日本料理を世界へ発信する、7年連続三つ星【龍吟】山本征治氏 | 第3~4話
国内外から注目を集める一流シェフや料理人、食に精通するスペシャリストをゲストに招き、食のトレンドをお届けするインターネットラジオ番組『ヒトサラ シェフズテーブル』。Vol.33~34のゲストは、2018年8月に東京ミッドタウン日比谷に移転した【龍吟】の山本征治さんの回をお届けいたします。
今回のゲストは、前回に引き続き2003年のオープン以来、国内をはじめ世界からも注目を集める【日本料理 龍吟】の山本征治氏。
「おいしいものを食べたい」という欲求は「症状」だと豪語する山本氏。頭痛や体調が優れないという症状に対し、薬を処方するのと同じことで、おいしいものを食べると幸せになるということが前提にあるならば、その症状をどう改善するのか。これまでの「おいしい」をさらに超えていくひと皿、それこそが【龍吟】の処方箋なのである。
第3話:プロフェッショナルということ
山本氏の思いが伝わる瞬間
──かつてはカウンターで接客をしながら料理をしていることもあったと伺いましたが、現在はカウンターではなく、キッチンは別の部屋ですよね? でも、ずっといらっしゃるとか。
山本:そうですね。お店が営業している限り、留守にすることは絶対にないです。これは断言できます。やはり店にいるかどうか、自分が本当に料理に携わるかどうか=血が通うことだと思うんですよね。それはお客様への約束でもあり、スタッフへの約束でもあると思います。おいしいものを食べる時って良い雰囲気が大事で、サーブする時に「いいなぁ~おいしそうだなぁ」といって出て行く料理の方がおいしいんです。
チームみんなが食べたいなぁと思うこと、そして私の最終チェックを終えた料理が出て行く瞬間、その空気はお客様に絶対伝わるんですよね。お皿が運ぶものは食べ物だけではなく、思いも届けてくれるんです。
山本氏の考える「修業」とは
山本:醤油ってどうつくられるかわかる? と聞くと若い子は知らないんですよね。薄口? 濃口? 大豆が原料だよね? 程度が多いんです。これが医者だったら、薬を詳しく知らずに処方することはないですよね。この鯛を知っているから刺身にすることができる。この野菜を知っているからこそ、この厚さに剥ける。
たとえば3mmに切ってねって言われて5mmに切っても、ちょっと厚いかなで済むかもしれませんが、心臓バイパス手術で隣の血管を切ってしまったなんてことは済まないでしょう。同じように刃物を持っている緊張感のレベルがまったく違う。そこが重要なんです。それを踏まえて今日の献立を考えた時に、この素材で自分は何ができるのか。最高のパフォーマンスができるのか。というのがわかるようになることが「修業」なんですよね。
第4話:“料理人、山本征治”の過去と未来
料理人としての山本氏は、日本を愛し、そしてそれを伝えるべく常に高みを目指す、まさに全身料理人。そんな氏の唯一の趣味は「ふくろう」だと話してくれた。「鳥さんを見ていると癒されます(笑)」という意外な一面をもつ山本氏の地元、香川県で過ごした日々から料理人になるまで、そしてこれからの日本料理について語ります。
1996年11月27日、夜行バスで上京
山本:当時働いていたお店の東京出店がきっかけでしたね。小さい頃からお菓子作りや料理の手伝いをするのが好きだったんです。一番好きなことが料理なんですよね。深く追求して苦にならないことが料理だった。好きなことばっかりやって仕事につながるとなると、自分には料理しかないと思っていましたね。調理師学校に行ってコンクールも出たりして厳しいこともあるけど辛くないんですよ。それよりも「もっと教えてくれ!」という気持ちの方が大きくて。コンクールなどは目に見える達成感があるのでそれがなんとも快感で。
――修業を共にした【小十】の奥田さんも山本さんのことを「天才」だとおっしゃっていました。ものすごい勉強されるんですよね。
山本:勉強するという感覚よりも好きだからやる。やらないと気がすまないんですよ。当時はインターネットがない時代ですから、本を買うのにどれだけつぎこんだか(笑)。
日本料理の未来
――料理人として点数をつけるとしたら50点とおっしゃいました。あとの50点は?
山本:それは自分では評価できない点数ですね。100点というのは、お客様の中でしか生まれない点数だと思います。自分の中で50点でもお客様は100点をつけるかもしれないし、99点かもしれない。自分の中で100点だろうが120点だろうが、お客様にとって何点になるかはわからないんです。なので、常に50点。
――日本料理はまだまだ進化していくと思いますが、中期的くらいにみるとどうなっていくのでしょうか。
山本:ますます本物志向になるでしょう。国産食材、料理法、素材の恵みがいかに優れているかが伝わる料理。結局、精神でなにを担いでいるかがジャンルを分けているので、本物の良さを伝えられているかどうかがひとつのポイントになってくると思います。個性や創作というよりは、人間業では届かないようなところをどううまく表現できるか。
――最後に料理人を目指す人へメッセージを。
山本:日本料理をやる魅力をもっと知って欲しいと思います。
国を代表して日本料理をつくる。日本の良さ、この国のもっている素晴らしさ。精神や道具、器、文化の中で日本料理というものがいかに尊いものか。お客様から2時間半~3時間という1日のうちの大切な時間を預かって自分たちができることの可能性を追求することが大事だと思います。本当に日本が好きならそれができるんじゃないかと思います。日本を愛してください、これがメッセージですね。
ゲストプロフィール
料理にかける思いがゲストを虜にし、その全身全霊をかけた“料理魂”にシェフたちからも一目置かれる
1970年香川県生まれ。 四国調理師専門学校(現KISS調理技術専門学校)を卒業後、料亭・ホテルなどを経て、2003年12月、六本木に【龍吟】をオープン。2004年11月、スペインのサンセバスチャンの料理学会に日本代表として参画。以来、国内外の数々の料理学会にて日本料理の技術を発表するなど、海外へその見識を積極的に発信している。「ミシュランガイド」では7年連続で三つ星を獲得、2018年「世界のベストレストラン50」では第41位にランクイン。さらに、フランスの食専門誌「LE CHEF」主催「世界のシェフ100人」で4年連続の世界トップ10入りを果たす。革新的な技術を巧みに操り、日本の豊かさを世界に発信しつづけるトップシェフの一人だ。
ヒトサラ編集部
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