無限ループで食べられる!? 香港で出会った、自分史上最高の北京ダック【欣圖軒 ヤントーヒン 】尖沙咀 |旅に出よう、食べに行こう
中華のご馳走と聞いて真っ先に浮かぶものってなんですか? 私、編集部・山路が一番に思い浮かぶのは北京ダック。広東料理のレストランでメニューに見つけたら頼まずにはいられない大好きな料理です。東京はもちろん、北京の名店や上海の有名店などいろいろな店で食べたけれど、自分史上最高の北京ダックはインターコンチネンタル香港のミシュラン2つ星【欣圖軒 ヤントーヒン】! そのおいしさの秘密をラウ・イウファイシェフに直撃取材。さらに、2018年のリニューアルを経て進化したお店の魅力を紹介します。
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香港ミシュラン店のTOPシェフに直撃取材
美味なる北京ダックの秘密は“究極のドライスキン”!?
無限ループにハマる、ダックをひきたてるソースとつけあわせ
合わせるのは香港唯一のティーソムリエがいれる、極上の中国茶
香港ミシュラン店のTOPシェフに直撃取材
まるまると太ったダックが卓上に乗っただけでその場が華やぐ、ごちそう感。そして食べるのはその皮だけという、なんともいえない贅沢感と背徳感。初めて食べたときからこの不思議で美味な料理の虜になり、私にとって北京ダックは大好きな中華料理・TOP3に入るほど思い入れがある。
そんな私が自分史上最高の北京ダックだと思っているのが、香港はインターコンチネンタルホテルのなかにある2つ星レストラン【欣圖軒 ヤントーヒン】のダック。10回ほどの香港渡航で、これ目当てに4回はリピートしている。
今回取材を快く引き受けてくれた、【欣圖軒 ヤントーヒン】劉耀輝 (ラウ・イウファイ)シェフ。料理長として30年以上名店の味を守り続けている。ミシュラン2つ星を獲得
うすーい皮のパリパリっとした歯触りのあとに広がる香りと脂の旨み。どの組み合わせも最高においしいつけあわせとソース。そして、ダックの肉を使ったレタス巻き……。思い出すだけで、すぐにでも食べたくなる。あるときふと思った。そもそも、北京ダックのおいしさの違いってどこで変わるんだろう?
その秘密が知りたくて、総料理長のラウ・イウファイシェフに突撃取材を依頼したところ、なんと快く厨房で北京ダックの作り方を見せてくれるというではないか!さっそく香港に飛んでシェフに会いにいった。
美味なる北京ダックの秘密は“究極のドライスキン”!?
「よく来たね」とにこやかに迎えてくれるラウシェフの前に横たわるのは、毛をむしられた丸のあひる。
私の顔を見るやいなや「それではつくっていくよー」と、いきなり調理スタート。はじめにあひるの内臓をきれいにとって、中にスターアニスやリコリスほか5種類のスパイスを独自に配合した塩をたっぷりすり込んで、ササッとおしりを閉じた。こちらのダックは肉もコースのなかで出してくれるため、しっかりと下味をつけていく。
調味料をおなかに刷り込んだ丸のあひるをさっと水洗いし(左)、沸かした湯に数分くぐらせる(中)。調味料をしっかり全体にかけてから専用の窯で2時間30分ほど"乾かすように”焼いて下準備が完了(右)
「シェフ、ちょっとまって!」と慌てる私がメモを取る間も写真を撮る間もなく、瞬き数回の間に終わってしまった手際の良さ。そして息つくヒマもなく、そのあひるを水で洗い、沸かしたお湯に数分くぐらせた。
さっきまで生々しかったあひるの皮がみるみるパンッと張ってくるのがわかる。さらにツルンツルンの美肌になったあひるに下味のヴィネガーと砂糖を溶かした液をしっかりとかけてから専用の大きな窯に吊るした。ここまで10分もたっていない。
「この専用の窯で2時間~2時間30分乾燥させながら焼きます」とラウシェフ。なんでも、実はここの工程がおいしい北京ダックでとても重要な部分だそうで、しっかりと乾燥させて“ドライスキン”にしないと、この後に油をかける工程で皮がクリスピーにならないという。「はい、これ2時間30分たったダックね」と窯から取り出してくれたものを見ると、張りを増した皮がうっすらと色づきこのままでもおいしそう!
大きなダックを、中華鍋一つで油をかけながら仕上げていく。最初は低温、徐々に高温にしながら5分前後油をかける手をとめずに、むらのないように仕上げる
美女にはドライスキンは大敵だけれど、おいしい北京ダックはドライスキンにするとハリがでて、クリスピーになるのね……。感心しているそばから、今度はダックの表面をバーナーでさっとあぶっていく。このひと手間で全体の皮がむらなく均等にクリスピーになるのだとか。そして、いよいよ油をかけて仕上げに入る。大きなあひるを片手で持ちながら、均等に高温の油をかけていく作業はかなりの重労働だ。「最初は低い温度でゆっくりと。色を見ながら、最後の数分は強火の高温の油をしっかりかけて仕上げます。高温の油をかけることで、ダックのなかにたまっている余分な油が出ていくんですよ」
ジュワーッ、ジュワーッとかけるたびに立ち上る油の音は食いしん坊にとって永遠に聞いていられる幸せの音。目の前でほどよく色づいていくダックから立ち上る香りに、そのままかぶりつきたい衝動をおさえるのに必死になっているのもつかの間、ものの5分くらいでこんがりと色づき、完成!
卓上に丸のまま運ばれる北京ダック。注文は1羽から、前日までに注文を。1438HK$
無限ループにハマる、ダックをひきたてるソースとつけあわせ
ダイニングに移動し、さっそく実食。北京ダックのおいしさは、調理はもちろん、実はサーブの技術によるところも大きい。肉をつけずに皮だけを手早く薄くカットできないと、シェフが心を砕いてパリパリに仕上げた食感が台無しになるのだ。こちらの熟練のスタッフの切り方はパーフェクト。薄く焼いた春餅(チュンピン)に完璧に削がれた皮がのせられていく。白い上品な生地に飴色に仕上がったつややかなダックのコントラストが美しすぎる……。
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クリスピーな皮の食感を楽しめるよう、サービスの方がうすーくカットしてくれる。こんがりと焼けた皮を身をつけずにきれいに切り取るのは至難の業
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まず最初の北京ダックには、きんもくせいとプラムのソースにパパイヤ、キュウリをのせてトライ。甘いソースとダックの皮の風味、ぱりっとした食感ととろりとしたソースが口の中で様々な表情に変化する
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ダックとともにやってくる創意工夫あふれるバリエーション豊かな「コンディメント(つけあわせ)」も、高揚している気分をさらに高めてくれる。普通の北京ダックのソースとつけあわせといえば、テンメンジャンときゅうりとねぎが定番。けれど、ここは『きんもくせいとプラムのソース』ほか3種類のソースが用意され、つけあわせにいたっては『ポメロー(柑橘)』『青パパイヤ』など独創的なもの、定番もの織り交ぜて6種類もあるのだ。
つけあわせとソースのプレート。左奥から・パイナップル、キュウリ、赤パプリカ。中段左からきんもくせいとプラムのソース、韓国風にんにくとチリのソース、テンメンジャン、手前左から、青パパイヤ、ポメロー(柑橘)、青ネギ
「飽きないように工夫した」とラウシェフが言う、計9種類の要素をかけあわせて生まれるおいしさは無限ループと言っていい。ポメローxプラムソースxキュウリで一枚。テンメンジャンとねぎの赤パプリカで一枚……、うすーくパリっとした歯触りの後にジュワと広がるコクのある脂の旨み、そこにコンディメントの香りや酸みや辛みが複雑にまじりあう。組み合わせを変えて現れる表情がそれぞれ違う北京ダックはもう一枚、もう一枚、と止まらない。ハッと気づけば、なんと8枚も食べていた。
ダックの肉のレタス巻きは、ワゴンサービスで提供
次に登場するのは、ダックの肉を細かく刻んでいただくレタス巻き。皮だけしか食べられないスタイルの店では、肉がもったいない……と思ってしまう私は、お肉も食べられるお店が好き。皮がメインを張る北京ダックだが、こちらの肉もなかなかだ。しっとりとした肉を食感のあるたけのこやしいたけと刻んで甘辛く炒めてシャキシャキレタスで巻いていただくと、あら不思議。後味さっぱりいくらでもいけてしまう。
食欲をかきたてる、この茶色と緑のコントラスト……。どんどんおかわりをつくってくれるので、食べすぎ注意!
しかし、ここで食べすぎには要注意。【ヤントーヒン】のシェフとして30年以上も勤め続けているラウ氏の広東料理の技術をベースとしながらも、世界中から集められた最良の食材でつくる軽やかで現代的なエッセンスを感じる中華料理は、北京ダックだけではないからだ。世界中のトップグルマンたちを満足させてきたシェフの創意が光る料理は、王道の広東料理から、創作料理までしっかり味わってほしい逸品ばかり。北京ダックだけでおなかがいっぱいになって、食べられなくなったら後悔すること間違いない。
昼コース(888HK$~)ほかアラカルトも豊富。テーラーメードのコースも対応可能。こちらはアラカルトの『山芋バスケット入りあわびと野菜の炒め物』118HK$
合わせるのは香港唯一のティーソムリエがいれる、極上の中国茶
そして、料理のおともに忘れてはならないのが2018年から導入したという香港初のティーソムリエがいれてくれる中国茶。今回初めていただいたのだが、これがすごかった。物腰がやわらかいティーソムリエ呉志泉さんは、ただものではない。いや恐れずに言うなら、かなりのオタクだ。
なんでも、香港中を探して、小さなこれまたオタクの茶葉を扱う店をみつけて、上質でプレミアムな茶葉を仕入れたり、自ら雲南省や福建省に行き、市場にはほとんど出回らない希少で薫り高い茶葉の開拓に余念がない。
さらにおいしい中国茶をいれる水を探し求めて数え切れないほど試飲をして採用したのが、“5100TIBET”という標高5100mのチベットの山で採れる希少なミネラルウォーター。少し甘い水だという。
香港初のティーソムリエの呉志泉さん。料理と中国茶のペアリングの提案も担当
お茶を出すスタイルもこだわりがある。まず、客前のワゴンで炭火を入れた平たいホウロクのようなもので、茶葉を温めるところから始まる。これは「茶葉以外の余分な匂いを消し、本来の香りをたたせる」効果があるそう。今回選んだ10年熟成の鉄観音茶を温めると香ばしく甘い香りが漂った。それをゲストが選んだポットを使い、丁寧にグラスにいれてくれる。
「一煎目、二煎目と色と香りの違いも楽しんでください。これは一煎目。これが二~三煎目になると、まるでXOコニャックのような琥珀色になって、それはリッチな味わいになるんです」と目を細める呉氏。
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茶葉を丁寧にゆっくりと温めると、かぐわしい香りが立ち上る。ティーリストから選ぶお茶は26HK$~
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できあがったお茶は、花のような密のような香りが立ち上り、でもどこまでもクリア。ほんのりと甘みも感じる。ゆっくりと、ゆっくりと一滴ずつ味わいたくなった
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ゆっくりと注がれた目の前の黄金色の液体を一口飲んで驚いた。最初は花の香り、そしてはちみつのような香りがふわっと追いかけてくる。これは、これを飲むためだけにまた来たい! さらにダックがおいしくて食べすぎても、中国茶とともに食べすすめると、口をさっぱりとリセットしてくれる。極上の中国茶はそのまま味わうのもいいけれど、食中に楽しむのもやはり理にかなっていると感じた。
2018年リニューアルし、よりダイナミックな海越しの景色を望める席が増えたダイニング
今回の取材で知った、丁寧な仕事とシェフの創意工夫。目下、“自分史上最高の北京ダック”はやっぱり【ヤントーヒン】だなと確信。さらに、そこに記憶に残る中国茶という魅力が加わり、ますます心をつかまれてしまった。
2018年にリニューアルし、より香港島サイドの絶景を間近に眺められるようになったダイニングで、絶品の北京ダックと中国茶をいただくひとときは、まさに香港でしか味わえない特別なダイニングエクスペリエンス。香港に行くのが初めての人も、何度行っている人でも心から満足できるレストランの一つであることは間違いない。
行くときには、3人以上は集めたいところ。そして思い切りおなかを空かせていくことを忘れずに!
【欣圖軒 ヤントーヒン】データ
住所:InterContinental Hong Kong, 18 Salisbury Road, Kowloon, Hong Kong
電話:(+852)23132323
営業時間:12:00~14:30(閉店)、18:00~23:00(閉店)
要予約
ドレスコード:スマートカジュアル
撮影・取材・文/山路美佐(ヒトサラ副編集長)
幼少時代から筋金入りの食いしん坊。丸の内の総合商社に入社するも食への探究心を抑えきれず退職しイタリアに短期料理研修の旅に出る。帰国後世界文化社に入社し「家庭画報」ほかの雑誌で食・旅・アートの編集を担当。美味探求の旅は30カ国以上にのぼる
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