【sio】鳥羽周作さんが語る、”おいしい”のその先をデザインする時代に目指すこと
Twitterで拡散したレシピ「#おうちでsio」が話題となり、連日メディアに取り上げられ、一躍時の人となった【sio】の鳥羽周作シェフ。コロナ禍で飲食店は営業自粛せざるを得ない時に、「幸せの分母を増やしたい」その一心で精力的に思いを発信し続けた鳥羽さん。彼が今思うこととは――。
料理はそのための一つのツール。
迷ったらそこに立ち返り、いろんなカタチで
人を、社会を、幸せにしていきたい
Jリーグの練習生を辞めて教員になり、32歳で料理人の世界へ飛び込んだという、異色の経歴を持つ鳥羽周作シェフ。【DIRITTO】や【Florilege】などで修行を積み、2016年【Gris】のシェフに就任。その2年後、店を買い取る形で、【sio】をオープン。オーナーシェフを務めるかたわら、自社を立ち上げ、料理人を取り巻く環境を良くし、可能性を広げたいと動き出した。
【sio】のオーナーシェフ、鳥羽周作さん
そのためにまず力を入れたのはチームづくり。料理は自分がつくらなくても調理場にいるメンバーがきっちりつくれるよう指導し、現場の外から俯瞰した目線で、自身が“食を通して人を幸せにできているか”を考え続けてきた。
さまざまなクリエイターとつくった楽しさ、おいしさ、心地よさがリピーターを呼び、2019年にはミシュラン一つ星を獲得。2019年10月には「理想の食堂」をカタチにした【o/sio】を、12月には「純洋食とスイーツ」をテーマにした【パーラー大箸】を監修。
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代々木上原にある【sio】
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料理は若手に任せ、チームをまとめる鳥羽シェフ
順風満帆に見えたその時に襲ってきた新型コロナウイルス。新店舗のための借金もあり目の前が真っ暗になったという。
「でも、僕らができることはこの状況下でも食で幸せにすること」。
滾たぎるエネルギーでピンチをチャンスにした鳥羽シェフに話を聞いた。
オープン当初からのスペシャリテ『馬肉/ビーツ/プラム』
コロナ禍でチーム一丸となり、乗り切ることで開けた視界
――コロナ禍においてさまざまな取り組みをし、結果、売り上げが前年比増になったそうですね。
鳥羽周作さん(以下、鳥羽):最終的に前年より良い数字で着地できましたが、4月はお客さまも激減し、実はかなり厳しかったんです。
――そうなんですか?
鳥羽:はい。でもこうした状況でも、会社の経営方針「幸せの分母を増やす」に従い、「店が潰れてもいいから料理人としてできることをする」と宣言した僕に、チームがついてきてくれた。結果、スピード感を持っていろいろ挑戦できたことが、コロナ禍でも増収増益につながりました。
――その一つが、Twitterでのレシピ公開ですね。
鳥羽:レストランにお客さまが来られないなら「幸せの分母を増やす」ために家でもできる僕らの料理のレシピを伝え、家で【sio】を感じてもらおう。そう思って3月30日、2号店の【o/sio】の唐揚のレシピをTwitterで公開しました。
Twitterで拡散後、その反響の大きさからnoteでもより詳細な情報を発信
鳥羽:「#おうちでsio」と名付けたレシピ投稿は、誰もが好きな料理に絞って、アップし続けました。レシピは嫁さんに試作してもらい、上手にできたものだけを公開。家で簡単においしくできる再現性にはこだわりました。Twitterでは書ききれないポイントはレシピと合わせてnoteにまとめました。SNSを通じてお客さまが求めることに応えていたら、6000人のTwitterフォロワーが非常事態宣言の間に57000万人になったんです。
――でも、無料でのレシピ提供は直接ビジネスにつながらないのでは?
鳥羽:コロナ前後では、料理人のあり方は確実に変わりました。前は対面で喜ばせることが主流でした。でも、コロナ後は、お店に来てくれる人だけがお客さまではないことに僕らは気がついた。僕たちが店以外で発信する“体験”を受け取った人が感じてくれた幸せは、実店舗に行ってみたいという原動力になる。目先のお金にはならないけれど、未来のお金につながるんです。だからレストラン体験をいろんなカタチで‟広げる”、‟伝える”ことは大事にしています。
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店名を冠したスペシャリテのデザート『sio』
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フォカッチャは【ル・ルソール】に特注
――Twitter、インスタグラム、noteとSNSもうまく連携して運営していますね。
鳥羽:周りに、経営者やクリエイターの友人も多いので時代に合わせたSNSの使い方は意識しています。若手も自主的に動画制作や、noteの記事を担当していますよ。うちで働く子は料理人の技術と初歩的なITの知識、両方が必要です。SNSはマーケティングというより、‟おいしい料理”を伝える技術。以前は対面で伝えていたことが、今はSNSが加わり幅が広がったのだと思います。
――テイクアウトの『バインミー』もヒットしました。
鳥羽:僕たちは1,000円のバインミーにレストランの凄さを詰めた。すると生産が追い付かないほど売れる日が続いたのです。これはマーケティングではなく、‟おいしいから”ヒットしたと自負しています。やはり料理人として‟おいしい”はすべての基本。それが実現したのは、若手に店を任せられたことが大きかったですね。
テイクアウト用に生み出された『HEY! バインミー』は大ヒット
――テイクアウトの商品開発に専念できたことがヒットの理由だと。
鳥羽:レストランの料理をそのままテイクアウトにしてもおいしくない。だからテイクアウトに合う料理を研究しました。途中から発売した【sio】の世界を自宅で楽しんでもらう『sio贅沢弁当』は研究の集大成です。時間がたってもおいしさをいかにキープするか。水分を出さない、味うつりしない、持続する彩りの美しさ。3週間家にこもって追求しました。日頃から若手に現場を任せ、自分がいなくても営業できる状況をつくっていたので実現したことです。
『sio贅沢弁当』。14種類の小さな料理に鳥羽シェフの技術を結集
――レシピで【sio】を知り、バインミーを買いに来て、贅沢弁当を知って食べ、今度はお店に行きたい!と新規顧客の循環ができた。
鳥羽:まさにそうです。「幸せの分母を増やす」ことを広げた結果、新たな循環が生まれ、予約がいつも以上に入るようになりました。目指すのは、料理界のキング・オブ・ポップ――「幸せの分母を増やす」がやはり基本なんですね。
クリエイティブディレクターの水野学さんから「くまモン」は版権フリーだと聞き、料理で幸せの分母を増やせば利益は自然とついてくると気がついた。もう一つ、水野さんから「かっこいいデザインは誰でもできる。でも、みんなが好きな〝ポップ〞が最高なんだ」と聞いた時、ピンときた。僕は、料理界のキング・オブ・ポップになる!と、その時に思いました。
――丸の内の【o/sio】は、〝ポップな店〞の具現化ですか?
鳥羽:そうですね。ナポリタンや唐揚げといった誰もが好きなメニューをポップに料理しています。将来的には全国展開もしたい。「幸せの分母を増やす」最終形はファミレスです。
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「丸の内ブリックスクエア」内にある【osio(オシオ)】
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誰もが気軽に楽しめるナポリタンや、ランチにはカレーも提供
――ファミレス! 楽しそうです。
鳥羽:ファミレスをやるためには、来年仲間のシェフ3人とやる店で二つ星を取り、その後N.Y.に行って、世界で評価されるガストロノミーをやり、帰国してファミレス経営という青写真があります。来年1月オープン予定の店は新しい日本料理=〝民芸〞がテーマ。ジャンルを超えた〝おいしい〞今の時代の日本料理を提案する予定です。
撮影/石井宏明 取材・文/山路美佐(ヒトサラ副編集長)
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