにも、つまみも楽しんでもらえるお店にしたかったんです」

鮨以外にも5年間、和食の料理人として経験を積んだ齋藤さんのつまみは、独立前からのお客様にとっても、注目の的です。

    東麻布さいこう『のどぐろの雑炊』

    赤酢の酢飯を使った『のどぐろの雑炊』

のどぐろのだしをアラとともに丁寧に煮詰め、トロリと旨みが溶け出したスープに、赤酢の酢飯で仕上げた『のどぐろの雑炊』。雑炊におけるポン酢の役割のように、酢飯に使用した赤酢の酸が、全体をまろやかな味わいに昇華させています。季節により、クエの雑炊なども登場。

    東麻布さいこう『ウニの塩焼き』

    パリパリの海苔に乗せて食べる『ウニの塩焼き』

木箱で供される、塩焼きにした北海道根室産のバフンウニと海苔。箱の下には、火の入った炭を備え、上に乗った海苔の湿気を飛ばすだけでなく、パリパリの食感と香ばしい風味が楽しめます。ウニは塩を付けてじっくり焼くことで、表面はわずかにカリッと、芳醇な味わいはまるでチーズのようです。

    東麻布さいこう『太刀魚の塩焼き』

    ヤングコーンと大根おろしでさっぱりいただく『太刀魚の塩焼き』

千葉県富津市竹岡産のタチウオは、昆布と酒に漬けた後、一度干すことで旨みを凝縮させて、塩焼きに。脂の乗ったタチウオと、だしの染みこんだヤングコーンが、意外な一体感を奏でます。

    東麻布さいこうの『大トロ』

    粒感が大きく、ダイレクトにお米の旨みを感じられるシャリ。お米は、富山【鮨し人(じん)】へ齋藤さんがお手伝いに伺った際、そのおいしさに感激し、取り寄せることになったそう

【東麻布さいこう】の握りは、以前勤めた店とも異なる、独自配合の赤シャリが特徴。長期熟成を施した赤酢と米酢が、酸味をまろやかに抑えているのを感じます。

    東麻布さいこうの『ウニヤ姫』

    お店のスペシャリテとして、握りの1貫めとして出される『ウニヤ姫』

「ウニはたっぷり乗せたいけど、軍艦は女性のお客様がいつも食べづらそうなのを見てきたので」と齋藤さんが開発した、三角の海苔。決して映えを優先するわけではなく、手巻きの要領で食べやすさを追求しています。

  • 東麻布さいこうの秋田杉の箱

  • マグロを保存するようにオーダーしたという秋田杉の箱。秋田県・鳥海山の噴火により2500年以上も地中深く埋もれていた秋田杉は、火山灰が染み込んだ神々しい色合い。

    東麻布さいこうの大トロ

    シャリをふわっと包み込むように柔らかいトロ

この日は、神奈川県三崎港で一本釣りされた133kgのマグロ。トロの溢れ出る脂は甘みを蓄え、その照りが食べ手を刺激。口に入れると、シャリの赤酢が、さらに甘みを際立たせ、自然と頬がゆるみます。

    東麻布さいこうの『アオリイカ』

    この時期、三重産のアオリイカは濃厚な甘みが特徴

「アオリイカは3枚に切り付けて、一番甘みが強い中央部分を上に配することで、最初に甘みを感じてもらえるんです」と齋藤さん。見た目は淡白ながら、ねっとりと舌に絡みつく食感に惚れ惚れします。

    東麻布さいこうのアジ

    鹿児島県出水(いずみ)産のアジ

アジは、塩水に軽く漬けることで臭みを除去し、ほどよい塩みをプラス。脂のノリはもちろん、ふわっと柔らかい口あたりは、春先の軽やかさを感じます。

光り物や貝類など江戸前の仕込みに妥協なし!

    齋藤淳

    真摯な仕事に裏打ちされた職人ならではの言葉が印象的

「光り物や貝類を仕込む江戸前の仕事が一番好き」と話す、根っからの鮨職人・齋藤さん。

「特に光り物は、アジひとつとっても産地×天候×個体差と毎日すべてが異なるので、その日の状態に合わせて仕込みを調整します。もし僕が他のジャンルの料理に進んでいたら、フレンチではレシピ、和食では出汁の割合などもきちんと決まっていたりしますが、鮨職人というのは、経験の積み重ねで個体差を見極めて、漬ける時間や塩の配合などを微妙に調節していく必要があるので、仕込みに飽きが来ないんです。“日々勉強”とはよく言ったもので、どうしたら一番おいしくできるかを毎日研究して、その都度お客様の反応を見てきた分、答えが蓄積されて、僕の経験値にもなる。だからこそ、仕込みは他のスタッフに任せられません」

    齋藤淳

    「江戸前の仕込みには飽きが来ない」と齋藤さん

人気店になればなるほど、仕込みは他のスタッフが行い、握りは自分が行うという大将を多く見てきた分、齋藤さんのコメントは新鮮に感じます。

「他のスタッフが仕込んだネタを自分が握って出して『おいしい』と言われても、さほど嬉しくはないですよね。自分が仕込んでこそ、面白いし嬉しいもの。それこそが職人としての向上に繋がるのだと思っています」

鮨をはじめ和食と相性のいいピノノワールが、200種類以上

    東麻布さいこうのワイン

    “次世代のDRC(ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ)になる”とも称され、期待を集める若い作り手『シルヴァン・カティアール』。2011年に息子セバスチャンに代替わりをすると評価が一気に高まり、入手困難になるも、ヨーロッパから直接買い付けることでオンリストが可能に

また特筆すべきは、その握りに伴走するワインの揃えです。ワインの仕入れを担当する大木佑輔さんによると、ワインは、フランス・ブルゴーニュ地方のワインを中心に、常時200~300種類をストック。どれもヨーロッパから直接輸入する徹底ぶりです。

    東麻布さいこうのワイン

    ワインを中心に、ビールや焼酎、日本酒は12,13種類を揃え、ウィスキーも山崎や響、白州など主要ブランドを抑えている

大木さんがセレクトする品種は、「鮨をはじめ和食と相性のいいピノノワールが98%を占める」と言います。

「近年、若い生産者が早飲みでリリースしたワインもすぐに飲めるものが増えているため、そういった若いピノノワールと鮨の抜群の相性を、ぜひ味わって欲しいです」

    東麻布さいこうのバーカウンター

    ウェイティングスペースにもなるバーは、1日1組限定での利用を想定

さらに、併設されたカウンターバーでは、薪火を見つめながら、お酒に合うつまみや握りをアラカルトでオーダーすることも可能です。

「自分の目の届かない席で鮨を出したくなかったので、板前がいないカウンターはバーとして、『少し早めに着いたので飲んでもいい?』というお客様に使ってもらったり、一回転めのお客様でワインボトルを飲み切らなかった方は、バーでデザートとともにゆっくり楽しんでもらえるようにしたかったんです。僕が目指すお店は、あくまでお客様同士が楽しく食事をしてもらえるのが一番で、その場を作りあげるのが僕らの仕事だと思っています」

    齋藤淳

    派手な見た目ゆえ、お客様が「仕事はちゃんとしてるね」と驚くことも多いと話す、齋藤さん

話題性や人気を耳にして【東麻布さいこう】を訪れてみたお客様も、それらを超越する居心地の良さや、実直な職人の手技に触れ、通い続けたくなるお店ではないでしょうか。

この記事を作った人

撮影/佐藤顕子 取材・文/藤井存希

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