国内最年少でミシュラン三つ星取得【虎白】小泉氏が選ぶ日本酒5選|SAKENOMY
全国1300軒を超える酒蔵や数万を超える日本酒情報をお届けしている、日本酒ソムリエアプリ「SAKENOMY」。日本酒をよりおいしく、楽しんで欲しいと、飲食店のプロが日本酒と料理の合わせ方のコツを提案。今回は【虎白】の小泉瑚佑慈さんが登場。日本料理の基本に軸足をおきながら、キャビアやトリュフといった洋の食材も自由闊達に取り入れる名手が考える料理と日本酒の組みあわせをご提案いただきました。
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『赤座海老の炙り 木の芽の香りを添えて』 × 「冩樂 純米吟醸 夏吟うすにごり」
『柚子のジュレ キャビア添え』 × 「磯自慢 大吟醸 水響華」
『賀茂茄子 山椒餡』 × 「ばくれん 吟醸 超辛口 赤」
『鱧の昆布落とし』 × 「鍋島 雫しぼり 大吟醸」
『アワビの肝ソース』 × 「鄙願 大吟醸」
【虎白】
日本料理の名店として知られる神楽坂『石かわ』の石川秀樹氏に師事し、2008年に同じ神楽坂で『虎白』を任された小泉瑚佑慈さん。2015年に国内最年少でミシュランの3つ星を獲得して大きな話題を集めたが「驕らず、弛まず」の精神で日本料理の深化を追い求め、40歳を超えてからはますます円熟味が増してきたと評判だ。
石川氏に店を任されたときから変わらずに根底にあるのは「日本料理の基盤や伝統を守りながら、自分の仕事をする」ということ。
『虎白』では、夏のスペシャリテの若鮎 トリュフソースに代表されるように、コースには洋の食材を使った料理が組み込まれるが、そこには「進化なくして発展なし」という小泉さんの料理と向き合う姿勢が表れている。
「いまでこそ日本料理にキャビアやトリュフを使う店はめずらしくなくなりましたが、最初の頃はいろいろなご意見をいただきました。ただ、日本料理がここまで受け継がれてきたのは“正統”を刷新してきた先人の知恵や努力のおかげでもあると思っています。ただし、あえて日本料理で洋の食材を使うのであれば、それ相応の理由がなくてはならない。たとえば『虎白』のスペシャリテと言っていただくことも多い若鮎とトリュフソースは、鮎のやわらかい苦みとサマートリュフの香りを楽しんでもらうための一品で「鮎はやっぱりシンプルに塩焼きにしたのを蓼酢で食べるのが一番」というお客様にも納得してもらえる料理に仕上げなければ意味がない。」
「『虎白』では日本料理でもっとも大切なのは“水”であると考えているのですが、それは日本料理の基礎をなす出汁を何よりも大切にしていることと同時に、水のようにさらりと清らかな料理をお出ししたいという思いもあるんです。その思いもあって僕がお酒を料理に合わせるときに基準としているのは味の透明感。もちろん、鼻に抜ける香りが立ちすぎていないか、口に含んだときの甘さや旨み、酸味のバランスはどうか、味のキレ具合や余韻の長さなど、トータルで判断をしますが、いまの自分の料理に合わせたいのは清らかなタイプのお酒です」
「日本料理は季節の移ろいを楽しむものでもあるので、夏はほどよく酸があり、キレがよいタイプ、秋は松茸などにも合う熟成感とフレッシュさを持ち併せたタイプ、冬は鴨などの油分の多い食材が増えてくるので、同じようにアタックが強く、旨みが濃いタイプなど、お客様にはその季節ならではの料理と日本酒の組み合わせを提案させていただいています」。
1.『赤座海老の炙り 木の芽の香りを添えて』 × 「冩樂 純米吟醸 夏吟うすにごり」
「赤座海老のねっとりとした甘みを生かすようにレア状に火を入れ、木の芽の溌剌とした香りとほんのりした苦みをアクセントにしました。冩樂はもともと大好きなお酒ですが、夏用に仕込んだという「純米吟醸 夏吟うすにごり」は、澱をからめているため、しっかりした米の旨みやコク、果物のようなフレッシュな酸が感じられます。キレがよく、食中酒としても飲み飽きないのが魅力。お酒自体の味わいがとても深いので、赤座海老のような風味が濃い食材との相性も抜群です」(小泉さん)
2.『柚子のジュレ キャビア添え』×「磯自慢 大吟醸 水響華」
「出汁に夏の爽やかな青柚子を合わせて涼感のあるジュレに。キャビアの塩味とジュレの繊細なハーモニーを感じていただきたいので、吟醸香がしっとりおだやかな磯自慢の「水響華」を選びました。上品な甘みや果実のような風味も舌に心地よく、口に含むと三紫水明という言葉が思い浮かぶような清く美しいお酒。味を合わせるだけではなく、器のあしらいのイメージに重ねて日本酒を選ぶのも楽しいと思います」(小泉さん)
3.『賀茂茄子 山椒餡』 × 「ばくれん 吟醸 超辛口 赤」
「米油と胡麻油をブレンドし、低温で火を入れた茄子のジューシィな甘みを引きたてるのは、ピリリと上品な辛みを残す山椒餡。塩で味を整えた出汁に実山椒を加えた繊細な風味は「ばくれん 吟醸 超辛口」のキレ味が心地よく合わさります。脂がのった魚のお造りや油を使った料理との相性のよさがとくによく、口のなかに残る油分をすっと切ってくれるので、野菜や魚などの揚げ物に合わせるのにぴったりだと思います」(小泉さん)
4.『鱧の昆布落とし』 × 「鍋島 雫しぼり 大吟醸」
「夏の訪れを感じさせる鱧は、昆布出汁を濃いめにひいてから塩で味を整えて湯引きにします。出汁の豊かな旨みと鱧のほっくりとした食感を楽しんでいただきたいので、お酒も同じようなニュアンスを感じるものを選びたい。鍋島の「雫しぼり 大吟醸」は、おだやかな甘みを豊かな酸が引きたてており、お酒単体で飲んでも完成されている印象がありますが熟成によってまろやかな口当たりに仕上がっているのでしみじみとした旨さがある。そこに出汁の風味を重ねることで、馥郁とした香気が生まれます。やさしい出汁というよりは、風味の輪郭がはっきりとした出汁に合わせたいお酒です」(小泉さん)
5.『アワビの肝ソース』 × 「鄙願 大吟醸」
「鄙願のお酒は、春は時分の花、夏は打ち水、秋は程々とそれぞれ季節ごとの名前が付けられているのも粋。2~3時間かけて蒸したアワビは、肝を裏ごしし、その際に卵黄と出汁で湯せんをしているので風味がまろやか。アワビのふんわりとした磯の香りと柔和さのあるお酒がぴたりと寄り添います。上立ち香も上品で主張しすぎず、後味にひかえめな酸を感じるので、どんな料理にも合わせやすいと思います」(小泉さん)
「日本酒づくりにおいても、米洗いにはじまり、漬けこんで米に水分を吸わせたり、お酒のアルコール度数を調整するために加水をするなど、水は大切な原料です。僕は清澄な水のような日本料理が志としてあるので、その料理に寄り添うような日本酒に出合うと心が強く惹きつけられます。いきいきとした米の旨みを感じられる清らかなお酒を味わうと、これにはどんな料理が合うだろうと想像力がかきたてられます。伝統を重んじながらも改革を恐れず“清らかさ”を追求しているお酒には、どこか同志のような親近感がわくんです」
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取材・文:小寺慶子 画像提供:小寺慶子、虎白
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