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更新日:2017.06.09グルメラボ 連載

加賀藩が育てた北陸の美味。下町・金沢の名店from 「ヒトサラspecial」

新幹線の開業で賑わう北陸の城下町・金沢。滋味豊かな北陸の魚介と地酒を堪能できる名店5軒をご紹介。滋味豊かな北陸の魚介と地酒をとくとご堪能あれ。

加賀藩が育てた北陸の美味。下町・金沢の名店from 「ヒトサラspecial」

【口福 よこ山】

見えない仕事の中にこそ旬の味を最大に引き出す技を

 金沢の美食を語る上でどうしても味わって欲しい店がある、中心街の片町にのれんを掲げる【口福 よこ山】だ。『京都九条ねぎと閖上産赤貝のぬた』。この店で春の味覚を味わう前菜として供されたある日のひと品だが、そこには3か月寝かせて角を取った米酢から生み出される土佐酢のジュレにはじまり、ぬたに使う酢味噌は京都の白味噌を2時間練りあげ、国産レモンと和辛子で風味付け、そこに胡麻のペーストでコクを加える。そうして手間を惜しまずに生み出された下拵えと旬の赤貝を合わせれば、奥から奥から旨みが折り重なるような不思議な滋味が湧き上がってくるのだ。もちろんそれは、すべての料理に一貫したこの店の哲学。店主が自信を持って提供する、熊本水島の塩トマトは、湯むきのトマトにドレッシングとキャビア、金箔がのったなんとも豪華な一品なのだが、このドレッシング、店主が生米を炊くところから始め、牛乳、バター、白ワインなどを加えて生みだす特製ソースなのだ。

    店主・横山明彦氏は、金沢の料亭から料理の道を歩み始め、その後、京都などで活躍。さまざまな土地のエッセンスを取り入れながら、枠にとらわれない独自の和食を追求している

    店主・横山明彦氏は、金沢の料亭から料理の道を歩み始め、その後、京都などで活躍。さまざまな土地のエッセンスを取り入れながら、枠にとらわれない独自の和食を追求している

「出汁という和食の基本は外さずに、素材を味わってもらう。そこにほんの少し自分の料理感を加えたい」
 店主の横山明彦氏はそう話すが、素材を生かす仕事、そのほんの少しの手入れこそが食材のポテンシャルを引き出すこの店の真骨頂であるのだ。

  • 『京都九条ねぎと閖上産赤貝のぬた』。丁寧につくり上げた酢味噌と土佐酢ジュレで赤貝の旨みが増幅

    『京都九条ねぎと閖上産赤貝のぬた』。丁寧につくり上げた酢味噌と土佐酢ジュレで赤貝の旨みが増幅

  • 『先付』。熊本水島の塩トマトは名残りの桜の葉であしらうことで、初夏を表現

    『先付』。熊本水島の塩トマトは名残りの桜の葉であしらうことで、初夏を表現

  • 横山氏の仕事を目前で楽しめるカウンターを中心に、個室やテーブル席も和の設えで統一された店内

    横山氏の仕事を目前で楽しめるカウンターを中心に、個室やテーブル席も和の設えで統一された店内

  • 福井の『黒龍』など、和食に寄り添う日本酒は希少銘柄も多数。海の幸と合わせて楽しみたい

    福井の『黒龍』など、和食に寄り添う日本酒は希少銘柄も多数。海の幸と合わせて楽しみたい

金沢の旬を感じるおまかせコース一本。そこには店主が愛してやまない金沢の旬を、最大限に引き出した美味が待ち受ける。

【日々魚数寄 東木】

名店で修業を重ねた店主の金沢らしい酒と肴を

 呑兵衛にこれほどうれしい店もそうそうない。主人は、ソムリエであり、きき酒師の資格も併せ持ち、ワインでも日本酒でも、その品ぞろえはすこぶるよし。小体な店なので数こそ多くはないのだが、左党垂涎、数寄者を唸らせるいぶし銀のラインナップが揃う店なのだ。もちろん、料理に合わせ、好みの一杯を提案いただくことも可能。そして何より酒肴の演出にまた、目じりが下がる。

    『鯛の白子』、『カワハギの肝和え』、『スルメイカの塩辛』、『バイガイ肝醤油』と珍味の数々。酒量や好みによって、さまざまな酒肴が食膳を賑わす。コース主体ながら、この自由度の高さは小さな店ならでは

    『鯛の白子』、『カワハギの肝和え』、『スルメイカの塩辛』、『バイガイ肝醤油』と珍味の数々。酒量や好みによって、さまざまな酒肴が食膳を賑わす。コース主体ながら、この自由度の高さは小さな店ならでは

 「全国どこでも味わえるマグロやイクラより、ヒラソウダガツオとか、朝獲れのマハタとか、イワシやアジなんかもこちらの獲れたては抜群ですよ」
 店主の東木宏憲氏は、各地で修業後、地元に戻って魚の素晴らしさに気づいたと笑う。そんな金沢や能登で獲れた地の食材を、ひと仕事加え、上手く出してくれる店こそ【日々魚数寄 東木】なのだ。上手くとは表現が少々荒っぽいのだが、手を加えつつも加えすぎないその塩梅。食材の長所を引き出しつつも、酒を呼ぶアテとして成立させる、絶妙な塩加減、出汁の使い方、添えた野菜の仕事までもが、いい塩梅なのだ。

  • 『お造り』。マコガレイ、ハマチ、サゴシの炙り、白ガスエビと地物をそれぞれに調理し、お造りで

    『お造り』。マコガレイ、ハマチ、サゴシの炙り、白ガスエビと地物をそれぞれに調理し、お造りで

  • 『のどぐろのタケノコ包み焼き』。醤油、酒、みりんなどで幽庵焼きにした逸品。季節の味も店の特徴

    『のどぐろのタケノコ包み焼き』。醤油、酒、みりんなどで幽庵焼きにした逸品。季節の味も店の特徴

  • 「メニューは仕入れ次第。その日その日で変えています」と店主の東木宏憲氏

    「メニューは仕入れ次第。その日その日で変えています」と店主の東木宏憲氏

  • 地元の能登ワインが中心。和食に寄り添うを基準に日本ワインをセレクトする

    地元の能登ワインが中心。和食に寄り添うを基準に日本ワインをセレクトする

 聞けば東木氏は、京都の料理旅館をはじめ、神楽坂の懐石や銀座『うち山』など、数々の名店で研鑽を重ねた人物。さまざまな店で培ったエッセンスを、この小さな名店で凝縮させて提供しているのだ。
 さらに言えば、食べ手の酒量により、料理は調整も可能。飲めば飲むだけ、料理が気の利いたアテへと変化するなんていう変化球も併せ持つ。ひとりか、もしくはふたりなら金沢の夜はこの小体な店で乾杯してほしい。

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ヒトサラ編集部

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