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発表!2019年「世界のベストレストラン50 」No.1は仏【ミラズール】、日本からは2軒がランクイン。世代交代を印象づける結果に

2019年6月25日「世界のベストレストラン50」の授賞式が、シンガポールのマリーナベイ・サンズで行われました。初のアジアでの受賞式開催、さらには、過去1位だったレストランが殿堂入りとなり、ランキングからはずれるなど多くの変化があった今年。注目を集めるなか、その速報と発表されたリストから見える、世界のレストランのムーブメントを、現地シンガポールよりお届けします。

発表!2019年「世界のベストレストラン50 」No.1は仏【ミラズール】、日本からは2軒がランクイン。世代交代を印象づける結果に

今年の順位は大波乱?大きく入れ替わったTOP50

 今や、世界のレストランのトレンド指標となっているアワード「世界のベストレストラン50 」。今年の授賞式の舞台は初のアジア。シンガポールのマリーナベイ・サンズで行われました。その新しい開催地の空気感を象徴するように、授賞式の順位は今までにない大きな変化がありました。

    会場となったのは、シンガポールの象徴・マリーナベイ・サンズ

    会場となったのは、シンガポールの象徴・マリーナベイ・サンズ

 まず、過去歴代の1位を獲得したレストランには『Best of Best』という称号が与えられ、いわば殿堂入りとなり、リストから外されることが発表されました。これは、固定しがちな上位入賞のレストランをもっと流動的にすることで、順位を活性化するようにと設けられたルール。これにより、新しいレストランが入賞するチャンスが実質増えることになります。

 そうした流れのなか、スペインの【アルサック】が44位から52位、ペルーの【アストリッド・イ・ガストン】は39位から67位、イギリスの【ディナー・バイ・ヘストン・ブルメンタール】は45位から83位にと、50位以内をキープしていた大御所のレストランが順位を落とす結果に。一方、12軒の新しいレストランが50位以内にランクイン。実に25%近くが新しい顔ぶれとなり、世代交代を印象づける順位となりました。

    一気にランクアップした、モスクワの【ツインズガーデン】セルゲイ・べレズツキーとイワン・べレズツキーシェフ

    一気にランクアップした、モスクワの【ツインズガーデン】セルゲイ・べレズツキーとイワン・べレズツキーシェフ

 初登場12軒のなかで、2位に輝いた新生【noma】が「ハイエストニューエントリー賞」を獲得しましたが、個人的に注目したのは、72位から19位にジャンプアップしたロシアの【ツインズガーデン】。ウラジミール・ムーヒンシェフが率いる【ホワイトラビット】に続く、モスクワから二軒目となるエントリーです。シェフは、イワンとセルゲイの双子のシェフ。モスクワ郊外に自社畑を持ち、その野菜を中心に生み出されるクリエイティブなテイスティングメニューが評判に。彼らの登場は、今までに美食のイメージが少なかったモスクワに光があたりつつあることを示しています。

日本の最高位【傳】は11位。「Art of Hospitality賞」も受賞

 注目の日本勢は、2軒がランクイン。

【傳】が17位から11位にランクアップ、さらに「Art of Hospitality賞」を受賞しました。

 長谷川在祐シェフは「【傳】が力を入れて伝えてきた『おもてなしの心』がアジアを超えて世界にも伝達し、評価されたと感じて素直にうれしい」とコメント。以前インタビューしたときにも話していた「日本料理の根底にある、”人を楽しませる”という部分を自分なりに追求し、世界の人たちに伝えたい」という彼の思いが、アジアを超えて世界に伝わった証の賞となりました。

【NARISAWA】は入れ替わりの激しかった今回のリストの中でも前回と同順位の22位と健闘。長きにわたり、世界の人々に愛されている安定感を感じます。

    おなじみとなった、チーム傳の面々。司会者から看板犬「プチ」の紹介も

    おなじみとなった、チーム傳の面々。司会者から看板犬「プチ」の紹介も

「World's Best Female chef賞」は史上最年少28歳の女性シェフ

 そして、会場でもひときわ輝いていたのが、28歳最年少で「ベスト女性シェフ賞」を受賞したニューヨーク【コスメ】のダニエラ・ソト=イネスシェフ。「世界のベストレストラン50 」の常連でもあるメキシコの人気店【プジョル】のエンリケ・オルベラ氏の信頼を受け、ニューヨークの彼の店【コスメ】のシェフとなり、2016年25歳でジェームス・ビアード賞の『ライジングスター賞』を受賞した才女。若くて、女性、さらに移民というかつての料理界では成功が難しかった条件をものともせず、現場をまとめあげるその姿は、現代の新しいシェフ像のアイコンといえるでしょう。

    “とても緊張している”と28歳らしいチャーミングなスピーチで会場を沸かせたダニエラ・ソト=イネスシェフ

    “とても緊張している”と28歳らしいチャーミングなスピーチで会場を沸かせたダニエラ・ソト=イネスシェフ

 さらに、今年はスペイン勢がいつにも増して強かった。10位から3位にあがった【アサドール・エチェバリ】、「ハイエストクライマー賞」を受賞した【アスルメンディ】、初登場【ネウラ】、【エルカノ】はいずれも、去年の「世界のベストレストラン50」受賞式の開催地ビルバオから行ける距離にあるレストラン。世界のフーディたちが授賞式に参加する前後に現地の評判の店を訪れて投票した結果が反映されたと想像できます。

    スペイン・バスク【アスルメンディ】のエネコ・アチャシェフ

    スペイン・バスク【アスルメンディ】のエネコ・アチャシェフ

2019年、1位になったのは、フランス・マントンの【ミラズール】

 そうした中で、今年1位に輝いたのは、去年、3位だったフランス【ミラズール】でした。

 去年1位のイタリア【オステリア・フランチェスカーナ】、2位スペイン【エル・セジェール・カンロカ】がともに殿堂入りした今年、【ミラズール】が1位となったのは予測の範囲といえるかもしれません。

    1位になり、喜ぶミラズールチーム

    1位になり、喜ぶミラズールチーム

 しかし、アワード発足以来、ひそかに”ミシュランに対抗して”生まれたとささやかれている「世界のベストレストラン50」において、フランスのレストランが1位を獲得するのは、実は初めてのこと。フランスにとってはある種の“アウェイ感”もあるこのアワードでトップとなった【ミラズール】マウロ・コラグレコシェフは、去年のミシュランでも初めて三ツ星を獲得した実力と自由な表現力でフランスに1位をもたらしたのです。

 1位として名前が呼ばれたとき、マウロ・コラグレコシェフが、チームとともに一枚の大きな布をもって壇上にあがったシーンは印象的でした。彼らが手に持っていたのはシェフの生まれ故郷であるアルゼンチン、妻の故郷であるブラジル、チームの半数以上の出身地であるイタリア、そしてもちろん、レストランのあるフランスと4つの国旗を縫い合わせた一枚の国旗。

  • 4つの国旗を一枚にした旗をつくった【ミラズール】チーム

    4つの国旗を一枚にした旗をつくった【ミラズール】チーム

 それをかかげながら、“国境を越えた自由・平等・友愛こそがフランスの価値であり、【ミラズール】であり、料理に対するフランスの新しいアプローチそのものなのだ、とコメント。そして、「僕は世界のどのシェフにも愛、感謝、敬愛を示したい。なぜなら私たちはお互いを愛さなければいけないから、共有をして国境や障壁を超えていかなければいけないから。僕は、国境は存在しないと信じている。みなさんを愛しています」と、謙虚な言葉で締めくくりながらも、自分たちの多様性、自由な表現が、世界に認められたうれしさを滲ませました。

 今回の入賞レストランの顔ぶれからも、「世界のベストレストラン50」では、今までの慣習や考えた方にとらわれず、料理界に新風を吹き込み、多様性を尊重し、料理界の未来を考え、自分らしく輝くシェフが率いるレストランが上位に入る傾向がはっきりと見て取れます。

    上位の3か国以下は、ほぼ拮抗している様子だということが一目瞭然。(出典:「The World's 50 Best Restaurants」リリース)

    上位の3か国以下は、ほぼ拮抗している様子だということが一目瞭然。(出典:「The World's 50 Best Restaurants」リリース)

 今年、50位以内にエントリーした国は全26か国。そのなかでもスペインの7軒、アメリカの6軒、フランスの5軒の上位3か国以降はほとんどが1軒~2軒のエントリーで横並びの状態です。ここからどう一歩抜け出すか、1レストランのみならず、国をあげて考える動きもますます活発化していくでしょう。

 今回殿堂入りした、過去1位に輝いたレストランは、そのレストランがあることによって自国に“食”を目的とした多くの観光客たちを呼ぶことができることを証明してみせました。そうした事実をふまえ、“食”を魅力ある観光の一コンテンツにしようと今後ますます各国、拍車がかかってくることが予想されます。

 先日、佐賀県が来年の3月に、「世界のベストレストラン50」のアジア版、「アジアベストレストラン50」の授賞式を武雄市で行うと発表しました。このイベント招致により、日本が現在の位置から来年一歩抜け出せるか。ますますその動向に目が離せません。

「世界のベストレストラン50」ランキング

2019年の順位は以下の通り

1位【Mirazur】マントン フランス ※ヨーロッパNo.1
2位【Noma】コペンハーゲン デンマーク ※new entry No.1
3位【Asador Etxebarri】アトクソンド スペイン
4位【Gaggan】バンコク タイ ※アジアNo.1
5位【Geranium】コペンハーゲン デンマーク
6位【Central】リマ ペルー ※南アメリカNo.1
7位【Mugaritz】サン・セバスチャン スペイン
8位【Arpège】パリ フランス
9位【Disfrutar】バルセロナ スペイン
10位【Maido】リマ ペルー

11位【傳】東京 日本 ※art of hospitality
12位【Pujol】メキシコシティー メキシコ ※北アメリカNo.1
13位【White Rabbit】モスクワ ロシア
14位【Azurmendi】ララベツ スペイン ※westholme highest climber
15位【Septime】パリ フランス
16位【Alain Ducasse au Plaza Athénée】パリ フランス
17位【Steirereck】ウィーン オーストリア
18位【Odette】シンガポール
19位【Twins Garden】モスクワ ロシア ※new entry
20位【Tickets】バルセロナ スペイン

21位【Frantzén】ストックホルム スウェーデン ※re-entry
22位【Narisawa】東京 日本
23位【Cosme】ニューヨーク アメリカ
24位【Quintonil】メキシコシティー メキシコ
25位【Alléno Paris au Pavillon Ledoyen】パリ フランス
26位【Boragó】サンティアゴ チリ
27位【The Clove Club】ロンドン イギリス
28位【Blue Hill at Stone Barns】ポカンティコ・ヒルズ アメリカ
29位【Piazza Duomo】アルバ イタリア
30位【Elkano】ゲタリア スペイン ※new entry

31位【Le Calandre】ルバーノ イタリア
32位【Nerua】ビルバオ スペイン ※new entry
33位【Lyle‘s】ロンドン イギリス
34位【Don Julio】ブエノスアイリス アルゼンチン ※new entry
35位【Atelier Crenn】サンフランシスコ アメリカ ※new entry
36位【Le Bernardin】ニューヨーク アメリカ
37位【Alinea】シカゴ アメリカ
38位【Hiša Franko】コバリード スロベニア
39位【A Casa do Porco】サンパウロ ブラジル ※new entry
40位【Restaurant Tim Raue】ベルリン ドイツ

41位【The Chairman】香港  ※new entry
42位【Balcanto】リスボン パタゴニア ※new entry
43位【Hof Van Cleve】クライスハウテム ベルギー ※re-entry
44位【The Test Kitchen】ケープタウン 南アフリカ ※アフリカNo.1
45位【Sühring】バンコク タイ ※new entry
46位【De Librije】ズウォレ オランダ ※re-entry
47位【Benu】サンフランシスコ アメリカ ※new entry
48位【Ultraviolet by Paul Pairet】上海 中国
49位【Leo】ボコタ コロンビア ※new entry
50位【Schloss Schauenstein】フュルステナウ スイス ※サスティナブルレストランアワード

日本勢のランキングはこちら

第11位【傳】※art of hospitality
第22位【Narisawa】
第62位【日本料理 龍吟】
第63位【Florilege】
第91位【鮨さいとう】
第93位【La Cime】
第107位【Il Ristorante LUCA FANTIN】
第120位【sugalabo】

「世界のベストレストラン50」の選出方法

2019年『世界のベストレストラン50』は世界26の地域から選出される、食のエキスパート1040人の投票者によって選ばれた。2019年は25%の投票者が新たに加わり、一人の持つ票は10票。うち6票は自国のレストランに投票できるが、4票は他国にいれなければならない。各地域の投票者は男女同割、シェフ、フードライター、フーディーズそれぞれ3分の1ずつで構成される。

この記事を作った人

山路美佐(ヒトサラ副編集長)

総合商社に入社するも食への探究心を抑えきれず、イタリアに短期料理研修へ。帰国後「家庭画報」ほかの雑誌で食・旅・アートの編集を長く担当。美味探求の旅は30カ国、150都市以上。国内外のトップシェフたちへのインタビューを中心に、食やレストランの取材を続ける。

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